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アジャイル開発の舞台としての中国市場の意義

2020年08月18日 七澤安希子


 近年、ブレグジット実現、米中貿易摩擦激化、デジタル技術の進展、感染症拡大、気候変動の物理影響顕在化と、ビジネスを巡る外部環境が急激に変化しつつある。サプライチェーンや人の働き方・移動手段等の前提条件がダイナミックかつスピーディーに変化しており、それらを支える制度、インフラといった社会システムも、世の中の変化の大きさとスピードに柔軟かつ迅速に対応することが求められはじめている。新たな社会システムを構想する際に重要なのは、ソフトウェアのアジャイル開発のように、社会システムも構築の途中で仕様の変更や追加が予想されることを前提として、アジャイルに開発していくことだろう。最初から、全体を完璧に設計してしまうのではなく、優先度の高い要件から順に開発をし、行きつ戻りつを許容する、複数の代替案を準備しておくなどが鍵となる。

 日本では、これまで、反対意見を押し切るような手法を避け、丁寧な合意形成に基づいて、無謬性を第一として社会システムを構築してきた。このため、社会システムの構築、整備にアジャイル開発を取り入れることは容易ではない。他方、まさにその考えを取り入れ、実行しているのが現在の中国だ。例えば、新型コロナウイルス感染症対策では、まずは感染経路を突き止めるため、建物の入退室をQRコードで管理し、個々人の行動経路や陽性者との接触有無の情報を収集・分析する情報基盤をいち早く導入した。その成果が一定程度確認されると、今度は感染拡大に伴う重症患者の増加を防ぐため、陽性者の状態に合わせた最適な対応策を講じられるよう、服薬情報や医療体制状況等の情報も加えるアップデートが重ねられていった。常に変化する社会情勢に合わせ、柔軟かつ迅速にシステムを構築していこうとする中国の長年の知恵が活かされた結果とも言えるだろう(もちろん、個人情報保護等の問題はあるが)。

 中国は今、新たな社会システムの構築およびその高度化に必要な先進技術を世界中から取り入れることに極めて積極的だ。だとすれば、日本企業は、日本国内で早期の実装が難しい社会システムを、中国市場という場を借りながら先行的にアジャイル開発を行い、その成果を共有・知見を蓄積していく、といったことの可能性を探ってみてはどうだろうか。ビジネス分野に限れば、日本企業にとっての中国市場の意義が、今後も消失することはないと私は考えている。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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