ドイツのオンライン決済サービス企業Wirecard は、1999 年の設立後、オンライン決済市場が成長するなかで事業を拡大。2005 年にはドイツ・フランクフルト証券取引所に上場、2018 年にはドイツ主要30 銘柄(DAX30)に選出されるなど、欧州を代表するFinTech 企業となった。
もっとも、急速な事業拡大の裏で、架空取引やバランスシート操作等の不正会計疑惑が浮上。本年6 月には、バランスシート上に計上されていた現金19 億ユーロが存在しないことが明らかとなり、株価が急落。マークス・ブラウンCEO は辞任、逮捕に追い込まれ、当社も破産手続きを申請するに至った。
今回の事案を巡っては、監督当局であるドイツ連邦金融監督庁(BaFin)が、不正会計疑惑が取り沙汰されているにも関わらず、同社を擁護する姿勢を見せたことや、長年同社の監査法人を務めてきたErnst & Young(EY)による監査が不十分だったことに対する責任が指摘されている。
Wirecard の破綻から導出される重要なインプリケーションの1 つが、イノベーションの促進と適切な監督や監査のバランスである。各国は金融ビジネスのイノベーションを促進する施策を進めているが、グローバルベースで金融ビジネスの範囲が広がっており、当局として監督すべきリスクが複雑化している。今後、金融と非金融の一体化が一層進み、FinTech 企業や異業種企業が金融ビジネスにおいて重要なインフラの一角を担うとみられるなか、監督や監査の役割は一層重要になる。各国当局は、より広い視点で金融ビジネスを捉え、時には各国間で連携しながら、イノベーションの促進と監督・監査の適切性のバランスを追求していく必要がある。
独Wirecard社の破綻にみるわが国へのインプリケーション ~ イノベーション促進と適切な監督・監査のバランスを ~(PDF:960KB)
