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JRIレビュー Vol.5,No.77

薬剤費の推計−2001~2017年度

2020年05月13日 西沢和彦


薬剤費は「約10兆円」であるとしばしば言われるが、実際には正確な統計に基づくものではなく、ましてや病院・診療所・調剤薬局といった医療機関の種類別、入院・入院外(いわゆる外来)といった医療サービスの提供形態別の内訳なども分からない。これでは、医師や看護師などのヒト、薬剤をはじめとしたモノへの最適な財源配分の議論も覚束ない。本稿は、政府から示されている数値を解きほぐした後、2001年度から2017年度の薬剤費を医療機関の種類別、医療サービスの提供形態別に推計した。加えて、薬剤費の変動について考察を加えるとともに、統計整備に向けた課題を整理した。なお、本稿では、医師の処方を要する医療用医薬品のみを対象とした。

直近の2017年度の薬剤費は9.46兆円、国民医療費43.07兆円に占める薬剤費の比率(薬剤費比率)は22.0%であり、薬剤費比率は2000年代半ば以降安定的に推移しているとの結果が政府からは示されている。もっとも、かねてより指摘されているように、この薬剤費は実態に比べ過少であり、薬剤費比率の安定的な推移を額面通り受け止めるのも危険である。そもそも医療機関への診療報酬の支払いにおいては、出来高払いと包括払いの二つが併用されているが、9.46兆円は出来高払いにおける薬剤費に過ぎず、近年ウエートを高めている包括払いにおける薬剤費が含まれていないためであ。

出来高払いの薬剤費の内訳を過去に遡って推計すると、病院の入院外(外来)での薬剤費の推移がとりわけ目を引き、2001年度1.64兆円から2008年度1.25兆円までいったん低下した後、増加に転じ2017年度には1.97兆円となっている。これは、医薬分業および病院と診療所の機能分化という方向性と(良し悪しは別として)整合的ではない。包括払いが進むなか、投薬が入院外に振り向けられている可能性などが考えられる。

包括払いは、あらゆる診療行為に対し包括的に対価を支払う方法である。それは、もっぱら入院医療において用いられる。入院医療における包括払いのウエートは、2001年は15.1%に過ぎなかったが、2003年に導入されたDPC/PDPS(診断群分類別包括評価支払い制度)の顕著な伸びを受け、2018年は50.1%と過半を占めている。

包括払いの薬剤費を一定の仮定のもと推計すると、2001年度から2003年度は0.3兆円程度にとどまっていたが、以降包括払いの拡大とともに増加傾向を辿り、2014年度には1兆円を超え、2017年度には1.2兆円に達している。出来高払いと包括払いの薬剤費を合計すると、2017年度は10.7兆円となる。改めて2001年度から2017年度の薬剤費比率を計算すると2001年度の21.8%から2017年度の24.8%まで緩やかに上昇しており、ヒトとモノのバランスは、モノのウエートを高める方向で変化しているといえる。

そのほかにも、薬剤費の精緻な評価に向け、重要な論点がある。一つは、消費税抜き価格での表示であり、これは、とりわけ薬剤費比率を評価するうえで欠かせない。診療報酬は、技術料に相当する診療報酬(本体)と薬価に分けられる。診療報酬は消費税非課税とされながらも、実際は、診療報酬(本体)、薬価はそれぞれ約1.9%(本稿推計)、10%の税率で消費税が課税されている。消費税込みの薬剤費比率は、消費税の水準に左右される。そこで、消費税抜きの本体価格ベースで改めて薬剤費比率を計算すると2017年度は20.9%となる。厚生労働省から示されている22%より1.1ポイント低くなる。

もう一つは、医療保険から給付されるもの以外の薬剤を視野に入れることである。具体的には、介護療養型医療施設(介護療養病床)と介護老人保健施設(老健)は、2000年度に介護保険が創設された際、医療保険から移行された施設サービスであり、投薬・注射を含む診療行為も介護保険から給付されている。その薬剤費は、おおむね0.07兆円(2018年度)と推計される。また、予防接種にかかる費用は0.42兆円程度(2019年度)と推察される。このように考えると、薬剤費比率の定義も、分母・分子に介護保険や予防も含んだものへ修正されるべきであり、少なくとも、現行の定義と併用されるべきであろう。

今後、薬剤費の統計整備に向けては、包括払いにおける薬剤費の把握が最も重要なポイントとなる。包括払いの入院医療の主要3項目のうちDPC/PDPS、医療療養病棟の二つについては、医療機関から厚生労働省あて報告がなされており、その活用が優先的な検討課題である。特定入院料については診療報酬の改定に先立って実施されている「医療経済実態調査」を用いる方法がある。そこでは、DPC対象病院など医療機関の機能別に、支出の一項目として医薬品費が調査されている。

薬剤費に関する統計整備が改善を見せていない根本的な理由を探る必要がある。その一つは、薬剤費に関する情報のユーザーとして想定されているのはもっぱら行政であり、被保険者・患者・納税者である国民一人ひとりに重きが置かれていないことが指摘できる。1回の投薬で3,349万円を要するキムリアのような超高額薬は、今後も登場することが予想され、それらを果たしてどこまで保険給付範囲に含めていくのかという判断は、最終的には国民にゆだねられるはずであり、その際、統計は重要な判断材料となる。国民一人ひとりをユーザーとして想定することが、統計整備の起点であろう。
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