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RIM 環太平洋ビジネス情報 Vol.20,No.77

アジアにおける気候変動問題の深刻化とグリーン・ファイナンスの現状

2020年05月19日 清水聡


非財務情報であるESG要因(Environment, Social, Governance)を考慮する「ESG投資」が世界的に増加している。ESG要因の一つである気候変動リスクがもたらす潜在的影響は大きく、予測しがたい。不動産の担保価値の減少や経済成長の低下により、金融システムにも直接的な影響が及ぶ。さらに、中低所得国においては、地理的条件、農業への依存、対策を実施するための資金の不足などから、リスクは一層大きくなる。

現在の気温上昇の状況がもたらす長期的なリスクは、かつてなく大きなものとなっている。産業革命以前に比較して2℃以上の気温上昇が起これば、アジアでも沿岸部での浸水や浸食、山火事、多雨、干ばつなどがより頻繁に発生し、その程度も深刻化することが予想される。また、アジアの多くの人々の生計は、農業や土地利用などの気候に左右されやすい要因に強く依存しており、気候変動による経済的・社会的影響は貧困層を中心に大きいと考えられる。

気候変動の原因である温室効果ガス(GHG)の排出量を削減するため、2015年にパリ協定が合意されたが、世界の排出量に占めるアジアの割合は40%を超えている。排出量の削減に向けた課題として、低炭素エネルギーの利用拡大、エネルギー効率の改善、土地利用方法の変更などがあげられる。

主に気候変動がもたらす環境問題に対処するのがグリーン・ファイナンスである。温室効果ガスの排出削減は困難な課題であり、グリーン・ファイナンスの果たすべき役割は大きい。アジアを含む新興国では、経済成長が優先されやすいこともあって取り組みが遅れがちであるが、キャッチアップの動きも進んでいる。世界全体で、風力・太陽光発電の拡大や電気自動車へのシフトなど、各分野の取り組みを加速させる必要がある。

グリーン・ファイナンス拡大の前提として、政府による環境規制の強化や気候変動リスクの金融規制への反映などの公的な取り組みが必要である。そのうえで取り組むべき課題として、政策によってリスクを引き下げバンカブルなプロジェクトを増やすこと、資金を供給する金融機関の専門性を高めること、企業の情報開示や格付けにおいて環境要因を明示的に考慮すること、国際的なルール作りを推進することなどがあげられる。

資金使途を環境改善目的に限定したグリーンボンドの発行が急増している。発行代金が確実に環境改善に効果的なプロジェクトに用いられることが重要であり、そのための基準が各機関によって定められている。グリーンボンド発行の拡大に向けた課題はグリーン・ファイナンス拡大のための課題と共通する部分が多いが、加えて債券市場の整備やインフラ・ファイナンスの拡大などが前提となる。また、グリーンボンドへの投資が温室効果ガスの排出に対してもたらす効果を出来る限り明確化することが、投資を促す大きなインセンティブになると考えられる。
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