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【農業】
生産者と消費者をつなぐEC販売

2020年08月18日 多田理紗子


 新型コロナウイルスは、我々の生活様式を大きく変化させた。同時に、農林水産物の生産者にも大きな影響を与えている。様々な活動自粛で飲食店やイベント向けの食材の需要が落ち込み、これまで食材を提供してきた生産者の売上減少、在庫の滞留といった問題が深刻化している。農林水産物は、計画・生産開始と収穫・販売のタイミングが異なる。想定より需要が大きく減少した場合でも生産量を急に変更することができず、また生産されたものを在庫として保管できる期間が短いため、受け入れ先が見つからなければ廃棄せざるを得ない。

 行き場を失くした農林水産物の消費を促すものとして、インターネットを介した販売(以下、EC販売)が注目されている。緊急事態宣言が発令された4月頃から、インターネット上で「買って応援」「食べて応援」といったフレーズを目にすることが増えたように思う。家庭で調理する機会が増えたことをきっかけにこだわりの食材を調達したり、飲食店での食事や旅行先を自粛する代わりに自宅で地域の特産品を購入したりと、自粛生活が続く中で消費者がECでの食料品購入に新たな楽しみを見いだしている側面もある。

 こうした流れを受け、農林水産省も支援に動き出した。農林水産省は、国産農林水産物の販売促進を目的として「#元気いただきますプロジェクト」を実施している。支援プログラムの一つである「インターネット販売推進事業」は、特にインバウンド消費が期待されていた品目を対象に、農林水産物のEC販売に際して配送費を補助するものである。近年インバウンド観光客による農林水産物消費が好調に伸びていたため、訪日外国人数の激減によるダメージは大きい。本事業により6月22日から外国人観光客に人気だった特定の品目、例えば和牛肉やいちご等の配送費が無料となっており、農林水産物のEC販売をどこまで後押しできるか注目される。

 これまで、食料品のEC販売化は困難であるという見方が強かった。経済産業省の電子商取引実態調査によれば、2019年の国内のEC販売化比率(全ての商取引金額に占める電子商取引市場規模の割合)は、物販分野全体の平均で6.76%となっているのに対し、「食品、飲料、酒類」ではわずか2.89%に過ぎないとされてきた。この背景には、「食料品は自分の目で見て選びたい」という消費者のニーズがあると説明されてきた。また、一般的に食料品は購入頻度が高い上に1回あたりの購入金額が小さい。冷蔵対応が必要なことも多く、購入頻度・金額に対する配送料の高さが食料品のEC化の障壁だとも指摘されていた。

 一方で生産者の側から見ると、EC販売を活用した消費者への直接販売はメリットが大きい。ECサイトに参加登録する際の利用料は発生するものの、中間業者の存在が圧縮され、生産者の手取り分が増加する。また、自らのファンとなってくれる消費者が増えれば、モチベーションが向上するとともに、定期的な購買が見込まれ経営が安定する。消費者への直接販売を促進するサービスはコロナウイルスの発生以前から、既にいくつかのECサイトで提供されており、着実に利用者を増やしてきた。消費者が商品を実際に目で見ることができなくても、商品情報と生産者の想い・こだわりを詳細に掲載し、安心して購入できるように工夫も凝らされている。また、生産者と消費者のコミュニケーションを促進してお互いの顔が見える関係を築くサービスもあり、支え合いの意識も高まってきた。新型コロナウイルスの影響下、こうしたECサイトが改めて注目されている。

 「配送費が無料」「新型コロナウイルスで困っている生産者を応援できる」は、EC活用の一つのきっかけになる。これを機に農林水産物の産地に想いを馳せる消費者が増えれば、仮に配送費無料期間が終了したり、あるいはコロナウイルスが収束したりした後も、生産者と消費者がつながり支え合うという潮流が続くだろう。

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※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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