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北海道における地域包括ケア関連産業の社会実装に関する調査研究事業(令和元度老人保健健康増進等事業)

2020年04月10日 設楽隆行、山本大介田川絢子加藤彰


*本事業は、令和元年度老人保健事業推進費等補助金老人保健健康増進等事業として実施したものです。

1.事業の背景・目的
 地域包括ケアシステムは、生活者が重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援を一体的に提供するための基盤の実現を目的としている。すでに超高齢社会となった地方部では特にこうした基盤実現に早急に取り組まなければならないが、一方で基盤の持続性を鑑みた効率性も求められる。収縮する地方部の行政予算に依存した運営体制では、サービス提供を継続していくことが困難であり、民間事業者の資本・資源の活用が必須である。
 一方、民間事業者としては営利性あるいは投資回収が十分可能でなければ、地域包括ケアシステムへの参画は難しい。すなわち、「システム利用者である地域住民が抱える住まい・医療・介護・予防・生活支援に関する実際の課題や不安事項を解決/解消していくこと」と「営利事業としての持続性」の両立が求められている。そのためには、地域住民の課題を明らかにした上で、その課題をどのように収益事業と関連させれば解決に向かうことができるか検討しなければならない。
 特に北海道において地域包括ケアシステムの実現を目指す際には、次のような課題が想定される。
 
1)広大で多様性のあるエリア構成
 北海道は47都道府県の中で最大で、道内には東京、横浜、大阪、名古屋に次ぐ国内第5位の人口を抱える札幌市のような大都市が一方、東部・北部にはわずかな高齢者が暮らす集落群によって構成される地方部が広がっている。また、北海道は周囲を海に囲まれているため各地に漁港・漁師町がある一方で、日本最大の農産物生産基地でもある。中央部には険しい山地があるため中山間地エリアもあり、極めて地域性が多様である。地方部では集落間の距離が遠く交通機関も限られており、医療機関や介護施設への移動が容易でないことも多い。商業施設も都市部には全国チェーンをはじめとする多くの店舗があるものの、地方部では選択肢が少ない。

2)首都圏などに比べ進行している高齢化、都市機能の弱まり
 北海道の高齢化率は平成30年時点で31.3%に達しており、最も低い沖縄県の21.6%や東京都の23.1%に比べて非常に高い(令和元年版高齢社会白書)。大都市である札幌市でも若者の流出を完全に食い止めることは難しく、当面道内ではさらに進む高齢化を前提とした地域包括ケアシステムの構築を考えざるを得ない。各地に拠点都市はあるものの、高齢化と人口減によって地域を支える都市機能、医療機能も弱体化している点がある。

3)季節性や地域性による生活習慣の偏り
 北海道は冬季の低温・積雪のため道民の運動量は低下しがちであり、肥満率は全国平均と比べ高い。また、道内では地域によって食生活などの生活習慣も大きく異なる。いわゆる漁師町では魚介類は多く食べる一方で野菜が不足しがちであるなど、一次産業が盛んな北海道故の偏りが生じている。
 これらの結果として、北海道民全体としては①BMIが高い(平成28年調査ではBMI25以上の肥満者の比率が男女とも全国平均値よりも高い)、②野菜摂取量が少ない(平成28年調査では全国平均と同等だが、いずれも目標値350g/日を下回る)状況である。一方で20代女性はBMI18.5以下のやせ型比率は全国平均よりも高く、若い世代にもしっかりと食生活に関する啓発を行っていく必要がある。

4)未活用の栄養士人材資源(特に管理栄養士)
 北海道は東京・大阪に次いで全国3番目となる2,715名の日本栄養士会会員を有するが、その多くは医療分野での活動となっている 。他の地方部では地域活動での従事者が多く、北海道では都市部的傾向を示している。これらの栄養士、なかでも管理栄養士の役割は地域包括ケアにおいてはきわめて大きいが、北海道においても医療機関や介護施設のみならず民間事業者との連携においても一層の活躍が期待されるところである。

 こうした地域包括ケアシステムの整備において考慮すべき課題を踏まえ、民間企業主体の持続可能な事業モデル案の策定に向けた検討が求められるところである。また上記の課題は北海道で特に顕著ではあるものの、全国に類似性のある府県あるいは地域があると考えられ、そうした地域に向けて応用展開可能な「北海道モデル」として発信していくことにも意義がある。
 ただしこうした「北海道モデル」の全体をすぐに構築することは難しく、いくつかの要素に分けて検討を進める必要がある。北海道においては上の課題3)で示したように「食生活・食習慣の偏りによる健康影響」の問題があるが、食生活・食習慣については民間事業者のサービスとの関係性が深く、北海道モデルの検討に際し民間事業者が主体的に参画しやすい取り組み課題といえる。
 そこで本事業では、保険外サービス、特に食関連の事業を前提とした持続可能な地域包括ケアシステムの要素の在り方を検討することを目的とし、民間事業者を交えた検討および実証を行った。


2.調査方法・進め方
 本事業は、以下の実施内容、進め方で検討を行った。

 本事業では上記の目的を達するために、次のような内容の調査・検討を行った。

(1)食・栄養を通じた地域生活者向け健康増進サービス事例調査
 本事業の推進にあたり、食・栄養に関する情報提供や行為刺激を通じた健康増進サービスを地域包括ケアの対象となる生活者に向けて実施している事例について広く調査を行った。
 調査に際しては、インターネットや報道による公開情報を基に事業者および事業内容の概略を一覧化し、特に本事業への示唆が大きいものを抽出して詳細化し、後述の検討委員会で紹介し議論の参考とするものとした。
調査結果については第2章で記述した。

(2)検討委員会の設置・運営
 事業の推進にあたり、北海道内の事業者や食を通じた健康増進に係る活動を行う組織団体の主体的参画が必要になるものと想定し、以下のプロジェクト体制を組成した。
 さらに、プロジェクト参加者と事務局による個別協議の他、プロジェクト参加組織・団体の構成員による検討委員会を設置・運営し、調査の進め方、調査内容、成果物の内容等について適宜検討・確認・助言を得る形で進めた。検討委員会は計3回実施した。
 検討委員会での検討内容については、第3章で記載した。
注記:検討委員会は当初4回実施予定であったが、令和2年2月の新型コロナウイルス感染拡大に伴い第4回は中止となったため、予定していた調査分析結果の検討については事務局主体で実施した。

(3)実証調査の実施
 検討委員会にて検討した計画に基づき、北海道現地にて実証調査を行った。具体的には、本事業に参画している株式会社セイコーマートの札幌地域2店舗を選び、店舗近隣の会場で管理栄養士による食事と健康に関するセミナーを実施し、参加者に対してアンケートおよび野菜摂取量を簡易測定できるデバイス(注:株式会社カゴメが開発した「ベジチェック」)による測定を行った。さらに、セミナー前後約1カ月間にわたり参加者のセイコーマートでの購買記録を把握した(ポイントカード保有・使用者に限る)。なお、検討委員会の検討時には1カ月の期間終了時に再度フォローアップセミナーを行い、具体的な1カ月の食事や購買についてアンケートやヒアリング、ベジチェックの再測定を行う予定であったが、令和2年1月以降北海道で新型コロナウイルスの感染拡大が発生したためこれらは中止となった。

(4)実証調査結果の考察
 実証調査で得られた結果に基づき考察を行った。特に管理栄養士のセミナーによる情報提供という介入行為が対象者の購買行動に与えた影響についての検証を考察の重点とし、あわせて参加者個々の特性を踏まえた示唆や、今後の実証または事業推進に向けた示唆についても検討を行った。

3.結果の概要・考察
(1) 実証モデルに照らした調査結果の評価と考察
ここでは、実証にあたり調査設計時に想定したモデルに対し、得られた調査結果がモデルの妥当性を補強するかどうか検証する。
図表1は実証モデルの3つのプロセスごとに成果指標と照らして自己評価したものである。



 3段階のプロセスのうち、「啓発」プロセスの取り組みについては要改善と評価した。想定した成果指標のうち「セミナー・相談利用者数あるいは比率」に類する本調査の結果として「セミナー参加者数」を抽出したが、これについては特に住宅地域として想定した新琴似会場での参加者が少なかったことを改善対象とした。なお、もう1つの成果指標としては「利用客の栄養リテラシー向上」に相当する実証参加者の実証期間中のリテラシー向上度があてはまるが、これについては本来1カ月の実証期間の最後にフォローアップセミナーを行い、その際にアンケートをとる方法での測定を予定していたところ、新型コロナウイルス感染症拡大防止のため同セミナーを中止したため本調査では検証できなかった。
 セミナー参加者は、道庁会場についてはオブザーバーを通じて声掛けした職員の多くの参加を得られたが、新琴似会場については地域に向けたチラシ配布、回覧板による告知を行ったものの申し込み4名、参加は3名に留まった。新琴似会場での参加者の話によると「たまたまチラシが目に入った」「たまたま回覧板をちゃんとみた」ということで、十分な認知が得られていなかった様子であった。道庁については職場のネットワークを通じた告知であり、事業趣旨の説明も十分なされたため、職員の理解・協力を多数得られたものと考えられる。

 次に「計測/診断」プロセスについては、妥当な取り組みであったと評価した。成果指標のうち「簡易栄養測定実施者数または比率」に相当するものを「セミナー参加者に対するベジチェック測定実施率」とし、「参加者の栄養状態把握」は「セミナー当日の食生活チェックシートの記入・回収率」としたが、これらはいずれもセミナー参加者全員の協力を得ることができた。
 もっとも成果指標の観点からは妥当としたが、参加者数が多くなった場合に同様の結果が得られるような工夫など、改善の余地はある。計測デバイスについても今回はベジチェックを用いたが、セイコーマートの会員カード番号とベジチェックのデータは連動がないため、手入力を行うしかなかったが、今後はアンケートを含め効率のよいデータ蓄積・分析方法を検討していく必要がある。ベジチェック以外のツールについても検討が必要であろう。

 「介入・管理」プロセスについては、妥当な取り組みであったと評価した。成果指標のうち「個別アドバイス件数」に相当するものとして栄養セミナーにおける個別相談の参加件数とし、「利用者の栄養状態向上・行動変容結果」に相当するものとして、購買行動の改善(「ヘルシー」区分商品の購買率向上)とした。前者は参加者26名全員が個別相談を行い、購買行動は6名中5名の改善がみられた。これは対象者の食生活との関わりが深いセイコーマートが加わる場で専門的な情報介入を受けたため、セイコーマートでの購買場面において情報による態度変容効果がより強く働いたためとみられ、取り組みスキームの有効性を示すものであったと考えられる。

(2) 今後の事業展開への示唆
 成果指標の観点からは取り組みそのものに一定の意義が認められたが、本事業の当初目的に照らせば、北海道内の地域包括ケアシステムの中において本事業で実証したスキームを持続的に拡大・展開していく必要がある。そこで本節では今後の事業展開についての示唆を検討する。

今後の事業展開にあたっては、図表1に示したような改善案を取り込みながら、北海道内各エリアでの実証をステップとし、なるべく早期に収益均衡的(持続的)なスキームで各地の地域包括ケアシステム内で食生活改善が進む状態を目指すことになる。要点は3つである。

■要点1.事業対象エリアおよび対象者の拡大
 本年度は札幌市内で都心部・住宅部の一部地域・店舗で事業を実施したが、北海道の地域包括ケアシステムへの貢献という点ではこの範囲を拡大しなければならない。エリアの考え方については検討会でも議論があったが、概ね次のような区分設定が可能とみられる。
 ①都心部 : 札幌都心部など事業所が多く、勤労者による店舗利用が多いエリア
 ②住宅部 : 都市郊外の住宅地など一定の居住人口密度のエリア
 ③地方部 : 農村・漁村部など居住人口密度が低いエリア
 ①~③のエリア区分の中でも他の地域特性(例えば農村地域か漁村地域か)によって優先度や展開順を設定することになるが、実際の設定に際しては事業に参画する企業や地域包括ケア関連プレイヤーの事業資源も踏まえた検討となる。今回の事業に参加したプレイヤーの場合、セイコーマートであれば店舗網、北海道栄養士会では各地域の会員が該当する。 また、地方部では地域内の商業拠点としてセイコーマートの存在感が強く、地域消費に占める割合が高くなることが推定される。こうした場合は地域のコミュニティとセイコーマートとのつながりの強さも事業資源といえる。事業資源の強みが活かせることと、要点2に示す運営スキームとの兼ね合いで対象エリア、対象者を拡大していくことになる。

■要点2.費用対効果が高い運営スキーム
 本年度は厚生労働省による実証事業との位置づけのため民間事業者としての費用対効果の測定は困難であったが、次年度以降は民間事業者主体で持続的に展開できるスキームを検討する必要がある。スキームに必要な要素は以下の通りと考えられる。

<要素① 栄養士からの助言・コメント>
 今回の実証で「専門知識を持つ栄養士による助言・介入にインパクトがある」ことが明らかになった点を考慮すると、「何らかの形で栄養士の専門コメントを事業対象者に届ける」手段は確保すべきであろう。ただし実施方法としては、本来は対面によるセミナーや1対1の相談形式が望ましいが、多くの拠点・対象者への展開を考慮した場合は何らかの媒体を用いる方法も検討しなければならない。例えばセミナーの中で特にインパクトのある部分を短い動画コンテンツとしてアプリに取り込むことや、店頭音声、サイネージなどで紹介するような工夫も想定できる。

<要素② 簡易な栄養状態測定・記録ツール>
 今回の実証ではベジチェックによる簡易な野菜摂取量の測定を行ったが、それ以外のツールも含めたスキームに拡大していくことも考えられる。例えば、購買した商品の栄養価バランスを自動で判定するソフトウェアを組み込んだアプリケーションサービスである「SIRU+(シルタス株式会社)」や、簡易な尿検査で網羅的に栄養状態を把握できるキットサービス「VitaNote(株式会社ユカシカド)」などが挙げられる。
 これらの運用効率を改善するため、巡回測定サービスや職場・地域の健康診断での測定など対象者あたりの経費を抑制しながら多くの対象者に対し測定・記録を提供できる方法が必要である。店舗であればレジ横に数日間デバイスを設置し、レジ後の会員にセルフでの測定を促し、結果をスマホで撮影するといったオペレーションも考えられる。
 またセイコーマートでは独自のスマートフォンアプリを有するが、当該アプリを用いた告知やサービスプログラムとして本事業を展開していくことは十分考えられる。

<要素③ 実際に食生活を改善するための食品を購買する場>
 今回の実証では、食生活と関連の深い事業者が関わる形で情報介入を受けると、購買行動変容の効果が大きいことが示唆された。その点を考慮すれば今後のスキームでも「情報と商品の関連性を分かりやすく示す」形で購買行動に反映しやすい場を用意することは重要と考えられる。店頭に事業との関連性を示すPOPやサインボード類などを掲示し、栄養士による介入を想起させることも効果的であろう。費用対効果の点からすれば、左の内容は現行の商品プロモーションの拡張として実施できる範囲で取り組んでいくことが当面妥当と考えられる。
 
■要点3.地域包括ケア関係プレイヤーとの連携
 食生活改善効果を地域包括ケアシステムに組み込むには、医療機関や介護サービス事業者との連携が必須である。これは地域ごとの体制を作らなければならないため全道的な展開には時間を要するものと思われるが、医療あるいは介護サービス事業者とセイコーマートなどの本実証参加メンバーが相互に利用者の情報を共有し、それぞれの場で栄養状態に応じた介入を行い、適切な食生活への改善や場合によっては医療サービスの推奨を行うといったスキームが考えられる。これらの介入行為に付随してなんらかのインセンティブ・クーポンなどを発行しながら利用者の具体的行動を促すことが有効であろう。

 以上の要点をまとめ、イメージ図としてまとめたものが図表2である。



 繰り返しになるが、図表2の将来像を実現するためには、地域密着型のネットワークを展開する事業者と各地域包括ケアシステムの担い手が密に連携をしながら、地域の生活者に対して助言や健康の観点上より良い購買の勧奨、あるいは保険外の健康サービスや医療行為を提供していくことになる。
 今回の実証試験では、以下のような点については十分明らかにできていない。
 ・健康観点上より良い購買が行われた場合、事業者収益にプラスインパクトがあるか
・生活者にとって事業スキームに継続的に参加するインセンティブはどの程度必要か
・医療機関・介護サービス事業者と情報の共有が可能か(個人情報が含まれる)
 ・データの蓄積・分析によって生活者により優れた還元が可能になるか

 こうした点については、今後の段階的な実証の拡大・深耕によって明らかにしていかなければならず、引き続きの検討が求められる。

※本事業の詳細につきましては、下記の報告書本文をご参照ください。
【報告書本編】

本件に関するお問い合わせ
リサーチ・コンサルティング部門 コンサルタント 設楽隆行 
TEL: 06-6479-5592   E-mail: shidara.takayuki@jri.co.jp
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