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アフターコロナのフードサプライチェーン ~キーワードは非接触化、非属人化、非硬直化~

2020年07月03日 石田健太


コロナ禍でのフードサプライチェーン
 新型コロナウイルスの影響に伴い様々な産業が機能を縮小する最中において、食品産業は供給を途絶えさせることなく動き続けた代表的な産業と言えるであろう。ただし、食品流通自体には大きな影響が生じた。大きく変貌した消費構造への対応は、その代表的なものである。外出自粛による小売業への来店客の急増や緊急事態への備えとして、米をはじめとする一部商品では、需要増などで供給が滞るケースも発生した。
 それでも、製配販の連携によって安定的に商品を届け続けた機能や、感染症による不安の中でも安全・安心な食の供給をつなぎ続けた関係者の努力は社会から高く評価されるべきである。この度の新型コロナウイルスは、食中毒菌やノロウイルスなどとは違い食品上で増えることがなく、食を介した感染のリスクが低いことも関係者にとっては不幸中の幸いであったと考えられる。
 新型コロナウイルスによる脅威が一巡し、社会は「アフターコロナ」、「ウィズコロナ」と呼ばれるフェーズに突入したが、食品流通においてもすぐに元通りになるという見通しは立っていない。引き続き食品事業者については以前よりも高い衛生意識による業務の遂行が求められるほか、中期的にはテレワークの増加による巣ごもりの継続やインバウンド需要の低迷など新しい生活様式による消費構造が当面続くことが予想される。生鮮食品流通は、その特性から商物一致取引が原則とされ、リモートワークが行いにくい構造ではあるが、制度の改正や今般のコロナ騒動を契機に、働き方の改革が強く求められるようになっている。また、かねて懸案事項であったトラックドライバーの人材不足や長時間労働、特定の消費地市場に物が溢れる狭隘化など、コロナと共存しつつ、解決しなければならない問題は山積している。そこで本稿では、アフターコロナによる生鮮食品流通の在り方について講じてみたい。

コロナ危機により顕在化されたフードサプライチェーンの課題
①食品卸売拠点でのクラスター化の懸念
 フードサプライチェーンが抱える課題のうち、特にコロナ危機を通じて顕在化されたものが、卸売市場などの物流拠点におけるクラスター化の恐れである。中国・北京市の生鮮卸売市場「新発地」では、市場関連の感染者が50人を超えるクラスターとなったことが報道された。北京市では集団感染の疑いが強まった翌日には同市場を閉鎖。代替の臨時市場を設けるなどの対策に追われることとなった。
 日本国内では、フードチェーンの川中に位置する京都市中央卸売市場内の店舗で感染者が確認されたが、幸運にも感染拡大には至らなかった。一方で、川下における食品スーパーのいくつかでは従業員の感染による店舗の一時閉鎖となる事態にまで発展したことを鑑みれば、北京市の事例は決して対岸の火事ではなく、食品市場内におけるクラスター化の懸念は十分に起こり得る脅威と認識する必要がある。
 特に卸売市場など食品流通におけるハブ拠点が閉鎖される事態になれば、食品の安定供給に与える影響は甚大である。通常の感染対策はもちろんのこと、感染者が出た場合の対応についても明文化しておく必要があるが、卸売市場の開設者や卸売業者におけるBCP(事業継続計画)の策定・検討状況においては半数近くが「策定も検討もしていない」状況にある(図表1)。市場機能を可能なかぎり維持し、フードサプライチェーンを早期復旧するための計画策定は喫緊の課題といえる。


②変貌する消費構造への対応
 コロナによる社会環境の変化は、食のシーンにも反映された。外出を避けるようになったことや各自治体からの要請により、外食店は軒並み営業の自粛・縮小を余儀なくされた。それによって本来外食用に仕向けられていた食材が行き場を失う事態が発生した。相場を落としつつ小売り向けへ流通された商材もあるが、その一方で多くのロスが生じたことも事実である。コロナによって引き起こされた、こうした消費構造の急激な変化は、対応する関係者の頭を悩ませた。

アフターコロナにおけるフードサプライチェーンのキーワード
 このように、コロナ危機を経て顕在化された課題への対応が今後のフードサプライチェーンには求められる。その上で重要となるキーワードとして、非接触化、非属人化、非硬直化が挙げられる。

①非接触化
 感染抑制のための取り組みとしてすっかり定着したソーシャルディスタンスを、フードサプライチェーンの実務でどこまで実施出来るかは大きな課題である。ただし、これは事業主が労働者に対して負っている安全配慮義務の一部と考えられる。安全配慮義務とは、労働契約上の付随的義務として労働者の生命、身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務と定義されている。すなわち事業主が安全配慮義務を怠り、労働者に感染者が出た場合、労働契約上の安全配慮義務違反が生じる可能性がある。
 フードサプライチェーンは自動化・機械化が進みつつあるが、まだまだ人による作業が多く介在している領域である。事業主や経営担当者は今一度、通常業務において人による接触がどこで、どの程度発生しているかを把握し、接触を回避・抑制するための手段を構築すべきである。

②非属人化
 サプライチェーンの一部が機能不全に陥ったときには、なるべく早期の復旧が求められるが、その場合いかに通常業務が標準化されているかが求められる。ある業務を特定の人が担当し、その人にしか分からない状態であった場合、その人が欠けるだけでフードチェーンの寸断や混乱が生じかねない。短期的な生産性の確保も重要ではあるが、事業継続的な観点からは特定の人材・リソースに依存するサプライチェーンのリスクは高いといえる。
 フードサプライチェーンの現場では、職人気質の担当者が多く属人的になりがちであるが、人材の入れ替えによる業務間の相互理解や業務標準化を通じたサプライチェーンの頑健性の強化が求められる。

③非硬直化
 フードチェーンにおける商流の多くは、相対取引により商材の行き先が前もって決まっている。そのため、日々の業務や商材の行き先は硬直化しやすい傾向にある。そのため、川下の消費構造に変化があると対応が困難になることが少なくない。消費構造の変化に対応可能な柔軟性は、今後のフードサプライチェーンに求められる機能の一つである。
 今回の事態においては、ロス商材の削減や生産者の救済のために、インターネット通販をはじめとした販路の拡大施策や卸売市場による消費者に向けたドライブスルー方式の販売形態などの施策が相次いで取られた。こうした柔軟な販路を平時から確保することは、消費構造の変化に対しての緩衝材となり得る。

今後の展望
 フードサプライチェーンは、危機的状況においても活動の継続を強く求められる最も基本的なインフラである。今回のコロナ危機では図らずも強固なサプライチェーンであることが認識できた一方で、多くの課題も散見された。特にBCPについては十分に検討されている状況とは言い難く、早急な対応が求められる。本稿では、アフターコロナのキーワードとして非接触化、非属人化、非硬直化という3つを挙げたが、これらを解決するにあたっての有効な手段としてデジタル活用が考えられる。自動化・機械化を通じていかに人が介在する余地を減らすという視点や、業務をデジタルで標準化するという視点は、より頑健で強固なフードサプライチェーンの構築に役立つであろう。また、川下の需要変動に対して柔軟に対応し、相場を安定させつつ商品の差配を行う上でも一層のシステム化が重要となるであろう。
 国の食品等流通合理化事業においても各項目でデジタルテクノロジーの導入推進が望まれており(図表2)、かねて課題であった流通の合理化に加えてコロナ対応を兼ね備えたデジタル対応が必要となる。食品流通事業者においては、コロナ危機を通じた課題の整理と、解決に向けた戦略のブループリントの検討が求められるであろう。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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