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JRIレビュー Vol.9,No.81

「かかりつけ医」の制度化と定着・普及に向けて

2020年08月24日 飛田英子


新しい生活様式が求められるなか、体調不良時にはまず近所のかかりつけ医に相談するよう求められるなど、受診行動において「かかりつけ医」の役割が拡大。

「かかりつけ医」とは、①身近で何でも相談でき、②必要に応じて他の医療機関を紹介し、③介護や福祉と連携して患者の在宅生活をサポートする医師。このような医師の取り組みを普及するため、慢性疾患患者を継続的に治療する医師を報酬面で評価する仕組みの導入、既存医師に対する研修体制の整備、総合的な診療能力を有する新しい専門医制度の創設など、かかりつけ医機能の強化や人材の育成に向けた取り組みがこれまでに展開。
もっとも、わが国で患者にとってかかりつけ医は、現在、あるいは以前に診てもらった医師という素が強く、生活面を含めてサポートするというかかりつけ医の本来の機能がきちんと理解されているとはいいがたい状況。アンケート調査によると、3割以上が二人以上のかかりつけ医を抱えていると回答。

海外では、特定の医師をかかりつけ医とする制度が定着。例えば、ドイツでは2004年に「家庭医制度」、フランスでは2007年に「主治医制度」が導入。患者は、まず自分が選択した医師を受診し、必要に応じて他の専門医などの紹介を受ける。慢性疾患を抱えている場合には、生活指導を含めて総合的・継続的な治療が施される。制度への参加は任意であり、制度に従う場合には自己負担が軽減。なお、これら制度を担う医師の役割は法律や協約で規定されており、責任が明確な一方、登録患者数に応じて人頭的な報酬を受け取る。
現在、国民の9割以上が制度に参加。受診行動の適正化を通じた医療費抑制は確認されないものの、慢性疾患のコントロールや薬剤服用の適正化など、医療の質向上という効果の発現が指摘。

今後、高齢化や医療技術の高度化・複雑化、健康志向の高まりが進むなか、総合的・継続的に患者を管理するだけでなく、必要な医療サービスや在宅支援サービスを調整・誘導してくれる医師の存在は重要に。また、医療従事者の不足が懸念されるなか、一次医療をかかりつけ医、二次以降の医療を専門医や病院が担うという役割分担の明確化は、医療資源の有効活用という観点からも重要。このようにみると、わが国においても、ドイツやフランスのように特定の医師をかかりつけ医とする制度の導入を早急に検討すべき。
かかりつけ医制度が定着・普及するには、①現在曖昧なかかりつけ医の役割と責任を明確化する一方で、かかりつけ機能を報酬面で評価する仕組みの導入、②制度への参加は任意とし、あくまでフリーアクセスは堅持、③制度の導入はコスト抑制より医療の質向上を主眼とすべき、という視点が重要。かかりつけ医制度の普及は、今後需要拡大が見込まれるオンライン診療の環境整備という観点からも不可欠。
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