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新型コロナウイルス感染症流行によって加速する、地方公共団体業務のデジタル化のポイント

2020年07月07日 冨島正雄


 新型コロナウイルス感染症の流行は、地方公共団体業務のデジタル化に大きな影響を及ぼしている。本稿では、新型コロナウイルス感染症流行が地方公共団体のデジタル化に及ぼす影響を概観した後、住民サービスのデジタル化の一つであるオンライン申請、そして内部事務のデジタル化の一つであるテレワークやリモートワークについて、それぞれ具体的な動きと留意点を考察したい。

1.新型コロナウイルス感染症流行が地方公共団体のデジタル化に及ぼす影響
 地方公共団体において、どの業務をどこまでデジタル化するかは、主として「デジタル化の利便性」と「情報漏えいリスク」「デジタル化のコスト」のバランスで決定していた。
 ここでいう「デジタル化の利便性」とは、例えば住民が引っ越しの届け出を、インターネットでできるようになる、地方公共団体の職員がテレワークできるようになる、等を指す。
 また、デジタル化による「情報漏えいリスク」とは、例えば地方公共団体の職員がインターネットを通じてテレワークできるようになると、外部からテレワークのネットワークに侵入され、庁内の情報が盗まれてしまうリスク等を指す。
 「デジタル化のコスト」とは、例えばオンライン申請の仕組みやテレワークの仕組みを構築するためのコストを言う。
 つまり、ある届け出業務をオンライン化すると、住民の利便性が増し、自治体の業務も効率化するが、情報システムの改修や新規設備導入のコストがかかる上、なりすまし等の不正アクセスによる個人情報漏えいリスクが増大する。通常、これらの要素を考慮した上で、オンラインでできる手続きや業務の範囲・内容が決まることになる。
 新型コロナウイルス感染症の流行は、「デジタル化の利便性」に「感染症感染リスクの軽減」が加わることにより、地方公共団体業務のデジタル化を強力に推進する力となっている。では、地方公共団体業務のデジタル化はどのように進むのか、住民サービスのデジタル化と内部事務のデジタル化に分けて考察する。

2.住民サービスのデジタル化
 住民サービスのデジタル化は、住民がオンラインでできる申請や手続きの範囲が拡大するという形で進展する。現在、地方公共団体は、政府が打ち出した「デジタル・ガバメント実行計画」(令和元年12月20日 閣議決定)におけるデジタル3原則「①デジタルファースト:個々の手続・サービスが一貫してデジタルで完結する、②ワンスオンリー:一度提出した情報は、二度提出することを不要とする、③コネクテッド・ワンストップ:民間サービスを含め、複数の手続・サービスをワンストップで実現する)」に基づき、マイナポータル等を活用した、住民サービスのオンライン化を進めている。しかしながら、今までのデジタル化の速度は緩く、道半ばであった。
 ところが対面サービスにおける感染リスクが認識された以上、窓口に出向いての申請や届け出を基本とする、今までのようなやり方を改める必要が出てきた。今後は、住民のオンラインサービスに対するニーズが急増し、それに対応する形でデジタル化が進展すると予想される。
 ただし、デジタル化を進展させるためには、以下の点を考慮する必要がある。

(1)認証方式の見直し
 現在手続きのオンライン化の進展を妨げているのは、個人情報を含む申請や登録を行うためにマイナンバーカードを取得しなければならないという点である。マイナンバーカードの普及率は令和2年6月1日現在で16.8%に過ぎず、オンラインサービスの利用拡大において足かせの一つとなっている。個人情報を含むものは一律マイナンバーカードによる認証ということではなく、サービスによってはスマートフォンやSNS、生体認証等を含めた認証方式を検討する必要がある。

(2)オンラインで開示する情報の拡大
 残念ながら現在のオンラインサービスのほとんどは、申請や登録を受け付けるだけである。例えば、自分が税金をいくら支払っていて、どのような公的サービスを受けることができるかなど、オンラインサービス側からの情報提供はほとんどない。申請や登録はできるが、その手続きがきちんと行われているのかも分からない。改善の取り組みはされているが、住民がオンラインで自分の情報や、自分が行った手続きの進捗状況が見られるようにすることが必要である。

(3)情報連携の見直し
 現在は個人情報を包括的に管理されることへの懸念から、地方公共団体が持っている情報と、民間の情報との連携は制限されている。しかし、デジタルサービスはワンストップサービスである必要がある。国の制度との関係から制約はあるが、地方公共団体が持っている情報と、民間事業者が持っている情報との連携を進め、例えば引っ越しの手続きを行えば電話・ガス・水道・金融機関・郵便局等への届け出も一括でできるようなサービスを実現させる必要がある。

3.内部事務のデジタル化
 新型コロナウイルス感染症流行による内部事務のデジタル化は、リモートアクセス環境整備と、それに伴うテレワーク推進という形で進展する。
 地方公共団体、特に基礎公共団体といわれる区市町村は、住民の個人情報を扱う業務が大きな割合を占めるためか、一部の先進的な自治体を除いてテレワークに踏み切ってこなかった。
 しかし新型コロナウイルス感染症流行以降、職場や通勤途中における感染症感染リスクが認識されるようになり、地方公共団体においてもテレワークの実施が求められるようになった。暫定的にテレワークを行っている地方公共団体もあるが、今後はIT環境の整備や制度面の整備を含めた、本格的なテレワーク環境の整備が必要となる。この場合、以下の点を考慮する必要がある。

(1)テレワークの対象業務
 テレワークのためのリモートアクセス環境をどのように設計するかは、テレワークの対象業務によって変わってくる。例えば、メールやマイクロソフトオフィス(ワードやエクセル)を利用したドキュメント作成などを行うのみであれば、RDS(リモートデスクトップの略)といわれるような、職員共通のデスクトップ環境を構築すればよい。しかし、個別の所管業務まで利用させる、例えば財務会計担当者には財務会計システムを、人事担当者には人事システムを使用させたい、ということになると、職員個別のデスクトップを用意する必要があるので、VDI(Virtual Desktop Infrastructure)と呼ばれる環境の構築が必要である。当然ながら、RDSよりもVDIのほうがコストはかかる。

(2)認証方式
 どのような認証を行うかによっても、コストは変わってくる。庁内からアクセスする場合と同じ認証方式で良い、ということであれば、庁内の認証基盤を利用できるので、大きなコストはかからない。しかし、よりセキュリティレベルの高い認証を行う場合には、別途認証基盤を構築しなければならなくなる。これは、少なからずコストがかかる。なお通常は、所有(例 ICカード)・知識(例 ID・パスワード)・生体(例 指紋)の3つの認証方式のうち、2つ以上を組み合わせた認証方式をとることが必要である。

(3)自宅からアクセスする回線はどうするか
 自宅から庁内のネットワークへアクセスする回線をどうするかについても、コストやセキュリティに大きく影響する。現状では、主に以下のa、bの方式のいずれか、あるいはその組み合わせで検討する。

 a.モバイル回線を職員に提供し、そこからアクセスする。
 b.職員の自宅に引いているインターネット回線からアクセスする。

 上記aのみ認める場合が最もセキュリティレベルが高いが、回線使用料が地方公共団体の負担となる。また、通常モバイル回線は通信量の上限が決まっており、それを超えると通信速度が制限されてテレワークの使用に耐えられなくなるので、職員の利便性は高くない。
 bのみ認める場合は、モバイル回線が不要だが、インターネット回線を職員が自分で用意する必要がある。また、自宅以外の場所で業務を行う(例: 出張先で業務を行う)場合は対応が難しいので、職員の利便性はあまり高くない。また、セキュリティ面からいうと、インターネットから不正アクセスされる可能性があるので、上記aよりも劣る。
 a、bの両者を認める場合は、職員の利便性は高いが、インターネットから不正アクセスされる可能性があることはbと同様である。また、a、b両方の方式に対応する設備が必要なため、一般的には3つの組み合わせのうち、最もコストがかかる。

(4)その他
 その他、システム面では以下の点に留意する必要がある。
 ・テレワーク対象者数(現在だけでなく、将来どこまで拡大するかも見通す必要がある)
 ・利用する端末をどこが用意するか(地方公共団体が用意すれば、マルウェア対策の徹底が図れるのでセキュリティは高くなるが、コストがかかる)
 またここでは詳しく触れないが、システム面だけではなく、勤務時間の認定や、成果をどのように評価するか、といった制度面での検討も必要になる。

4.最後に
 デジタル化のレベルは、「デジタル化のコスト」「情報漏えいリスク」と「デジタル化の利便性」のバランスで決まっていたが、新型コロナウイルス感染症流行後、「感染症感染リスクの軽減」という点を考慮しなければならなくなり、これがデジタル化を進める要因となることを述べた。
 そして地方公共団体のデジタル化は、住民サービスのデジタル化についてはオンラインサービス拡大という形で、内部事務のデジタル化についてはテレワーク推進という形で進むということと、それを進めるうえでの留意点について述べた。
 今までは、コストの大きさや情報漏えいリスクへの警戒から、デジタル化が想定通りに進まないことがあった。しかし、感染症感染リスクを考慮しなければならなくなった今後は、多少のコスト増加は容認してデジタル化を進める場面が多くなると考えられる。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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