コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経済・政策レポート

アジア・マンスリー 2020年7月号

中国のオンライン教育の展開と今後の展望

2020年06月26日 藤田哲雄


中国では新型コロナ対応として、2020年1月より全国で一斉休校し、オンライン授業が導入された。以前より準備を進めていたこともあり、短期間で移行できたとされる。今回の成功体験を踏まえて、中国はオフラインとオンラインを統合した新たな教育モデルを形成し、国全体の教育力を高めるとみられる。

世界最大規模となった中国のオンライン教育市場
中国では1990年代よりインターネットが導入され、ニュースポータル、ソーシャルネットワーキング、ゲームなどのインターネット産業が発展したが、教育分野へのインターネットの普及は比較的遅かった。1996年に遠隔教育のWebサイトがオープンしたが、当時はインターネット技術自体が未成熟であり、教育業界も柔軟性を欠いていたため、オンライン教育の発展は限定的なものにとどまった。

2013年にベンチャーキャピタルのオンライン教育業界への投資ブームが始まり、多くのスタートアップ企業が同業界に参入し、2018年には5社のユニコーン企業(創業から10年以内、推定評価額が10 億ドル以上の未上場企業)が出現した。2018年には正式にオンライン教育が政府の監督下に置かれ、法整備が進む一方で、技術の進歩を反映したサービスモデルの継続的なイノベーションが促進されている。この結果、中国のオンライン教育市場は毎年20%以上の成長を続け、2018年には2,517.6億元と世界最大規模となった。

これまでオンライン教育市場のうち高いシェアを占めたのは高等教育(大学生・大学院生)向けや職業訓練などである。小学校から高校までのK12(初等中等)教育向けのサービスは2019年時点で2割程度であり、多くは学校外のサービスであった。

一斉休校により全国でオンライン授業導入へ
新型コロナ発生後、中国教育部(日本の文部科学省に相当)は春節休暇中の1月27日に全国の教育機関を対象に始業延期を通達し、その2日後の29日には、「停課不停学(休校しても学習は続ける)」の方針を発表した。また、これと前後して、複数の民間企業からも、教育活動を支えるオンラインの動画プラットフォームや教育コンテンツの無償提供などが発表された。このようにして、全国で2億人以上の学生がオンラインで教育を受けることになった。

教育部は、産業情報技術部とラジオ放送国家管理局の強力な支援を受けて、2月17日にほとんどの省で正式にオンライン学校を立ち上げ、小中学校と中国教育テレビ放送クラス向けの全国クラウドネットワークプラットフォーム「国家中小学網絡雲平台」を正式にオープンした。このように、学校の授業がオンライン化されたことで、オンライン教育でのインターネット利用者は2018年12月時点では2億人であったのが、2020年3月時点では4.2憶人と2倍以上に急増した。

もっとも、中国のインターネット普及率は先進国ほど高くなく、2020年3月時点で64.5%にとどまる。この背景には、都市部と農村部間で普及率に大きな格差の存在を指摘できる。それに伴い、農村部ではオンライン授業を受講できない学生が多数存在する。そこで中国政府は、中国教育テレビでそれを補完するプログラムの放送を開始し、インターネット環境が十分整備されていない地域でも遠隔教育が行き渡るようにした。

3月には中国の多くの省で新型コロナ流行のリスクレベルが低下し、5月中にはほとんどの小中学生が学校に戻ることとなった。しかし、今回の一斉オンライン授業の実施により、教育機関関係者の意識は大きく変化し、従来はやや慎重であった学校でのオンライン授業の導入に対し、肯定的な評価が多い。

導入の成功要因と今後の展望
中国での一斉オンライン授業がこのように成功したのは、実は以前から計画を立て、それを着実に実行してきたからである。2016年に教育部は「教育情報化5カ年計画」を発表しているが、そこでは2020年までに、「誰もがどこでも、いつでも学習できる」教育情報化システムを構築することが目標とされていた。その目標達成のためには、政府が規範的なガイダンスと効果的な教育情報技術を提供する一方で、政策と規制を改善し、市場メカニズムを積極的に活用して民間企業などを積極的に参加させ、優れた教育情報技術の生態系を構築することが必要であるとされている。さらに、2019年に発表された「オンライン教育の促進に関するガイダンス」においては、2020年までに、①オンライン教育のインフラ構築の大幅な水準改善、②ビッグデータ、人工知能などの最新情報技術の教育分野での広範な利用、③教育資源とサービスの充実によるオンライン教育モデルの完成度向上、などの具体的なアクションプランが示されている。

今般の一斉オンライン授業の導入は、このような具体的な計画を着実に実行するなかで実現されたものである。中国政府は、その結果に手応えを感じており、オフライン教育とオンライン教育を統合した新しい教育モデルの形成へ向かうとみられる。今後、初等中等の学校教育においてもオンライン教育の活用が拡大していくとみられるが、学校教育におけるオンライン授業に期待される効果として、以下の2点が指摘可能である。第1に、最良の教育資源を共有することが可能となり、地域間格差の是正に役立つことである。具体的には、優れた教師の授業を、他の地域でも受講することが可能になり、国全体の教育レベルを引き上げることにつながる。第2に、カリキュラムのプラットフォームを整備することにより、学習活動、学習行動、学習ステータス、学習効果などのビッグデータの収集、分析、処理が可能となり、最適な教育方法を科学的に導き出せるようになる。このようにみると、今回の中国のオンライン教育「実験」の成功は、単なる教育市場の拡大のみならず、中国の将来の経済発展にも大きく貢献する可能性がある。
経済・政策レポート
経済・政策レポート一覧

テーマ別

経済分析・政策提言

景気・相場展望

論文

スペシャルコラム

経済・政策情報
メールマガジン

レポートに関する
お問い合わせ