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RIM 環太平洋ビジネス情報 Vol.20,No.77

中国の新しい外資誘致策-先端技術・ノウハウの取り込みが焦点

2020年05月19日 佐野淳也


習近平政権は2018年以降、外資誘致策を見直している。税制上の優遇措置の付与が中心であった従来の誘致策とは異なり、外資企業の不満を取り除くことに重点を置いている。主な不満解消策としては、①外資参入規制の撤廃、②財産権の保護強化、③企業を取り巻く不確実性の軽減、の三つが挙げられる。

習政権が外資誘致を強化する背景には、アメリカとの関係悪化がある。アメリカの要求する補助金の撤廃などには応じないものの、経済への影響を勘案し、受け入れ可能な分野では譲歩案をアメリカに示し、関連政策の見直しを進める方針である。知的財産権の保護強化や技術移転の強要禁止を盛り込んだ外商投資法のスピード成立は、外資誘致策の強化が米中経済摩擦の緩和を狙ったものであることを示す事例といえる。また、トランプ政権が中国の台頭を抑えるため、中国包囲の構築に力を注いでいるのに対し、習政権は、米テスラ社の上海での生産を認可するなど、外資誘致策の強化による包囲網の切り崩しを図っている。

世界一の製造強国を目指す習政権にとって、産業高度化は喫緊の課題である。産業高度化を加速させるには、海外の先端技術・ノウハウをさらに取り込む必要がある。これまで先端技術を取り込む手段として、海外企業の買収が多用されてきた。しかし近年、中国企業による買収への警戒感が海外で高まったことを背景に、習政権はもう一つの導入手段である外資企業の誘致強化を再び評価するようになった。もっとも、対中直接投資は、緩やかな拡大が続いているものの、製造業や情報通信関連といった業種への投資が芳しくなく、産業高度化が進まない可能性がある。こうした危機感も、習政権が外資誘致策の見直しに踏み切った背景とみられる。

対米通商協議が不利になるなど、先送りによるデメリットが大きいため、外資参入規制の緩和は実施される可能性が高い。一方で、技術移転の強要禁止や知的財産権の保護強化に関連する制度の運用面では、外資企業が不安を覚える要因がなお残されている。そのため、外資企業の事業意欲はあまり喚起されず、対中直接投資の拡大は緩やかなペースにとどまる見通しである。企業誘致を通じた海外の先端技術・ノウハウの獲得も、習政権が期待するほどには進まないであろう。
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