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【シリーズ:地域発イノベーションを考える】
支援機関における中小企業の販路開拓支援について

2020年05月13日 佐藤 潤


 行政や中小企業支援センターをはじめ、様々な支援機関が実施している中小企業支援の中で、最もメジャーな方法の一つに域外への販路開拓がある。企業の基本的な活動である「販売」について支援を行うものである。

 地方の中小企業支援においては、首都圏を中心とした域外に向けた販路開拓が主流となっている。2004年をピークとして日本全体の人口、特に地方の人口が減少し、地方における消費マーケットが縮小傾向にあり、都市圏への人口集中が進んでいることが主な要因と考えられる。

 地方で販路開拓の支援対象となることの多い食品や雑貨における支援方法を整理すると、一般的には大きく二つの手法がある。
 一つ目はスーパーマーケットトレードショーやギフトショーなど一度に数万人を超えるバイヤーが来場する大型展示会への出展支援である。
 二つ目は大都市圏の大手百貨店、小売店などのバイヤーを地元に招へいする商談会の実施支援である。

 前述のような社会情勢の中で、この二つの手法は極めて適切であるように感じるが、実情としては必ずしも支援を受けた中小企業が成功しているわけではない。
 例を挙げると、地方のある政令指定都市が実施した首都圏の大型展示会へ20社程度の企業を集めて出展した結果、実際に販路がつながり収益向上に至った企業は2割に過ぎなかった。

 なぜ、域外への販路開拓に失敗する中小企業が多く出てしまうのか。
 その要因を探るために、失敗するパターンについて考えていく。

①域外への販路開拓に関する事業計画を十分に策定できていないケース
 自社のどの製品を「どこの」「誰に」「いつ」「いくつ」「どのように売るのか」という最も基本的な計画を立てていないケースが該当する。
 これは、中小企業では事業計画を立てる習慣に乏しいことが原因になっていると考えられる。小規模事業者のうち47%が経営計画(事業計画や収支計画など)を作成したことがないという調査結果もある。 (出所:平成26年 中小企業庁委託「小規模事業者の事業活動の実態把握調査」)
②商品自体に域外で販売できる魅力がないケース
 消費地である大都市圏に向けて販路開拓を実施する場合、全国から良質の商品が集まる場所で目の肥えた消費者に競合商品と比較されるため、自社商品に何らかの優位性がなければ購買にはつながらない。
 優位性がない商品を域外の展示会等へ出展したとしても、購入するバイヤーは存在せず、実際の取引へはつながらない。この原因としては、前項とも重複するが「誰に売るか」を明確化していないため、消費者が感じる魅力を打ち出せていないことが大きな理由である。
③販路開拓(営業)に関するノウハウの不足により、自社の希望する販路先への販路開拓が上手くいかないケース。
 展示会における展示や商談のノウハウ、商談後から契約に至るまでのフォロー対応など、営業プロセスが確立していない場合は商品自体に魅力があったとしても、実際の契約にまで結び付かない。
 この原因としては、中小企業は域外販路開拓に関するノウハウを持った人材の不足など経営資源の不足が考えられる。

 前述のケースを一度整理していくと、

という、検討すべき各フェーズのそれぞれ、または全てにおいて問題が発生している可能性があることが分かる。

 現在行われている支援における最も大きな問題点は、販路開拓に関する支援が「展示会出展」、「バイヤー招へい型の商談会」など、「③ 販路開拓」に特化したものとなっていることである。
 「① 事業計画策定」、「② 商品開発」に問題がある場合には、「展示会出展」、「バイヤー招へい型の商談会」による支援策は問題解決につながらない。
 本来は、「① 事業計画策定」 → 「② 商品開発」 → 「③ 販路開拓」のすべてが関連性の強い一連の活動であり、このいずれかに問題が発生しても域外への販路開拓は成功しない。
 そのため、全体を一つの企業活動としてみていく必要がある。
 例えば、「① 事業計画策定」内のターゲット設定が誤っていた場合、事業計画の内容を修正することで「② 商品開発」、「③ 販路開拓」にも変更の必要性が出てくる。また、「② 商品開発」に問題があった場合、商品を改良すると「① 事業計画策定」、「③ 販路開拓」にも変更の必要性が出てくる。

 この問題を解決していくためには、前述の「① 事業計画策定」 → 「② 商品開発」 →「③ 販路開拓」を一つの企業活動としてみた上で、新たな支援方法を確立することが必要である。
 具体的には次のような手法である。

○問題点を明確化するための企業診断
 支援対象企業の問題点を明確にするために、複数の専門家を活用するなどして、様々な観点から総合的に、「① 事業計画策定」 → 「② 商品開発」 → 「③ 販路開拓」の一連の活動について分析を行う。
 特に三つのフェーズの、どこに、どのような問題が発生しているかを明らかにすることが重要である。

○問題に応じた支援方法を処方
(例)
・「① 事業計画策定」に問題がある場合
 → 専門家相談、派遣による事業計画策定支援等
・「② 商品開発」に問題がある場合
 → 専門家相談、専門家派遣、補助金による支援等
・「③ 販路開拓」に問題がある場合
 → セミナー、専門家によるVMD支援後に展示会出展支援等

 まずは、企業支援に精通した専門家などに協力を求め、企業の現状分析、問題の可視化を実施する。問題の内容に応じて、域外への販路開拓に関する支援だけではなく、既存の他の支援メニューを組み合わせて、最適な支援を行うことが求められてくる。
 これらの検討において最も重要となるのは、企業診断の精度を上げていくことである。
 企業の「域外への販路拡大」という表面化している問題に対して、「事業計画」、「財務」、「生産能力」、「商品」、「流通」、「販路」、「人材」、などの様々な種類の問題が包含されている。そのため、企業診断に専門分野の異なる複数の専門家を投入するなど、様々な角度から企業の問題を適切に把握する必要がある。それができなければ、企業の問題が適切に把握できなくなり、真の問題に見合った適切な支援を実施することができない。

 次に必要となるのが既存の支援制度を適切に処方する、いわゆるコーディネート能力である。問題に対して、必要な支援、優先順位、活用できる支援制度、等を把握した上で、企業とコミュニケーションをとりながら、伴走することが求められる。

 昨今、社会情勢やライフスタイルの大きな変化により、中小企業の問題が複雑化している。そのため、支援機関自体に求められる機能・能力も変わってきており、支援機関が丁寧に企業の問題の可視化を実施した上で、その問題に合わせた支援を処方していくことが求められている。支援機関には、「問題分析」 → 「適切な支援の処方」 → 「実施」、というコンサルティングやコーディネート機能の能力が今後必要となる。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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