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企業の生物多様性依存度、事業リスク、インパクトの分析と情報開示を求める声

2020年08月13日 高橋沙織


 前回のオピニオンでも紹介した、「2030年に向けたEU生物多様性戦略(EU biodiversity strategy for 2030)」が2020年5月に発行されて以降、海外では、企業の生物多様性への依存度のほか、事業リスク、生物多様性への負のインパクトについて、分析と情報開示を促進する動きが相次いだ。コロナ不況からのリカバリー戦略の目玉の一つとして、欧州では、生物多様性の「保護」「持続可能な管理」「再生」に対する経済的なインセンティブを検討する方針である。生物多様性を損失することに対する危機感や、それを持続的に活用することに対する意欲が、世界的な高まりを見せているといえる。

 2030年に向けたEU生物多様性戦略においては、まず、生物多様性損失に直接的に影響する要因を5つ挙げている。それらは、①土地利用と海洋利用の改変、②乱開発、③気候変動、④(化学物質や汚染水などによる)環境汚染、⑤特定外来生物である。また、これらの要因を防止することを目的として、EU非財務情報開示指令の改訂を行い、企業に生物多様性関連の情報開示を求めていく方針である。本戦略に合わせて発行された現状分析資料には、生物多様性に大きく依存する業種として、農業関連事業、飲食料製造業、土木・建設関連業を挙げ、サプライチェーンにおいて依存度の高い業種を追加的に6業種(化学・材料製造、航空・旅行・観光、不動産、資源採掘・製鉄、運輸、小売)提示した。

 2020年7月には、企業の生物多様性依存度、リスク、企業活動の生物多様性へのインパクト(負の影響)を把握するための手法、評価指標、参照すべきデータを特定し、金融を生物多様性保全に振り向けることを目的として、Task Force for Nature-related Financial Disclosures (TNFD)の非公式ワーキンググループが発足した。日本企業にも活動が普及しているTCFDに類似する生物多様性版の取り組みとして認知されている。AXA、BNP Paribasといった欧州の金融メジャーに加えて、シンガポールの DBS Bank Ltd、南アフリカのFirstRand Group Ltd、インドのYes Bank、オランダの生協組合Coöperatieve Rabobank U.A.がリーダーシップを取っている。また、IFC、世界銀行、英国政府、スイス政府も検討を推進する。脱炭素化や気候変動政策をリードする欧州のみならず、アジアやアフリカ地域にまで広く危機感が募っており、事業活動における生物多様性に関連したリスク分析の要求が高まっていると言える。

 わが国においては、これまで生物多様性への企業対応は、CSRまたは善意の活動として推進されてきたように思う。他方で、政治的なリーダーシップや金融界からの情報開示要求に答えていくには、自社事業と生物多様性の関係性を改めて自社内で定義し、自社の事業が長期的な視座に立ち、持続可能であるのかを見極める必要がある。分析対象とすべき種や生態系の範囲や、自社事業の生物多様性への影響を測定するデータの所在等、一つ一つの手順を踏んで分析を進めていく必要があろう。まずは、自社事業と生物多様性の関わりについて、考えてみることが日本企業に求められる。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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