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CSRを巡る動き:スキルマトリックス公表企業数は昨年比2.5倍に

2020年08月03日 ESGリサーチセンター


 今年の株主総会シーズンにおいても、様々な特徴的な変化がありました。スキルマトリックス開示の浸透もその1つです。スキルマトリックスは、取締役会全体におけるジョブディスクリプション(職務明細書)の一覧性を高めるため、取締役およびその候補者が持つスキルを星取表の形で表現したものです。経営に必要な素養・経験を取締役会が網羅していることを投資家に示すために有効なツールとして注目を集めつつあります。幅広い業務を卒無くこなすジェネラリストばかりで取締役会を構成する代わりに、取締役会全体としてバランスを取りながら特定の分野に強みを持つスペシャリストを集めることで、様々なビジネス環境の変化に対して一層柔軟に対応できる、という考え方が背景にあります。

 日本では2015年コーポレートガバナンス・コード施行の翌年2016年に日本取引所グループで導入され、年を追うごとに公表企業数は増加しています。東証1部上場企業で時価総額上位500社のうち、49社がスキルマトリックスを公表しています。一部の大企業が決算発表および株主総会開催を延期しているものの、2019年の20社から約2.5倍となりました。またスキルマトリックスを公表している業種数も、東証33業種ベースで12業種から24業種に倍増しています。

 このようにスキルマトリックスは短期間で多くの企業に普及したものの、その内容には未だ改善の余地が大きいといえます。特に取締役が保有すべきスキルの特定とその理由について、企業は説明する必要があるでしょう。スキルマトリックスでは作成に当たって、取締役会が保有すべきスキルの特定が必要となります。その上で現状必要なスキルがどの程度取締役会で賄われているかを把握し、足りないものがあれば社内昇格もしくは社外の取締役候補の中から指名する、というプロセスを経るのが理想的です。

 しかし現在公表されているスキルマトリックスの多くでは、保有すべきスキルの特定は行われているものの、その理由説明が十分ではありません。このままでは再任予定の取締役の保有スキルを開示しているだけで、取締役会が保有すべきスキルを特定するプロセスが省かれていると誤解されかねません。今年からスキルマトリックスの公表を開始した企業の中には過去数年で品質不正等の不祥事を起こした企業が含まれていますが、先述の通り特定されたスキルの理由説明が不十分なため、取締役会の刷新に当たって以前と比べてどのように要求スキルが変わったのか、それに伴い取締役の顔ぶれが如何に変わったのかを投資家に印象付けられない可能性も残ってしまっています。また昨年から機関投資家による取締役候補の提案も活発化していますが、このままのスキルマトリックスの開示状況が続けば、企業の提示した取締役候補の妥当性に対する投資家の疑問を拭い去ることができず、来年以降も取締役候補についての株主提案の増加傾向が続いてしまうことでしょう。
 
 スキルマトリックス公表企業は、スキルマトリックスの公表が投資家から要望されている理由に立ち返る必要があると考えられます。その上で財務や法務といった一般的なスキルのみならず、企業の理念・中期経営計画に照らし合わせた各企業独自のスキルを特定できるよう、取締役会で検討を進めることが得策だと言えるでしょう。


本記事問い合わせ:黒田一賢
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