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【スマートインフラ】
生態系エキスポとしてのCES2020に見る自動車産業のトレンド

2020年03月24日 程塚正史


 2020年1月、電子機器の見本市CESを訪問した。毎年1月に米国ラスベガスで開催されるCESは、近未来の産業構造や製品・技術の進化を感じ取るうえで重要な場だ。

 もともとConsumer Electronic Show(家電見本市)であったCESは、2016年から略称のままCESと呼ばれるようになり、電気製品だけでなく自動車などの大型製品や小型の電子機器、あるいは技術そのものの展示などコンテンツは実に多様化してきている。さらに近年は製品や技術だけでなく、生態系のコンセプトという抽象的な展示にますます重点が移っているように思われる。もちろんコンセプトに実体はないので表現が難しいが、それを体感できるよう、エンドユーザーなど利用者に提供する体験価値を、場の雰囲気全体で伝えようとしているブースが多い。

 象徴的なのが、GoogleとAmazonだ。「自宅内、移動中、オフィス、屋外など、あらゆる場所での自社サービスの提供が可能であり、それが近未来の生活だ」というのが両社のCES2020での主な展示内容であり、そのために、日系を含め電機、自動車メーカーなどとの連携を進めているという見せ方をしていた。まさに生態系そのもので、自社がその中心にいることをストレートに伝えるものであった。それぞれラスベガス市内の東会場と西会場のゲート近くにメインブースを構え、米国産業の二大巨頭然とした風格をまとっていた。このように、今やCESは家電見本市から先端技術展示へ、さらに生態系エキスポへとあり方が変わってきているように思う。

 近年、CESでの一大勢力となっている自動車産業も、生態系の展示がトレンドだ。日系企業で大きな話題になったのはトヨタとソニーだが、トヨタは静岡のWoven Cityを前面に出し、自動車だけでなく街づくり全体に言及していた。ソニーは音場制御など自社コンポーネントを活かした自動車関連ビジネス全体を展示し注目を集めていた。もちろん日系だけではなく、現代がUberやサンフランシスコ市と組んで大型ドローンでの旅客事業構想を見せていたり、Boschが自動車や家屋内の隅々に埋め込まれた自社製品間の相互通信によるサービスの可能性を示していたりと、自社のコア製品やコア事業よりも少し大きな領域のビジョンを描くことがCESでのトレンドであり、現在の自動車関連産業に求められていることといえるだろう。

 自動車産業の変化のベースとなる技術進化についても、CES2020でのコンテンツから考えたい。今年、ここ数年に比べて鳴りを潜めていたのが、自動運転だ。また、AIも殊更には言及されていなかったように思われる。一方で、通信の高速化・大容量化は、様々なコンセプトを実現するための技術として不可欠であることを謳うコンテンツは直接間接に多かった。上記に例示した街づくり、高度な音場の実現、空飛ぶクルマ、部品間連携などはいずれも、高速大容量通信が前提になるものだ。特にリアルタイムでのP2P(ピアツーピア)連携は、自動車産業の内外で可能性が模索されている状況といえる。AR(拡張現実)/MR(複合現実)/VR(仮想現実)は、5G環境下での用途探索中という感があり、当然自動車関連での活用も想定されるものだ。

 "CASE"が自動車産業の重要な変化と言われて久しいが、CESでの動きが象徴するように、このうち"Connected"の可能性は、まだまだ大きな可能性を秘めているといえるだろう。自動車を中心として構築される生態系を考える際に、自社製品が生態系全体のサービスの中でどのようにConnectedされるかというデザインが重要となる。CES2020は、改めてその点を感じさせる場であった。

 なお、CES2020は生態系エキスポだと表現したがそれは大手企業の話であり、西会場などのベンチャーブースはそれぞれの製品・技術の展示で熱気を帯びていた。大手による大掛かりな生態系展示と、ベンチャーによる機動的な動きと、CESは、どちらのワクワク感も味わえる貴重なイベントだ。熱量を互いに受け渡しできるこの場に感謝するとともに、次なる企画にこの刺激を役立てていきたい。

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※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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