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リサーチ・アイ No.2019-064

さらなる進展が望まれる関西のテレワーク体制の整備

2020年03月24日 西浦瑞穂


新型コロナウイルスの国内感染が拡大するなか、予防策として在宅勤務などのテレワーク(ICTを利用し、時間や場所の制約を受けにくい柔軟な働き方)や時差通勤の実施が拡がっている。新型コロナウイルス感染の拡大以前は、働き方改革の方策として、あるいは、今夏の東京五輪・パラリンピック開催期間の交通混雑緩和のため、などが主眼であったが、ここにきて、ウィルス感染拡大防止やBCP(事業継続計画)の手段として焦点が当たる形となった。世界的にみても、3月以降は新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化し、各国政府は不要不急の外出禁止を求めるようになり、民間企業に在宅勤務を義務付ける事例(米国ニューヨーク州など)もでてきた。

関西のテレワーク導入状況を総務省「通信利用動向調査」でみると、企業数ベースでの導入率は2018年時点で18.8%と全国(19.0%)並み(図表1)。雇用者数ベースでの利用者率においても、国土交通省「テレワーク人口実態調査」による2018年の状況をみると、関西(17.4%)は全国(16.6%)をやや上回る程度にとどまり、国内における普及は限定的(図表2)。

大阪商工会議所が3月初旬に実施したアンケート調査では、感染予防対応としての「在宅勤務・テレワーク」を実施する関西企業の割合は18.2%であり、上述の調査と実施企業割合は同程度。早急な体制整備が難しいことが窺える。企業規模別での実施度合には格差があり、人員や体制面で制限が多いと考えられる中小企業での実施が困難な状況。また、資本金3億円超の企業であっても半数程度にとどまっている点も注目される(図表3,4)。

3月19日に大阪府と兵庫県は3連休中(3月20~22日)の府県間往来の自粛要請を行った。大都市圏は通勤・通学で県境を跨いで移動する人口割合が大きい(図表5)。京阪神地区を中心に一体的な経済圏を構成している関西経済における影響はとりわけ大きく、今回のように人の移動が制限される事態に備え、そのダメージを軽減できる手段を確保しておく必要性を再認識させるものであった。企業や公共機関が可能な限りテレワーク等の柔軟な勤務体制へ即時にシフトできる態勢を整えることは今後の大きな課題である。

平常時も含め、テレワークで得られるメリットの一つは通勤時間の削減(図表6)。以下で、その効果について簡単な試算を行う。テレワークの実施により(全ての就業日に通勤時間が発生しないとし、企業に雇用されている就業者(以下、雇用型テレワーカー)を想定)削減できる通勤時間が全て労働時間に置き換わると仮定した場合、関西の雇用型テレワーカーの割合が0.7%、人数で6万人増えると、その時間で生み出される価値は関西地域GRPの0.1%に相当する。関西の実質経済成長率が1%前後で推移しているなかでは無視できない影響力があるといえよう。先行する関東との雇用型テレワーカー割合の差は2.8%ポイントもあることを考えると、関西で1~2%上昇させることは殊更難しいことではないと思われる。

しかしテレワークの効用は、通勤時間が労働時間に置き換わるとの想定よりも、通勤時間が他の生活時間に置き換わることで疲労の軽減やゆとりを生み、結果的に生産性が高まるという側面に注目する方が、働き方改革がわが国の重要課題であるなか、意義が大きい。ちなみに、内閣府経済研究所の調査によれば、長い通勤時間は仕事以外の時間(家事や余暇等)から捻出することになるが、その調整がつかない場合は睡眠時間を削るところまで影響が及んでいる、と分析している。

新型コロナウイルス感染拡大は、期せずしてテレワークの導入を促すこととなったが、これを奇貨として、非常時における関西における経済活動の持続性確保、ならびに、様々な個別事情を抱える労働者が個人の力を十分に発揮しうる労働環境の向上、のために各所でテレワーク導入の議論が進むことが期待される。


さらなる進展が望まれる関西のテレワーク体制の整備(PDF:449KB)
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