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【次世代交通】
スマホの受容と暮らしやすい地域づくり~コロナと共にある世界を展望して~

2020年05月26日 岩崎海


 日本総研では、地域コミュニティのモビリティ(移動、交流、流動性)向上を通じて、既存のまちをバリューアップし、住み継がれる未来を目指す「まちなか自動移動サービス事業構想コンソーシアム」を設立し、神戸市北区のニュータウンで実証実験を行ってきた。このコンソーシアムは、「スマホ」を用いてオンデマンドのモビリティサービスを地域コミュニティに提供することが特徴となっている。電話予約でも利用は可能だが、スマホを利用することで住民側は車両の位置情報サービスといったより多くのサービスを利用できるし、運営側も豊富なサービスを提供することができる。

 私が実証実験に携わるなかで出会った方々には、スマホを所持しているものの満足に利用できていない方が割と多くおられることが印象に残った。機種変更の際に勧められてスマホにしてはみたものの、電話とメールは使うがアプリをダウンロードしたことがないという方、文字をタイプする際、大文字と小文字の変換方法を知らないという方もおられた。

 一方で、ガラケーを使っている方に、「実証実験で提供しているサービスはスマホであればもっと便利に使えますよ」と話したところ、「そろそろ買い替えようかな」という発言が出たり、自分の娘からシニア用のスマホを渡されている方が「(一般的な)スマホを使いたいなあ」と意欲を見せたり、タブレットのWiFi接続の方法が分からなかった方が接続方法を習得した後はタブレットを手放さなくなったりする光景も目にした。さらに、一足先にスマホでサービスを利用している方が、スマホを利用していない人に便利さをアピールしている場面もあった。
 別の場面では、古いパソコンを使っていた人が、パソコンで顔を見ながら遠隔会議を行ったことで、パソコンのスペックが不足していることに気付き、より快適な環境を得るために新しいパソコンを購入したという事例を見聞きしたが、スマホの受容にも、似たようなところがあるようだ。つまり、価値のあるサービスを提供することができ、利用者側がその価値に気付けば、スマホの受容は一気に進み、行動を変容させる人が出現すると確信できる。

 昨今のコロナウイルス感染症の影響から、人々は家にこもってしまい、直接顔を合わせることが難しくなっているが、それでも人と顔を見ながら話をしたいと思うことは多いだろう。スマホを活用すれば部分的にもその願いは叶うわけで、これもスマホ受容を大いに進ませる契機になるだろう。

 スマホ受容を前提とした生活スタイルになると、様々なメリットが地域コミュニティのなかにも生まれる。例えば自治会活動では、各種合意形成に対面の会合や紙面での意見徴収などがこれまでは用いられてきたが、費やさなければならない時間や手間がネックとなり、若い世代は自治会活動から足が離れがちとなってきた。これが、スマホ活用が広く受け入れられるのなら、どんな人でも自治会活動に参加しやすくなるし、住民の意思の反映からコンセンサスを得るための意思決定過程が簡素化・迅速化され、合意形成を進めるための基盤が整備されることにつながるだろう。

 国土交通省が本年3月に策定した「MaaS関連データの連携に関するガイドラインVer.1.0」には、データが円滑に連携されることでより、精度の高い人の移動関連データを把握・活用することができ、「地域課題の解決につなげるとともに、地域の経済やコミュニティの活性化に寄与することも期待できる」と述べられている。ここでも人々のスマホ受容が前提となっている。日本総研が普及を目指すモビリティサービスの取り組みは、地域のスマホ受容を高めることも意識して活動を進めている。国が政策で掲げている円滑なデータ連携につながることも期待しながら、サービス向上を目指して引き続き内容を充実させていきたい。

 この連載のバックナンバーはこちらよりご覧いただけます。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

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