前回のオピニオンでも紹介した、「2030年に向けたEU生物多様性戦略(EU biodiversity strategy for 2030)」が2020年5月に発行されて以降、海外では、企業の生物多様性への依存度のほか、事業リスク、生物多様性への負のインパクトについて、分析と情報開示を促進する動きが相次いだ。コロナ不況からのリカバリー戦略の目玉の一つとして、欧州では、生物多様性の「保護」「持続可能な管理」「再生」に対する経済的なインセンティブを検討する方針である。生物多様性を損失することに対する危機感や、それを持続的に活用することに対する意欲が、世界的な高まりを見せているといえる。
2020年7月には、企業の生物多様性依存度、リスク、企業活動の生物多様性へのインパクト(負の影響)を把握するための手法、評価指標、参照すべきデータを特定し、金融を生物多様性保全に振り向けることを目的として、Task Force for Nature-related Financial Disclosures (TNFD)の非公式ワーキンググループが発足した。日本企業にも活動が普及しているTCFDに類似する生物多様性版の取り組みとして認知されている。AXA、BNP Paribasといった欧州の金融メジャーに加えて、シンガポールの DBS Bank Ltd、南アフリカのFirstRand Group Ltd、インドのYes Bank、オランダの生協組合Coöperatieve Rabobank U.A.がリーダーシップを取っている。また、IFC、世界銀行、英国政府、スイス政府も検討を推進する。脱炭素化や気候変動政策をリードする欧州のみならず、アジアやアフリカ地域にまで広く危機感が募っており、事業活動における生物多様性に関連したリスク分析の要求が高まっていると言える。