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ウィズ/アフターコロナ時代のDX活用:xRを活用したオフィス環境構築の可能性

2020年08月31日 通信メディア・ハイテク戦略グループ 小竹庸平


要旨
●新型コロナの影響により、様々な企業でテレワークやリモートワークの導入が推進されている中で、xR(AR/VR/MR)の活用に注目が集まっている。
●xR活用の短期的なアプリケーションとしては、コミュニケーション、教育・訓練、検査などが注目されている。また、中長期的にはxRを用いてバーチャルなオフィス環境を構築することで、リモートワーク・在宅勤務で課題となっているスペースや二重投資といった課題の解決だけでなく、生産性を大幅に向上させる可能性も期待されている。


はじめに
 新型コロナの影響により、対面を前提としていた市場(飲食、観光、ライブをはじめとしたエンタメ等)が急速に縮小し、また、様々な企業でリモートワークが前提となる中で、xR(AR/VR/MR)の活用に注目が集まっている。一般的に企業におけるxRの活用では、xRを用いたサービス提供(バーチャル空間でのサービス提供)、コミュニケーション、教育・訓練、検査などが注目されている。
 しかしながら、本稿では、少し視点を変えて、xRを活用したオフィス環境構築の可能性について考えてみたい。

国内のリモートワークの推進状況
 新型コロナの影響によってリモートワークの導入が一気に進んだと言われているものの、東京商工リサーチが7月14日発表した調査結果では、緊急事態宣言解除後、「現在でもリモートワークを実施している企業」は31%に留まり、「現在、リモートワークを実施していない企業」が69%となっている。69%の企業のうち、42%は「そもそもリモートワークを実施していない企業」であり、27%は「新型コロナの影響によりリモートワークを実施したが取りやめた企業」となっている。つまり、緊急事態宣言中は約58%の企業がリモートワークを実施したものの、緊急事態宣言解除後たった1カ月で半分近くの企業がリモートワークを取りやめた形となっている。そのため、さらなる時間の経過により、今後、リモートワークを取りやめる企業は増えると思われる。
 日本企業においてリモートワーク導入の課題として、様々な記事やレポート等で挙げられているが、それらは大きく次の五つにまとめられる。
①リモートワークに対応した勤怠管理・給与管理・人事評価の整備
②リモートワークに対応した業務プロセス・フローの整備
③情報セキュリティ対策
④通信環境やクラウド環境(データ共有基盤)の整備
⑤部屋、机、椅子、照明、物理的環境の整備
 ①~④の課題については、企業側の課題であり、リモートワークの導入企業が増えていく中で成功例が生まれ、それが普及していく中で解決されたり、情報通信技術の発展により解決されたりすると考えられる。
 一方で、⑤の課題については、企業側の問題もあるものの、従業員の居住環境の問題も関わるものであり、なかなか解決が難しい。⑤の課題解決のために、クックパッドでは、新型コロナの対策のために2020年2月末に在宅勤務の延長が決定された段階で、オフィスチェアやデスクを会社負担にてレンタルし、各家庭に配送するという取り組みや希望者に対してオフィスで利用しているモニターを各家庭へ配送するという取り組みを行い、各家庭でオフィスに近い環境をつくることができるようにサポートしている。しかしながら、このような取り組みもオフィスチェアやデスク、ディスプレイを配置可能なスペースが自宅に無いとせっかくの設備も宝の持ち腐れになってしまい、首都圏の多くの家庭では新たなチェアやデスク等を置くスペースがない可能性が高い。また、⑤の課題解決の手段として、シェアオフィスなどの活用も考えられるものの、シェアオフィスの場所やキャパシティは限られており、⑤の課題を完全に解決できるとはいい難い。
 そこで⑤の課題解決の手段として、xRを活用したオフィス環境構築による解決の可能性について考えてみたい。

xRを活用したオフィス環境構築の可能性
 xRを活用したオフィス環境構築の事例として挙げられるのは、シティグループが開発した、マイクロソフトのHoloLens(ホロレンズ゙)を利用した株式取引システムである。このホロレンズを装着すると、バーチャル空間上に、複数のディスプレイが表示され、そのディスプレイ内に最新の株価情報や取引データが表示される。
 上記のような取り組みは他の企業などでも見られており、xRを活用したオフィス環境構築のメリットとしては、次のようなことが考えられる。
・物理的なスペースや物理法則の制約を無視したディスプレイや各種書類の配置が可能
・xR端末を装着すれば、慣れたオフィス環境の再現がいつでも可能
 これらのメリットを最大限活用すれば、前節で述べたリモートワークが進まない課題の1つである「⑤部屋、机、椅子、照明、物理的環境の整備」を解決可能だと思われる。つまり、xRを活用したオフィス環境構築を用いたリモートワークであれば、長時間着座可能な椅子と両手を伸ばせるスペースさえあれば、作業者が望むオフィス環境をバーチャル空間上に構築し、リアルのオフィスと同様の効率性で作業を実施できる可能性が高い。
 また、将来的にはxR端末を通して、作業者の脳波や視線等を取得できることも十分に考えられ、それらの情報を基にAIを用いて作業者の集中力や作業の癖等を把握して、より効率的に作業が可能なオフィス環境を構築することも考えられる。

xRを活用したオフィス環境構築におけるビジネスチャンス
 前節で述べたようなxRを用いたオフィス環境の構築については、試験的な事例は既にいくつか存在する。しかし、実用レベルで広く利用されるためには、常用できるほどに装着しやすく、電力消費も抑えられた端末の開発のほか、マウスとグラフィック・ユーザー・インターフェースに匹敵するようなHMD向け入力方法の革新が必要とされる。これらが実現するまでには5年~10年程度の月日を要する可能性があり、即座に具体的なビジネスになるとは考えにくい。
 そのため、各企業がxRを用いたオフィス環境の構築の導入について本格的に検討する必要性は少ないものの、シティグループの事例のように、企業にとって付加価値の高く、かつ、バーチャル環境での作業が大幅に生産性を向上させる可能性のある業務に対しては試験的に導入する価値はあると考えられる。また、シェアオフィスやビジネスホテル、漫画喫茶など、新型コロナの影響下においてリモートワークの場所として活用された業態にとっては、先行的にxR端末を活用した作業環境を提供することで、プロモーションの一環になったり、将来的な差別化の布石となったりする可能性も存在している。また、xRの端末開発やソリューションの開発については、マイクロソフト、フェイスブック、アップル、グーグルなどが取り組んでおり、数年後には状況が大きく変わっている可能性も高く、状況を注視しておく必要がある。

おわりに
 本稿では、新型コロナの影響により、多くの企業でリモートワークでの勤務が導入される中で、xRを活用したオフィス環境構築の可能性について分析を行った。xRを活用したオフィス環境構築により、日本企業におけるリモートワーク導入の課題の1つである「⑤部屋、机、椅子、照明、物理的環境の整備」を解決できる可能性が高い。ただし、実用レベルで利用するためには5~10年程度の月日を要する可能性が高いため、直近では、xRを用いたオフィス環境の構築の導入について本格的に検討する必要性は少なく、シティグループの事例のように付加価値が高く、大幅に生産性を向上させる可能性のある業務に対して試験的に導入したり、シェアオフィスやビジネスホテル、漫画喫茶などがプロモーションの一環や将来的な差別化の布石として実施したりすることが現実的だと考えられる。
 一方で、著者の共著「変革のテクノロジー」で述べたように「xRはこれまでにない新たなインターフェースとなりうるものであり、企業の生産性の大幅な向上、幅広く日常生活や企業活動全般の中で利用される可能性があり、様々な産業や社会全体に大きな影響を与える可能性が存在している」。そのため、リモートワークの導入をきっかけに、企業側が自社業務におけるxRの活用可能性を検討し、試験的にでもxR活用の取り組みを行うことが重要ではないか。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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