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JRIレビュー Vol.5,No.77

超高齢社会における身元保証の現状と課題

2020年05月13日 星貴子


わが国では、賃貸住宅への入居、手術・入院、就職など様々な生活の局面において、身元保証人を立てる慣行が定着している。身元保証人は、債務保証から死後対応まで当事者の様々な行為や決断を第三者に対し責任を持って保証する役割を担う。日常の営みを支える手段の一つであり、これまでは家族がそれを担うことが一般的とされてきた。しかしながら、少子化や家族関係の希薄化が進行するなか、子や兄弟姉妹、親戚を頼ることのできない高齢者が増加しており、身元保証人を確保できないことで賃貸住宅への入居や疾病時に入院を断られるなどといった事態が相次いでいる。

身寄りのない高齢者は、現在は少数派に過ぎないが、当たり前の存在になれば、主に身寄りが債務保証から死後対応まで包括的に保証する現行の身元保証システムは、時代に即したものとはいえなくなる。非婚や出生率などが現行のまま推移すると、身寄りのない高齢者は、2040年には高齢者全体の4分の1に相当する1,000万人以上に達すると推計される。「人生100年時代」と称し、高齢者の活躍や豊かな老後生活が望まれるなか、身元保証人という「ヒト」が属人的にそれぞれの局面において包括的に保証するシステムを抜本的に改める必要がある。

現在でも、賃貸住宅への入居や入院時の債務保証、本人死亡後の諸手続きなど身元保証人に求められる様々な役割を代行するサービス(身元保証人代行サービス)や、家賃債務保証等の信用保証や身元信用保険といった金融サービスが、自治体や民間事業者によって提供されている。しかしながら、公的サービスについては、公平性、公正性の観点から提供できるサービスの範囲に限りがある一方、民間サービスについては、総じてサービス料金が高いうえ、法規制がなく提供サービスの範囲、質にバラツキがあり、使い勝手が悪いことから、利用者は限定的にとどまる。

家族や親族が高齢者を支えるべきとの認識が定着している現状では、一気に新たな身元保証システムへ改変することは容易ではない。次の三つのステップを踏んで徐々に改変することが現実的である。

既存サービスの健全化
民間事業者による既存サービスの健全化のポイントは、ⅰ)当該事業の管理監督省庁の設定、

事業免許制の導入、ⅲ)事業に関するガイドラインの作成と遵守の徹底、の3点である。免許については、3~5年など一定期間ごとの更新制とし、違反行為等があった場合には免許を取り消すことが求められる。

信用力判定・意思表示の基盤整備
信用情報の利活用に関するガイドラインの策定や新たな手段である信用スコアの基盤を整備し、保証を求める事業者あるいは保証サービスを提供する事業者が高齢者の信用力を適切に判断できるようにするとともに、意思表示が難しくなった場合や死亡後に備え、個人の臓器移植や延命措置に関する意思や遺言および葬儀等に関する指示などの情報をマイナンバーと紐づけて登録することが考えられる。

身元保証人の役割に応じた仕組みづくり

債務保証については、「ヒト」による保証から信用保証や信用取引保険への移行を進めることが重要であり、そのためには、上述のような管理監督省庁の設定や免許制の導入などサービスの健全化が求められる。

医療同意については、重大医療行為に関して、本人の意思をマイナンバーと紐づけて登録することを義務付けることや、医師・弁護士等の第三者による判定機関を創設することが考えられる。

扶養については、地域の実情に応じた地域包括ケアシステムの整備やIT等先端技術の積極的な導入が必要である。ⅳ)死後対応については、終活の一般化を進めるとともに、エンディングノートや死後事務手続きなどに関する本人の意向をマイナンバーと紐付けて登録、管理することが有効と思われる。
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