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新常識で見直される森林の価値とその保全における企業の役割

2020年07月09日 高橋沙織


 コロナの自粛期間中は外出できる場所が公園や海岸、大規模な自然公園などに限られ、自分の住環境の周囲がどれだけ自然に恵まれているか、気になった方も多いはずである。リモートワークの促進により、より自然豊かな住環境を求め、移住するケースも今後、増加するであろう。毎日の通勤が必要でなくなった新常識下において、個人のワーク・ライフ・バランスや生産性を維持する機能としての自然の価値が見直され、実感された。これまで経済活動における森林や自然資源は、エネルギーへの転換や木材としての活用で価値を創出してきたが、コロナウイルスによる生活習慣の変化によって、保全されることで発生する「そこに持続的に存在する価値」というものが見いだされる可能性が出てきた。

 世界に目を転じると、時を同じくして、EUでは脱炭素のみならず、自然資源や生物多様性を保全し、増幅させる計画「EU biodiversity strategy for 2030」が打ち出された。本計画は、企業の自然資源および生物多様性に対する責任追及の強化や、これらを保全することでもたらされる経済効果を提言しており、EUにおけるグリーンリカバリーの一つの柱にもなっている。その中では、2021年にEU Forest Strategyという戦略を立案したうえで、2030年までに30億本の植林を実施するという定量目標が掲げられている。また、企業のバリューチェーンを通じた、人権や環境保全に関するコーポーレートガバナンスの強化を制度化する方針である。その他、2020年からEU非財務情報開示規制の見直しを通じて、生物多様性をはじめとする環境関連の情報開示を企業に求める方向性を定めた。元来、欧州には自然資源を金銭的価値のある資本として捉えた「自然資本(Natural Capital)」という言葉が存在している。本計画からは、具体的な企業統治に、その価値が徐々に組み込まれ、定量的に測定されていく流れを見て取れる。

 欧州では、自然資本の維持管理には、民間資金の活用や官民連携での事業組成と資金拠出が必要と考えられていることも重要な視点である。特に、炭素吸収効果も相まって、森林に関する目標設定と資金拠出が目立つ。例えば、アストラゼネカ社では、森林の持つ炭素吸収効果と健康増進効果を認識し、今後5年間で10億ドルを拠出し、5千万本の植林を実施することをコミットしている。また、シェル社も、2019年から3年間で3億ドルを投じる炭素削減計画を推進しており、その中でオランダに500万本の植林を実施し、スペインで300ヘクタールの土地を再森林化することを宣言している。

 日本企業にとっても、森林の社会・環境的価値は経年で向上するはずである。欧州と共有するのは、炭素吸収機能を持ち、バリューチェーンにおける各拠点を気候変動による洪水などの災害から守る森林の価値である。さらに、従業員の生産性や健康増進などの福利厚生に関する価値を見いだすことができる。他方、日本企業の統合報告書などでは、植林や自然保護の個別の取り組みが掲載されても、その目標値や定量的進捗の測定にまで踏み込んだ取り組みは少なかったと言える。

 EUと同様に、国際的なあるいは国内の制度化が進めば、ESGの観点から日本企業の資産価値評価に影響する可能性もある。特に、森林減少によってバリューチェーンが大きな影響を受ける企業は、森林との関係を整理し、投資家やステークホルダーに説明する責任もこれまで以上に重要視される。ひいては日本企業も、まずは自社拠点周辺の森林や自社のバリューチェーンに影響のある森林の価値を見直し、コスト効率を見極めた上で、定量的管理・維持・利活用に着手すべきではないか。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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