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アフターコロナの人事評価の変革
~変化する人事評価とマネジメント~

2020年07月20日 青木昌一


テレワーク下の業務環境の変化
 緊急事態宣言下の通勤電車ではふだんは座れない電車にゆったり座ることができ、場合によってはソーシャルディスタンスを保って座ることも可能であった。
 在宅勤務、テレワークに関しては、働き方改革の一環として2017年7月にテレワーク‣デイが実施され、賛同した企業が同じ日に一斉にテレワークを実施したことを皮切りに、以降、毎年期間を延ばしながら実施されている。しかし、まだ課題が数多くあるとして、実際にテレワークを本格導入した企業はそう多くはなかった。
 導入した企業も週1、2日の制限付きで、メリットとデメリットの洗い出しなどの実験的な導入にとどまり、本格的に世の中に受け入れられたという状況ではなかった。
 こうした状況で、新型コロナウイルスの感染防止のために社員の出勤を制限し、細かな規則などには拘泥せず、とにかくテレワークを実施せざるを得ないという状況が訪れた。

 東京都の「テレワーク導入率緊急調査」によると、テレワークの現状は図表1のとおりである。



 この調査結果を見る限り、先述の通勤電車の状況を裏付けていると言うことができよう。

テレワークのコミュニケーションにおける変容
 実際にテレワークを体験された方はそのメリットを実感すると同時に課題に気付かれた方も多いのではないか。
 インターネットを検索すると、テレワーク体験後のアンケートの結果が数多く公開されている。また、テレワークの体験者である我々自身も共感を覚える部分があると同時に、テレワークを実施した企業から感想を聞く機会も多い。
 その中には、例えば仕事に集中できて非常に効果的であるというものや、通勤時間が不要でとても体が楽になった、というような好印象がある一方で、在宅では仕事をするスペースがなくて困った、家族がいる中でなかなか仕事に集中できない、などというものなど、様々な意見がある。

 これらの意見・感想の中で企業の人事制度の設計や運用を支援する人事コンサルタントとして看過できないものが、上司や同僚とのコミュニケーションが減ってしまったという意見である。
 もともとメールや電話があり、これにウェブミーティングが急速に広まった中で、問題となるほどコミュニケーションが減ったとは言えないのではないかという意見もあり、それなりにうなずける部分はある。
 しかし一方で、上司や同僚にちょっと相談したいことや細かな疑問をタイムリーに尋ねることが難しくなったとの意見もある。

余儀なくされる人事評価の変化
 人事評価を昇給・昇格あるいは賞与の額を決定する材料、いわば「査定」と考える人は多い。もちろん、このことは間違いではない。しかし、人事評価の持つ大きな機能として、査定以外に能力開発のためのツールであったり、配置(人事異動)を決定する材料になっていたりすることはあまり認識されていない。加えて、これらの機能を円滑に果たすためには、上司・部下のコミュニケーションが極めて重要である。
 少し角度を変えて、これらのことを眺めてみると良いかもしれない。
 例えば、給料や賞与が上がって嬉しくない、あるいはやる気が出ないという人はそれほど多くないと思われる。一般的な感覚からすれば、給料が上がったことを知った瞬間、「うれしい」、「モチベーションが上がった」と思うのが人情であろう。しかし、これらは少し時間が経てば「当たり前」のことになり、最初に感じた嬉しさはどこかに消えてしまっている。
 一方、上司や仲間から「この分野に関しては、あなたの右に出るものはいない」、「あなたに聞けば間違いないですね」などと言われると、嬉しいと感じると同時にもっと知識を深めていこうというやる気につながる。
 ご存じの方も多いと思うが、前者は「衛生要因」、後者は「動機付け要因」と呼ばれる(図2参照)。



 マネジメント、とりわけ人事評価では、中間の面談やフィードバックなどの公式なコミュニケーションの場に留まらず、日常でもこの「動機付け要因」を駆使して部下のやる気を引き出し、能力開発を促すことが求められる。
 
 緊急事態宣言の解除によって在宅勤務を終了した企業がある一方で、これを働き方改革実行の好機と捉え、在宅勤務を継続する企業も少なくない。こういった企業の人事評価が変革を迫られる。
 一般論であるが、多くの企業が人事評価の種類として、①「業績・成果」を測定するもの、②行動様式や行動結果から「能力」の発揮度を測るもの、③勤務態度ややる気を評価する「情意評価」を行っている。情意項目と能力・行動項目を組み合わせて「行動評価」、「コンピテンシー評価」とする場合もある。
 業績や成果は仕事の結果を測るので、評価のための日々の業務の観察はあまり必要ではない。しかし、行動や能力の評価は能力開発としての位置づけがあることから、部下の行動を日々観察し、適宜指示を出しその行動やレスポンスを見極めて、指導を行う必要がある。しかし、テレワークでは上司と部下が対面で仕事をする時間が極めて短くなるため、この見極めが難しい。

 アフターコロナにおいてテレワークを中心に据える企業では、恐らく日々の行動を観察して評価を行うことが困難になる。したがって、人事評価の中の査定に関しては業績評価にウエートが置かれることになると考えられる。行動評価や能力評価は形を改める、あるいはウエートを落とさざるを得ない。
 そうなると、能力開発の機能は人事評価の形式を改めて、観察ではなくウェブミーティングなどを通して把握できる手法に置き換わる。すなわち、普段の行動が見えないために、業績評価と同様に、どう動くのかといった行動をあらかじめ規定し、その行動をきちんととったか否かを出てきた業績を通して判定することとなる。

重くなるマネジメントの役割
 とは言え、行動や能力の評価を放置できない職種も多い。また、育成途上の若年層も同様であろう。そういう職種や階層に対しては、上司・部下のコミュニケーションをこれまで以上に工夫して密にとる必要がある。
 ひとつの方法として、評価を実施する際に上司の観察に頼るのではなく、部下の行動を部下自身が申告・アピールするスタイルに変えていくことが考えられる。
 例えば「交渉力」という評価項目があったとしよう。これまでであれば、上司は部下が相手とどのように話を進めるか、その際に必要な情報を十分事前に入手しているか、といった事実を目で見て確認することで評価し、指導を行う。
 アフターコロナの人事評価では、目視できない分をコミュニケーションで補う必要がある。そのためには、1週間あるいは2週間といった単位で本人の行動を語らせ、課題を洗い出し、指導を行う。評価者たる上司の負担も被評価者である部下の負担も大きい。その手段は場所を同じくしてコミュニケーションをとるのではなく、前述の通りウェブミーティングなどに頼らざるを得ない。したがって、「交渉力」のレベルを判定しようとすれば、まず何を狙いとして相手にアプローチし、どのようなストーリーを描き、どう話を進めたか、さらに、想定しない障害が出てきたときに、同課題を整理してどのような対応策を練り、どう説明をしたかを確認する。これを繰り返していくことが、直接接する機会が制限される状況における評価の運用となる。
 勢い、評価表もシート1枚限りではなく、会社としてコミュニケーション履歴を簡単に記録でするようなサブツールを用意する必要が出てくる。そして、そのツールを形式的にではなく、実際に十分活用することが評価者に求められる。これまでプレイングマネジャーとしてやってきた上司は、よりマネジメントに軸足を移し、コミュニケーションに注力することが求められる。それができない上司は、これからの時代において淘汰されていくのではないか。
 マネジメントはこのことに強い危機感を持ち、単に人事評価を変えていくという意識ではなく、マネジメントに変革を起こす覚悟が必要となる。
以 上


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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