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withコロナ時代で進む多様な働き方の選択と企業に求められる支援
~男性社員の育児参画を前提に、職場の意識改革や制度運用の見直しを~

2020年05月29日 織田真珠美


 今回、外出自粛という特殊な状況下で家族との時間が増加して、父親が育児休業や育児休暇(以下、まとめて育休と表記)を取得した家族と同様の状況が生じている。本稿は、男性の育休取得者に対するいくつかの調査結果から、主に若年層の男性社員に生じる変化を明らかにして、企業が取るべき取り組みを示す。
 本テーマを検討する上で、育休を取得した男性社員はもともと育児参画に意識が高い人材と考えられるため、世の中全般の傾向と少し異なる点に留意が必要だ。また、変化は急に表れるわけではなく、徐々に進むことも指摘したい。だからといって、対策を遅らせる理由にはならない。女性の活躍推進に関わる一連の取り組みの中で見られたように、多様な人材が活躍する職場を整えるには時間がかかる。5年後、10年後に当たり前となる職場の実現を目指して、今から対策を取ることが欠かせない。

1.在宅勤務の導入や長期にわたる外出制限の結果生じていること
(1)家族との時間が増加した
 今年の4月以降、「家で過ごす時間」は、以前と比べてどう変化したかを尋ねる調査に、75.4%の人が「増えた」と回答した。次に、「家族と過ごす時間」は、63.4%の人が「増えた」と回答するなど、家族が共に過ごす時間は増加している。(図表1)


(2)外出抑制は父親の育休の取得と同様の状況を生み出した
 平日は、自宅待機あるいは在宅勤務の導入などで日中に過ごす場所が変化し、飲食業の深夜時間帯の営業自粛で夜間の外出先は制限された。まとまった休日であるゴールデンウィークも、遠方に外出して遊ぶことはできず、自宅で家族と共有する時間は増加した。
 この状況は、育休を取得した状況に似る。実際に、街中で幼い子供と父親が自宅周辺を散歩する光景に遭遇することは多くなっていて、若い父親の育児参画が増加したように感じる。今回の緊急事態対応は、育児に関わる気持ちはありつつも、仕事が忙しくて優先順位を下げていた男性が、育児に関わるきっかけになったのではないか。

2.育休取得者における調査研究から得られる示唆
 以下では、育休を取得した男性社員に対する過去の調査結果を参考に、今後若年層の男性社員に起こり得る変化を明らかにする。これらの変化は、特に子供が小さい、あるいはパートナーが妊娠・出産前の男性社員に顕著に起こると考えられる。これは、子育て初期に、子供と一緒に過ごす期間を経験することや、家事・育児のやり方を学び実践することが、その後の男性の家事・育児参画の促進に重要との調査結果があるためだ。
 育児をきっかけに休暇や休業を取得した男性社員には、「育児への意欲が高まった」(40.0%)、「早く家に帰ることを意識するようになった」(34.5%)、「家事への抵抗感がなくなった」(20.1%)といった変化がみられる。(図表2)


 また、育休を取得することで、「子育ての大変さが分かった」(66.5%)や、「子供と過ごす時間が持てた」(64.6%)などといった育児参画に関する事項や「夫婦でコミュニケーションをとる時間が持てた」(50.7%)、「配偶者から感謝された」(48.2%)など、夫婦関係の改善への実感が比較的高い回答率が示されていた。(図表3)


 夫婦共働きの家庭で子供がいない場合も、家庭での時間が増えたことで、これまでは見えていなかった家庭内での過ごし方や家事分担の不均衡が見えること、男性側に時間の余裕が出来ることなどから、家事分担の見直しが進む可能性はある。また、仕事が忙しくて少なくなっていた夫婦間のコミュニケーションの量が増えて、家事や育児等、家庭生活における価値観をすり合わせる機会は増えるだろう。結果として、互いに意見を出し合い役割を分担して家庭を作り上げる態度が育まれることが期待される。過去の調査結果からは、平日の家事参画が多い男性ほど、育休を取得する傾向にある。今後、外出自粛期間に家事や育児に関わった男性が、自粛期間終了後も参画を継続することが予想される。
 それは例えば、育休や子の看護休暇等、すでに用意された仕組みを利用する動きとして現れる。育休取得までは難しくても、残業をしない働き方や可能であれば出社せずに働く働き方が好まれる等の変化は考えられる。実際に、内閣府や内閣府経済社会総合研究所による過去の調査では、育休を取得した後には図表4に示す業務上の工夫などを行って退社時間が早まる(オフィスに滞在する時間が有意に減少する)結果が示された。


 このような男性社員の意識や行動の変容をきっかけに、withコロナ時代においては、子育て世代におけるライフステージに応じた働き方の選択が「女性」だけでなく「男性」の側からも行われるようになると考える。

3.男性社員が育休を取得する状況が企業に与える影響
(1)留意すべき点と企業が取るべき対策
 男性社員の育児参画の増加を前提に、企業はどのような対策をすべきか。
 多くの企業で、女性が継続して働くことが出来る環境を整備するため、育休や短時間勤務、子の看護休暇など、育児や子育てに関する支援制度は構築済みで、制度上は男女関係なく利用出来る。一方で、多くの企業で「適齢期にある既婚の女性社員」が利用することが暗黙の前提で、男性社員の利用は限られていた。そのため、実際に自社で男性社員に制度の利用が本格化すると、管理職や職場の同僚の反応や業務の引き継ぎに不安が残る。
 対策として、まずはこれまでに女性社員が育児短時間勤務を利用する際に直面した課題を整理して、自社の状況を把握することを勧めたい。なお、管理職や同僚は男性社員が育休等の支援を利用することは想定外の出来事で、制度利用に拒絶反応を起こすことが考えられる。男性社員は女性社員以上に高いハードルに直面すると考えたサポートが必要だ。
 具体的な取り組みとして、図表5に示すように、短期的には、本人の意識改革や職場の意識改革、仕事が円滑に進むような業務上の工夫やインフラの整備が必要になるだろう。中長期的には、育児を優先するライフスタイルを選択したことによって、人事評価やキャリア形成の上で不利益を被ることがないと示す(実績を積み重ねる)ことが必要だ。


 なお、支援制度の直接の恩恵を受けない社員であっても、支援制度を利用する先輩社員の行動を、上司や同僚がどのように捉え評価するかをみて、行動を選択していると考えるべきだ。職場の雰囲気が悪ければ、自らが後に続いて制度を利用することはないだろう。最悪の場合には、その職場で働き続ける意欲を失うきっかけとなりかねない。このような状況の発生を防ぐために、企業は職場(管理職や同僚)に対する啓発を早急に検討すべきだ。

(2)男性社員の育児参画を推奨することで企業が得られるメリット
 男性社員の育児参画への支援は、企業にとって負担となる。しかし、過去の調査結果からは男性社員の育児参画を支援することで、企業は一定のメリットを享受できることがうかがえる。
 メリットの一つは、先に示した業務を効率化する意識の向上が期待できることだ。子育て世代は職場の中核的なポジションを占めることが多く、この世代の意識が変わることは、職場全体に良い影響を与えるだろう。
 加えて、育休の取得は、本人のキャリア形成意識の向上や組織への帰属意識の強化に影響を与えるようだ。内閣府経済社会総合研究所の調査では、育休取得者には、「会社への好感度が強まった」(17.1%)、「会社への帰属意識が強まった」(14.3%)、「資格・専門知識の習得意欲が強まった」(13.6%)、「在宅勤務等の活用など、柔軟な働き方への関心が高まった」(10.4%)などの項目で、育休取得前後のキャリア形成意識に変化がみられた(図表6)。
 家族が増え、昇進意欲や、資格・専門知識の習得意欲の向上など、より良い処遇を求めた行動が強化されることは想像しやすい。その中で、育休取得者が安心して休める環境を提供したことで、帰属意識の強化や好感度の向上が起きたと推察される。
 反対に、育休を非取得であった男性社員は、より良い処遇を求めて転職への関心を高めるケースが育休取得者より高くなる(育休取得者10.7%に対して、非取得者は非取得者14.6%)ことが示された。男女共に、育児における時間の使い方をきっかけに自社で継続して働く意欲を失い、転職してしまう状況はもったいない。このようなことにならないように、社員がライフステージに応じて働き方を選択出来るようにすることが必要だ。


4.まとめ
 緊急事態宣言が解除されて、外出の自粛は段階を踏んで解消されるが、引き続き在宅勤務が推奨され、深夜の飲食店での食事の自粛、休日の外出の抑制など、従来に比べて家庭で過ごす時間が増えることが予想される。状況が一時に限ら ず、常態化することで、男性の家事参画・育児参画が進む環境は定着すると考えられる。
 冒頭述べたように、多様な人材が活躍できる職場を整えるには時間が必要で、5年後、10年後には当たり前となるような職場の実現を目指して、今から対策を取ることが求められる。子育て世代におけるライフステージに応じた働き方の選択が「女性」だけでなく「男性」からも行われることを見据えて、職場の環境を見直してはどうか。
(了)


(参考文献)
厚生労働省委託事業「仕事と育児の両立に関する実態把握のための調査研究事業」平成29年度
内閣府経済社会総合研究所「男性の育児休業取得が働き方、家事・育児参画、夫婦関係等に与える影響」平成29年度

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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