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RIM 環太平洋ビジネス情報 Vol.20,No.78

中国のオンライン教育の展開と今後の展望

2020年08月18日 藤田哲雄


中国では、2013年頃よりオンライン教育業界へのベンチャーキャピタルの投資ブームが始まり、多くのスタートアップ企業が同業界に参入した。教育分野へのベンチャーキャピタルなどの投資額は2010年の19億元から2018年には409億元にまで増加した。同市場は毎年20%超の成長を続けており、2019年には世界最大の市場規模となった。もっとも、2019年時点では、初等中等(K12)教育分野の割合は2割程度であり、その多くが学外利用であった。

新型コロナウイルス感染拡大防止への対応として、中国政府は2020年1月27日に全国の教育機関を対象に始業延期を通達し、その2日後の同月29日には、オンライン教育により「停課不停学(休校しても学習は続ける)」の方針を発表した。これと前後して、複数の民間企業からも、教育活動を支えるオンラインの動画プラットフォームや教育コンテンツの無償提供などが発表された。このように急遽、オンライン教育への体制が整えられ、全国で2億人以上の生徒がオンラインで教育を受けた。これを受けて、K12分野のオンライン教育市場のユーザーが急増した。

中国の農村部ではインターネット普及率が人口の半分にも満たないため、今般のオンライン教育の導入に当たっては、全国で教育テレビのチャンネルを活用して補完がなされた。また、教室などのオフライン授業をそのままオンライン化するのではなく、オンライン学習の特性に適応した内容や方法が模索された。5月に入ると学校へ復帰する動きが始まったが、今回の一斉オンライン授業の実施により、従来はやや慎重であった教育関係者の意識は大きく変化し、肯定的な評価が優勢となった。

中国政府は今回のオンライン教育の実験的導入に手ごたえを感じており、今後、K12教育においてもオンライン教育の活用を拡大し、オフラインとオンラインを融合させた新たな教育モデルへと移行するとみられる。学校教育におけるオンライン授業に期待される効果として、以下の2点が指摘可能である。第1は、最良の教育資源を共有することが可能となり、地域間格差の是正に役立つことである。具体的には、優れた教師の授業を、他の地域でも受講することが可能になり、国全体の教育レベルを引き上げることにつながる。第2は、カリキュラムのプラットフォームを整備することにより、学習活動、学習ステータス、学習効果などのビッグデータの収集、分析、処理が可能となり、一人一人に最適な教育方法を科学的に導き出すことが可能となる。このようにみると、今回の中国のオンライン教育「実験」の成功は、単なる教育市場の拡大のみならず、中国の将来の経済発展にも大きく貢献する可能性がある。

中国では10年以上にわたり教育情報化を着実に実行するとともに、その達成目標を技術進歩に応じて引き上げてきたが、このような周到な準備が、今回の一斉オンライン教育の成功につながった。一方で、わが国においては、一斉休校中に一部の自治体や学校がオンライン授業に取り組んだものの、全国一斉導入には程遠い状況である。わが国では教育情報化への取り組みは中国より早く2000年代から始まっているものの、ハードウェアの普及が焦点とされることが多く、情報化の目的、推進体制についての議論が乏しい。今後は、教育現場のサポート体制などきめ細かな体制整備を含めた計画と着実な実行に加えて、オンライン教育によりいかに教育の質を高めるかという議論が必要であろう。
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