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日本総研ニュースレター 2020年1月号

気象災害による被害を回避せよ “三本の矢”が拓く気候変動「適応策」

2020年01月01日 新美陽大


拡がる気象災害、気候変動対策はビジネスの前提条件に
 平成から令和へと新たな時代を迎えた2019年も、日本列島には台風15・19号、その後に続いた大雨など、気象災害が相次ぐ年となった。農林水産業への被害額は4,000億円を超え、損害保険金の支払額は2年連続で1兆円を超える規模に達する見通しだ。
 気象災害の頻発化・激甚化は、世界各地でも拡大の一途をたどる。被害額は年間平均1,200億ドルを超え、気候変動による影響で住み慣れた場所から離れることを強いられる「気候難民」は毎年2,000万人以上にも上るとみられる。著名な英語辞書サービスを提供するOxford Dictionariesが、2019年を代表する単語として“Climate Emergency(気候危機)”を選んだのは、そうした状況に警鐘を鳴らすものだ。
 金融界でも気候変動が将来にわたるリスク要因であるとの認識が明確化され、急速に世界に普及しつつある。そのきっかけとなったのが、金融安定理事会の作業部会が公表した「TCFD提言」だ。すべての企業を対象に、気候変動によるリスクや機会が自社に与える影響についての分析・公表を求めるTCFD提言によって、気候変動対策は、企業にとってビジネスの前提条件に位置付けられたと言える。

検討遅れる企業の「適応策」、カギは「効果」明確化に有り
 これからの気候変動対策の主体は、事業を営む企業であるべきだ。温室効果ガスはさまざまな事業活動の結果として排出されており、また事業活動も気候変動による影響を大きく受けるものだからだ。
 気候変動対応策のうち、温室効果ガスを減らす「緩和策」は、パリ協定など共通のルールの下、すべての国や企業が一致団結して進めるべきものだ。一方、気候変動が各企業の事業活動に与える影響に備える「適応策」は、個社のビジネスのために行うものであることから、それぞれの企業に対応が委ねられる。
 ところが、「緩和策」と比べ、農業や土木など一部分野を除くと「適応策」の検討は遅れている。また、「適応策」を謳うのであれば、将来の気候変動の影響を分析したうえでの対策を打ち出すべきだが、公表されている「適応策」には、あくまで過去や現在の状況への対策に留まる事例も多い。
 その原因は、企業が「適応策」の費用対効果、特に「効果」部分を見積もることの困難さにあると考えられる。例えば、将来的な浸水リスクに備え営業所や工場の移転を対策として検討する場合、移転により回避できる損失額を効果として、移転費用と比較することで、要否を含めた対策の検討が可能となる。つまり損失額の算定には、温室効果ガスの排出量をはじめ、気候変動の進行度や気象現象の変化などの見通しを立てなければならないが、現状ではそれらのデータを一元的・網羅的に入手する方法が存在しない。

「適応策」を進める“三本の矢”、産学官ONE TEAMで実現
 あるべき「適応策」の検討を推進するには、企業が受ける影響の具体的な内容と必要な金額を明らかにすること、および企業が講じる「適応策」を適切に評価する枠組みが欠かせない。つまり、「気象災害による影響フロー」「定量評価ツール」の開発と、「『適応策』検討手法の定義・認証制度」の創設が必要となる。これら“三本の矢”が得られれば、企業は「適応策」に取り組みやすくなり、結果的に企業としても社会全体としても、気候変動に対する強靱性を高める効果が期待できる。しかし、気候変動予測のほか気候変動に伴う河川や農業への影響分析などにおいて、国内では複数の研究機関が世界トップレベルの要素技術を有するものの、企業の影響評価に直接用いるには適さない状態でしか情報を提供していない。このように“三本の矢”の材料は揃っているものの、実用化の開発は進んでいないのが現実だ。
 そこで筆者が提案したいのが、産学官による「気候変動『適応策』ラウンドテーブル」の開催だ。例えば、各研究機関が持つ先端技術と、気象災害と被害との関連性についての国内企業の経験知を融合させることで「定量評価ツール」の開発が進むはずだ。また、企業・研究機関・自治体などがそれぞれニーズやシーズを持ち寄れば、実効性の高い「適応策」の定義・認証制度を政府機関が設計することも可能となるだろう。それらは、日本そして世界のデファクト・スタンダードとしての「適応策」にもなり得るのではないか。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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