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新型コロナウイルス対策を巡って:サステナビリティや人材育成投資を重視する国における学校閉鎖と今後への視点

2020年04月15日 村上芽


1.学校閉鎖の状況
 ユネスコ(国連教育科学文化機関)の調べによると、新型コロナウイルス対策として学校閉鎖を行う国は188カ国に達し、その影響は約15億7600万人、児童生徒らの91.3%に上っているという(2020年4月8日現在)(※1)。
 ただその実態は、国によって差がある。ここでは、諸外国における保育所や小中学校を中心とした学校閉鎖状況の差異について、まとめておきたい。なお、本稿での調査対象国は、SDGs(持続可能な開発目標)への到達度や国民の幸福度、人材育成、イノベーション創出に関するランキングの高い国とした。対象国を絞ったのは、社会の持続可能性や革新的な人材育成について評価の高い国においては、学校閉鎖の方法にも何らかの工夫や特徴があるのではないかと考えたためである。

図表1:対象としたランキング一覧
図1

                               (出所)各団体発表資料より筆者作成(※2)


 6種類すべての調査で10位以内に入ったのは、デンマーク、フィンランド、スウェーデンの北欧3カ国である。加えて、5種類で入ったのはスイス、オランダであった。同種の調査では常に上位にランクインする欧州の国々ではあるものの、新型コロナウイルス対策のための学校閉鎖について、その態度は分かれた。
 上記5カ国で新型コロナウイルスの感染者が国内で最初に発生した日と、学校に関する主な発表があった日、並びに4月7日付の感染者数および人口対比の割合を一覧にした。

図表2:5カ国の対応
図2

         *1 WHOまたはジョンズ・ホプキンス大学の発表に基づく。
         *2 WHOの発表に基づく。
         *3 OECD資料による2018年時点の人口。


 各国の反応を見比べると、最初の感染者が確認されたのが一番遅かったが、真っ先に全国レベルで学校閉鎖を発表したのがデンマークであった。逆に、唯一、学校閉鎖をしない(現時点でそうしていない)のがスウェーデンである。同国の対岸に位置するデンマークをはじめ周辺国が一斉に学校閉鎖に動く中、スウェーデンでも政策の是非を巡っては大議論が巻き起こったようである。また、フィンランドも、閉鎖ではなく「特例措置」や「制限」という表現を多用している。
 なおこれらの国以外の欧州各国では、フランスやドイツも3月16日までに学校閉鎖を発表した。イギリスが最も遅かったが、3月20日から公立の小中高の閉鎖を発表した。

2.各国の対応
◆スウェーデン
 スウェーデンが、必要な場合には小中学校と就学前保育の一時閉鎖を可能とする法律を整備しつつ、一律閉鎖に踏み切らなかった理由の1つとしては、早くから高齢者や疾病を持つ人に自宅待機を要請し、かつ、医療等の必要不可欠なサービスの維持に優先度を置いたことが挙げられる。
 同国は15~64歳の就業率が82.9%(※3)と高く、人口あたりの健康・福祉分野の従事者がOECD加盟国でも2番目に多い。そうしたことから、保護者が医療等のサービスやそれに伴う仕事を持つ場合、子どもの平日昼間の居場所がなくなってしまうと、現実的には祖父母に頼ることが増え、高齢者に余計な負担がかかることが懸念されたようである。ただ、一律閉鎖に踏み切らなければならない状況に備え、仮に閉鎖となったとしても、どのような職業の人の子どもであれば保育サービスを受けられるのか、3月20日時点で詳しいリストを作成していた。
 また、小中学校は閉鎖しない反面、高校以上については3月18日に閉鎖し、即座にオンライン授業に移っている。高校以上の学校においては、18日以前の段階から教員に対し「準備だけはしておくように」という注意喚起がなされていた。
スウェーデンの3月30日付の発表では、高校生以上の子を持つ保護者に、「状況の深刻さを子どもに伝えるという親の責任を果たしてほしい」と要請するとともに、「若い人たちはこうした新たな状況下でも学び続けなければなりません」と述べている。
 なお、実際には、特に首都ストックホルムでは、保育所や小学校を開け続けるだけの職員の確保が困難となり、通常の半分程度の登校となっているとの話もある。
 スウェーデンが小さい子どもの居場所確保を重視するもう1つの背景は、平日昼間に子どもが保護者なしで過ごさざるを得なくなることによる事故等のリスクや、職場から自宅待機を要請された保護者のストレス等による体罰や虐待の発生を懸念したのではないかと考えられる。この国は伝統的にこうした事柄を優先して政策意思決定を行ってきた。家庭での体罰を同国が禁じたのは1979年に遡る。2020年1月1日には、国際条約である子どもの権利条約を実質的に国内法に統合したばかり(※5)でもあり、単に子どもの勉強が遅れるかどうかではなく、新型コロナウイルスとは違う意味での子どもの生存のリスクについて重く評価していると言えるであろう。
 続いて、フィンランド、デンマーク、スイス、オランダの主要発表資料において特徴的な取り組みを紹介したい。

◆フィンランド
 フィンランドでは、「学校閉鎖」というよりも、「対面授業(contact teaching)を制限する」という表現を一貫して用い、遠隔学習(distance learning)をはじめとする代替的な手法により、「授業は継続する」としている (※6)。
 また、0~6歳までの乳幼児教育については、遠隔は求めず、保育所などの施設は開いている。ただ、保護者に対して可能な限り在宅で保育するように強く求めている。さらに、小学校低学年にあたる1~3年生、障がいのある子、移民であるなどの理由でフィンランド語の学習を必要とする子どもの場合や、保護者の事情により遠隔学習を行えない場合には、対面授業の機会を確保している。
 国レベルの発表資料の中で、学校給食について詳しく言及しているのもフィンランドの特徴である。対面授業を行う場合、学校給食が提供される。遠隔学習を行っている場合でも、それが実施可能なら給食を提供することを禁じていない。実は、初期段階では「無料の給食は継続する」という表現もあったほどである。
 さらに、学校の判断により、毎日の学校給食が不可欠な子どもを特定し、濃厚接触を相当程度避けなければならない状況になっても、食事を提供することはできる、とも述べている。栄養不足に陥るリスクの高い子どもを学校給食によって守る道を残した措置である。

◆デンマーク
 デンマークは、学校や保育所、カフェやレストランの閉鎖も早々と決めた。これについては、感染拡大を緩和するための効果があるのかどうか、科学的な根拠については不明としながら、対策を小出しにするよりも一気にやることを優先させたと説明している。
 そして、3月30日時点で、少しずつ活動を再開する計画を発表した(※7)。デイケア施設(保育所)は4月15日以降、自治体が安全と判断できる状態になれば再開する。再開プロセスについては、子ども・教育省と健康省が指示を出すという。
 就学前教育~小学校5年生までについて、学童保育も同時に、同じく4月15日以降に再開する。より上級については、学校自体は閉鎖したままとするが、学年末にあたるため、各種試験等の実施について説明している。

◆オランダ
 オランダ政府は、「学校や保育施設は閉鎖する」と発表している。ただ、最終試験のために必要な場合には開けてよいとし、すべての教育は遠隔学習で提供される。
 また、この状況下で非常に重要な業種(crucial sector)および重要なプロセス(critical process)にある働き手の子どもや、脆弱な状態の子どもは、学校や保育所が提供する緊急時の子どもケアを利用できる。
 社会を動かしていくために「重要な」と定義された業種も、英語で公開されている(※8)。

図表3:オランダ政府が特定した重要業種


・医療・保健、医薬品や医療用機器の製造および輸送
・教育(遠隔授業を提供する教師と職員、学校での保育、試験監督)
・公共交通
・食料供給(スーパーマーケットおよびスーパーマーケットへの配送、食品製造業および関連する運輸業、農家からの集荷、畜産業のための飼料の配送、収穫に従事する人のための交通アクセスを含む)
・燃料(石炭、石油、ガソリン、ディーゼルを含む)の輸送
・廃棄物収集・運搬
・保育
・メディアおよびコミュニケーション、現状に関し必要な情報を提供するための仕事に関する場合
・緊急時サービス(警察と国防は別途指定済み)
・制御室関連業務
・消防サービス
・救急サービス
・地域緊急医療サービス
・地域の危機対策に関するサービス
・不可欠な政府サービス(中央~自治体まで)。例えば、手当や給付金の支払い、出生・死亡に関する手続き、大使館・領事館、拘置、法廷関連の業務

 業種とは別に、特定のビジネスプロセスについても「重要なプロセス」と特定される。約100が該当しており、これらの職業についている人は子どもを学校や保育所に通わせることができる。詳細はここでは割愛するが、上記の業種に加え、インターネット、飲料水、食品安全、原子力、電気・ガス、航空、化学、衛星システム、消費者向け金融、銀行間取引、防衛等が明示されている。
 全体を通じ、何が何に該当する・しないといった定義に関する情報の網羅性が高く、英語での情報も充実しているのがオランダの特徴と言えよう。
 なお、オランダ政府は、原則として「閉鎖」とすることを発表する前の段階では(発表の3日前)、学校等を閉鎖することによる効果は限られているとし、「子どもや若い人が学校または家庭において、学習を続けられる環境であることが大切である」と述べていた。結果としては一転したものの、学び続けられる環境づくりの大切さは初期段階から強調されていた。

◆スイス
 スイスでも、4月19日までの予定で学校等は閉鎖されている。連邦健康局の新型コロナウイルス対策サイトには「子どもと若者のためのヒント」がまとめられおり(※9)、室内、バルコニーまたは家の庭での過ごし方まで書いてある。バトミントン、卓球、ジャグリング、家具を動かしてスペースを作りクッションやマットレスを使った障害物競争をしよう、など、子どもと一緒に体を動かすことが最初に取り上げられている。
 また、オンライン上での情報提供として、6歳までの子ども向けの運動と遊びのヒント集、5~12歳向けのホームスクールと体操、若者向けの自宅でのフィットネス、ダンスビデオ、ホームスクーリング中の子ども向けの休憩時間用体操が用意されている。
 英語情報に限れば、学習に関する内容は限定的であった。

3.新型コロナウイルス対応後の世界への移行に向けて
 以上5カ国の対応を見比べると、「教育重視」が現れていたのはスウェーデン、フィンランド、加えてオランダであった。デンマークも、学校再開が予定どおり出来れば、予防も再開も早かった国として賞賛されることになるかもしれない。
 スウェーデンの場合には、新型コロナウイルスによって受ける経済的落ち込みや失業者の増加へ対処方針の一つとして、既に、高等教育や職業訓練での学び直しのために、受け入れ能力を増強する必要があること、中央政府の資金でそれを負担することを明確にしている。より高度なスキルをつけること、新たな資格を獲得することを呼びかけ、それを遠隔授業で可能にしようとするなど、失業対策として既に教育面での強化を打ち出しているスウェーデンのような国はまだ少数とみられる。
 フィンランドでは、あくまでも「対面授業」を制限するのであって学校閉鎖という言葉を使っていないこと、障がいのある子どもや移民の子どもなど、特に困難を抱えやすい層に対する中央政府からのメッセージが具体的であったことに特徴があった。
 オランダは、学校閉鎖と言いつつも、どのような職業が必要不可欠なのかを詳しく明示して、必要な働き手の子どもの居場所を積極的に確保していた。
 いずれも、人口規模で言えば小さな国の取り組みであることを踏まえると、日本では都道府県や広域の地方単位での今後の対策として、参考にすべき内容なのかもしれない。「移行」(transition)という言葉を既に使っているスウェーデンをはじめとして、危機を乗り越えるにあたっての教育施策、人材育成施策を、「北欧だからできる」「欧州だからできる」とあきらめてしまわずに学び、自分のところでは何ができるのかの検討にぜひ結びつけて欲しい。

(※1)ユネスコのウェブサイトで毎日更新されている。2020年4月9日閲覧。出所:https://en.unesco.org/covid19/educationresponse
(※2)SDGs インデックス 2019:SDSNおよびベルテルスマン財団「2019 SDGs Index and Dashboards report」出所:https://www.sdgindex.org/reports/sustainable-development-report-2019/
世界幸福度ランキング2020:学者らのグループがまとめた「世界幸福度報告書2020」の2017~19年の平均値によるランキング。図2.1。出所:https://happiness-report.s3.amazonaws.com/2020/WHR20.pdf
人財競争力インデックス2020:INSEAD、アデコグループ、グーグル「2020 Global Talent Competitiveness Index」出所:https://gtcistudy.com/the-gtci-index/
ブルームバーグ・イノベーション指数2020:ブルームバーグ「Bloomberg Innovation Index」出所:https://www.bloomberg.com/news/articles/2020-01-18/germany-breaks-korea-s-six-year-streak-as-most-innovative-nation
WIPOグローバル・イノベーション・インデックス2019:WIPO(世界知的所有権機関)、コーネル大学、INSEADなど「Global Innovation Index 2019」出所:https://www.wipo.int/export/sites/www/pressroom/ja/documents/pr_2019_834.pdf
IMD世界人財ランキング2019:IMD「The IMD World Talent Ranking 2019 results」出所:
https://www.imd.org/wcc/world-competitiveness-center-rankings/world-talent-ranking-2019/
(※3)OECD統計より。出所:https://data.oecd.org/emp/labour-force-participation-rate.htm
(※4)OECD「Health Statistics 2019」出所: https://www.oecd.org/health/health-data.htm
(※5)スウェーデン政府発表資料。出所:
https://www.government.se/government-policy/childrens-rights/
(※6)フィンランド政府発表資料。出所:
https://valtioneuvosto.fi/en/article/-/asset_publisher/1410845/varhaiskasvatuksen-opetuksen-ja-koulutuksen-rajoituksia-jatketaan-13-toukokuuta-asti
(※7)デンマーク政府発表資料。出所:
https://politi.dk/en/coronavirus-in-denmark/covid19-first-step-of-controlled-reopening-of-the-danish-society
(※8)オランダ政府発表資料。出所:https://www.government.nl/topics/coronavirus-covid-19/childcare-for-children-of-people-working-in-crucial-sectors
(※9)スイス政府発表資料。出所:https://www.bag.admin.ch/bag/en/home/krankheiten/ausbrueche-epidemien-pandemien/aktuelle-ausbrueche-epidemien/novel-cov/empfehlungen-fuer-den-alltag.html


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。






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