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コロナに負けないグローバルサプライチェーン支援のための政策とは

2020年06月26日 圓角史人


 2020年2月、中国で新型コロナウイルスの感染が拡大し、春節休暇の延長、外出制限による工場や物流機能の停止により、中国からのサプライチェーンが寸断した。これにより、自動車メーカーの工場等が生産停止を余儀なくされた。コロナ禍がいつまで続くか不明な中、グローバルサプライチェーンはどうあるべきか、政策としてはどうあるべきか。本稿では、主に製造業を対象に、産業立地の観点から検討する。

1.コロナの脅威
 日本企業の海外生産拠点の設置は、主に「安い労働力賃金を求め、主に生産拠点として設置」と、「貿易摩擦防止のほか、関税・輸送費削減、リードタイム短縮、より適したニーズ対応等のため、市場近くに設置」の2パターンがある。例えば、自動車であれば後者のパターンで、ある程度の販売量に達した車種によっては、販売国で部品を輸入した上でのノックダウン生産方式でまずは生産することが多い。生産量が増えたら、自動車部品メーカーが生産拠点を構えたり、地場メーカーの育成をしたりしながら、現地生産を行うことになる。そしてタイのように地域内の一大生産拠点となれば、現地の嗜好にあった商品の開発を現地で行うべく、開発機能が設けられる。さらに地域内のみならず全世界向けへの輸出拠点にもなるなど、バリューチェーンの機能が拡大されてきた。一方、自動車部品は、バルクの大きいものは自動車メーカーの生産拠点に立地され、労働集約的な部品や工程は、賃金が安い国で生産してきた。こうして、工程や部品ごとに物流費や、賃金、労働力の質、政治リスクなどを踏まえた上で、グローバルサプライチェーンは築かれてきた。
 しかし、コロナはこうしたグローバルサプライチェーンに対し、大規模かつ深刻な影響を与える可能性がある。
 まず、世界規模で蔓延しているため、異常事態が長期間続いてしまうことが挙げられる。どこかの国でいったん収束しても、他の国で第二波、第三波が来るなど、世界のどこかで異常が発生することになるからである。
 そして、供給面、需要面の両面から、サプライチェーンにダメージを与えてしまうことである。これまでの危機であれば、地震などの災害は主に供給側の稼働低下、リーマンショックのような金融危機の場合は需要側の低下、と影響範囲が限定された。それに対し、コロナの場合は、当初は、感染症蔓延防止のために工場稼働停止や物流網が遮断される程度であったが、現在では、購買意欲の低下(特に自動車等の高額な耐久財)による内需、外需両面での需要の減少によって、OEMメーカーの工場の稼働率低下や稼働停止まで引き起こされるようになっている。これにより、倒産してしまう中小サプライヤーも出てきており、今後も需要の低迷次第で倒産してしまうサプライヤーが増える恐れがある。
 各地に時期をずらして拡がる感染症は、グローバルに広がるサプライチェーンを慢性的に阻害し、場合によっては裾野産業の破壊も引き起こす。これは日本のみならず、日系企業の進出先で長年かけてようやく形成されてきた東南アジアの産業集積をも蝕みかねない。

2.コロナ禍を踏まえ提起されている対応策
 コロナによるサプライチェーン断絶、浸食の危機に対し、頑強な体制づくりのため、下記のような対応策が提起されている。
①調達先の多元化
 今回、コロナがまず中国での感染が拡大し、それによって供給網がストップしたことで国内での生産に支障が出た。中国への生産拠点としての依存度が高いことから、生産拠点を移転する動きが出ている。なお、2010年以降、中国の人件費高騰、尖閣問題などの政治リスクにより、「チャイナ+1」、つまり中国以外の国への生産拠点設置の必要性が提唱されてきた。また、ここ数年で、米中貿易摩擦により、ベトナムなどへの生産移管を行う企業も増えていた(※1)。コロナ危機を経てのリスク分散の必要性から、さらに、この流れが加速していく可能性がある。

②平時と非常事態での生産体制の柔軟な切り替えとマザー工場
 ものづくり経営学の第一人者である藤本隆宏・東大教授によると、コロナの波が周期的に来ることや、大災害がやってくるかもしれないことを踏まえ、平時には「国際競争力」、緊急時には「災害頑健性」を重視した生産体制を準備し、感染の非常時と平時で切り替える柔軟性が重要だという。また、柔軟性、特に緊急時の災害頑健性を支える肝となるのは日本のマザー工場機能だという。日本の生産拠点は、高コストでも高付加価値を維持することによってグローバル競争下で生き残ってきた。また、度重なる災害を経験しても早期に復旧してきた。海外のある拠点で稼働が停止した場合も、日本のマザー工場が部品を代替生産したり、海外の別の拠点での代替生産を日本のマザー工場がサポートしたりすることで、グローバルな生産体制の安定を図ることが可能になるという(※2)

3.政策はどうすべきか
 上記のような対応策が提起される中、コロナ禍において政策としてはどのようなことが望まれているか。短期、長期と分けて、検討する。

①短期的な政策
 まず、現在、コロナにより需要低迷で苦境に陥っている中小サプライヤーへの支援だ。倒産してしまっては、国内のサプライチェーンが歯抜けになってしまう恐れもある。優れた製造技術を持つサプライヤーも例外とはいえず、迅速な緊急資金援助を行う必要がある。
 また、東南アジアは、生産拠点多元化の候補地になる一方で、自動車等の需要減少により、危機に陥っている。東南アジアの自動車産業の集積地であるタイでは、5月末、タイ工業連盟(FTI)が政府に対し、需要喚起策(物品税の減税等)などの支援がなければ自動車産業が崩壊する、と警告した(※3)。タイの裾野産業はODAでも支援を行ってきた。タイ政府と協力し、必要に応じ緊急支援を行うことも考えられる。
 ただし、早期に倒産しそうな企業は、もともと経営に問題を抱えていたものがコロナにより顕在化した可能性もある。支援はあくまで「緊急」に留め、自己努力による競争力向上を阻害するものであってはならない。

②長期的な政策
(1)多元化と生産体制柔軟化に対する支援
 経済産業省は中国への過度の依存を軽減するため、特に日本国内への生産回帰や、東南アジア等他地域への移転による多元化を進めるべく補助金を創設した。この流れは以前からあったが、コロナを「旗印」に加速させ得る。
 ただし、日本への国内回帰を促すにしても、あくまでグローバルサプライチェーンを支える位置づけとしての国内回帰となるべきで、海外からの撤退を促すべきではない。あくまで緊急事態に海外を支援することができるマザー工場としての機能強化に資することを目指すべきだ。
 また、多元化も、東南アジアであれば例えばタイ一国に集中させるのではなく、コストや労働力の質、リスクのバランスを踏まえた上で、地域内での分散も検討する必要がある。タイでは、2011年に洪水が起き、当時はタイから周辺国へのリスク分散の必要性が謳われていた。こうしたタイ周辺国への裾野産業育成支援、インフラ整備も継続して行われる必要がある。

(2)業界再編を見据えた支援
 コロナ禍の前から、製造業では大きな業界再編を迎えようとしていた。製造業で大きなシェアを占める自動車業界でCASE化(「Connected(コネクテッド)」、「Autonomous(自動運転)」、「Shared(シェアリング)」、「Electric(電動化)」)が進んでいる。トヨタ自動車はモビリティカンパニーへの変革を宣言すると共に、実証実験都市「Woven City」プロジェクトを立ち上げ、まちづくりに取り組もうとしている。一方、ソニーは電気自動車の開発を行うなど、異業種から自動車業界への参入も出てきている。こうした新しい流れが生まれることによって、自動車部品サプライヤーにとってもこれまでとは求められる部品や量が異なるようになるため、淘汰が進む可能性がある。
 こうした業界再編を見据えた準備を自動車部品サプライヤーは行う必要があるが、コロナ禍により業績が悪くなる中で、その余裕がなくなる可能性がある。将来に向けての取り組みスピードを緩めないためにも、財務的支援や、ネットワーク面でのサポートを行っていく必要がある。

(※1) 伊尾木 智子(2020)「米中摩擦が組み替えるアジアのサプライチェーン  JETROホームページ
(※2) 藤本隆宏(2020)「新型コロナで存在感増す「日本の工場」、有事にはグローバルサプライチェーンのけん引役に 『日経XTECH』2020.6.11
(※3)Bangkok Post オンライン版 (2020年6月1日)

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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