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【農業】
農産物流通のデジタル化の展望

2020年04月14日 各務友規


 デジタル技術を活用した農産物流通の効率化・高度化に期待が高まっている。本稿では、特に農産物流通の基盤となる技術やサービスに焦点を当て、筆者の見解を交えて農産物流通の展望を紹介する。

 日本の農産物の大部分は、集荷者(主にJA)、卸売市場、量販店等を介した基幹流通によって支えられてきた。これにより、全国に分散する大小様々な規模の生産者から農産物を集荷し、限られた鮮度保持期間内の安定供給を確保することが可能になった。さらに、農産物流通の全体をカバーし、農産物およびその取引の管理を可能とするプラットフォームの実用化が進んでいる。これらのプラットフォームは、農産物の情報(品目、品種、生産者、栽培履歴、出荷日等)や取引情報(取引の当事者、場所、日付、所有権の所在)をQRコードやRFIDといった識別子と組み合わせて記録し、サプライチェーンに係るプレイヤーで共有を図る仕組みだ。ブロックチェーン等の技術も適用され、高い透明性が確保されている。

 このプラットフォームの活用では、(1)トレーサビリティの確保、(2)産地証明・各種品質基準の担保、(3)消費者コミュニケーションの向上、(4)産地コミュニケーションの向上、(5)仕向け先・ロジスティクスの最適化、(6)在庫の仮想化、といった便益が期待できる。(1)~(3)の便益は言わずもがなであるが、これらのプラットフォームの真価は、これまでのプレイヤーレベルで操作可能な範囲を超えた(4)~(6)の実現であろう。例えば、量販店の農産物の調達は、安定供給の実現のために自社農園や契約栽培によるベースライン確保と需給バランスを鑑みた市場調達のミックスで成立しているが、この境界線が薄くなり、両者が実質的に融合していく可能性がある。農産物の性質、所在、所有権がプラットフォーム上で可視化されるため、需要が発生する場所にある農産物の所有権の帰属を取引の成立によって書き換えれば良いからである。これまでは、ある産地から出荷された農産物が東京等の市場で取引され、また元の産地に戻されて店頭に並ぶという事態もままあったが、こうした非効率が劇的に解消されるのだ。

 他方で、実需者ニーズの多様化に呼応するスモールマス(高価でも美味しいもの、希少なもの、見栄えの良いもの、伝統的なもの、特定の調理や加工に最適なもの等)の需要が拡大しており、これに対応した新たな流通体系の構築も進んでいる。スモールマスを供給する生産者と望む実需者をオンラインで効率的に結び付ける仕組みが、気鋭のベンチャーを中心にサービス化されている。

 これらのサービスの利用により、生産者の創意工夫が凝らされた、魅力的な農産物を低コストで手にすることができる。また、取引に介在するプレイヤーが減るため、中間マージンの削減効果が大きく、農業者の手取りも大きくなる。スモールマスの取引では、どうしても小ロットにならざるを得ず、産地-実需者間の運送費が高くなってしまう課題もあるが、取引単価の増大、小口輸送の集約や既存物流への統合等の施策で、さらなる普及拡大が期待される。生産者も消費者も顔が見えやすく、信頼関係が築きやすい利点もある。こうした点を活かし、相互評価制度の導入による継続取引の実現、取引単価向上の促進や、人気の高い農産物(生産者)の先行予約やグルーポンのような共同購買によるロット集約等も構想されている。
 マスを対象としたプラットフォームでも、スモールマスの流通体系でも、デジタル技術は農産物流通を確実に進化させているのである。

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※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。





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