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CSRを巡る動き:SDGsへの取組を評価する枠組み作りが開始

2020年04月01日 ESGリサーチセンター


 昨年末、日本政府はSDGs実施指針を3年ぶりに改定し、2030年までのSDGs達成に向けた政府としての考えを新たにしました。改定版では、地球規模の課題解決に向けて「成果を出していく」ことの必要性が語られ、これまでの普及・啓発段階から、「SDGsをどう達成していくのか」という実行段階に移行しつつある姿勢が窺えます。2020年のSDGs推進のための具体的施策として取りまとめられた「SDGsアクションプラン2020」においても、「企業経営へのSDGsの取り込み」が明記され、企業に対しても本業を通じたSDGsへの取組が期待されています。

 最近では、自社の事業活動に関連するSDGsの目標について、ホームページなどでロゴを使って自主的に開示する企業も増えてきました。その一方で、SDGsウォッシュ(企業やその製品・サービスなどが、あたかもSDGsに貢献しているかのように取り繕うこと)の懸念も指摘されています。SDGsに貢献すると宣言するだけでなく、取組による具体的な成果が問われようとしているのです。

 これまで企業のSDGsへの取組を評価する共通の枠組みはありませんでしたが、UNDP(国連開発計画)において、SDGsに資する投資や企業の事業を認証するための基準を作る「SDG Impact」というプロジェクトが進んでいます。SDGsに対して、投資や事業がもたらす影響(インパクト)に関する評価基準を定め、その基準に基づき第三者機関が認証するというものです。UNDPは2020年中に評価基準を公表する予定としています。現時点でプライベート・エクイティファンドの評価項目案が公表され、「(ファンド自身の)SDGsに向けた目標設定」「インパクトの測定・管理」「透明性と説明責任」について計18の評価項目が策定されています。そのうち、「インパクトの測定・管理」に関する項目が最も多く、10項目となっています。例えば、「投資先に対してインパクトを測定するためのパフォーマンスデータの提出を求めているか」「投資先を選定する前に、投資先企業の潜在的な投資へのインパクト・デューディリジェンスを行っているか」「投資後に、投資先企業のSDGsへの進捗について測定・監視・分析・評価を行っているか」といった項目が定められています。投資先企業の事業そのものに対する評価基準はまだ検討段階ですが、ファンドの基準に倣えば、投資先企業においても「SDGsへのインパクトの測定・管理を行う体制を整備しているか」といった評価項目が入ることが予想されます。

 また、SDGs達成に向けた企業のパフォーマンスを評価する指標の開発も進められています。国連財団や英保険会社のAviva、オランダのNGO であるIndex Initiativeが2018年にWorld Benchmark Alliance(WBA)という団体を設立しました。WBAはSDGs達成に向けた貢献が不可欠な主要プレイヤーとして、グローバル企業約2,000社を特定し、これらの企業のパフォーマンスを評価するための指標を開発しています。具体的な分野として、「気候・エネルギー」「ジェンダー平等・エンパワーメント」「シーフードスチュワードシップ」「デジタルインクルージョン」「食品・農業」を挙げており、加えて人権についてはCHRB(Corporate Human Rights Benchmark:企業人権ベンチマーク)が指標として活用される見込みです。案はWBAが検討しますが、その後、利害関係者との協議やパブリックコメントの募集を経て評価指標が最終決定されます。さらに、WBAは評価指標に基づき、公開情報やアンケートなどから収集したデータを基に企業を採点し、ランク付けを行います。2019年4月には、「シーフードスチュワードシップ」の評価指標と評価対象企業の採点結果を公表しました。「シーフードスチュワードシップ」の評価対象には、水産物や水産養殖用飼料関連の収入をもとに大手水産会社や商社など日本企業6社を含む30社が選定されました。水産業界が生態系サービスに大きく依存し、これらの生態系の健全性に大きな影響を与えることから、評価項目としては「生態系」に関する項目(絶滅危惧種の漁獲に関与しない方針を掲げているか、生態系への影響に関する情報を公開しているかなど)が最も重視されています。このほか、水産業界に携わる労働者に関連して、児童労働や強制労働など劣悪な労働条件が報告されていることから、人権や労働条件に関する評価項目も大きなウェイトを占めています。

 このように、SDGsへの取組を評価する基準の策定が進んでいます。こうした評価の枠組み作りの動きを見据え、企業においても、自社の事業活動がSDGsに対してどのような影響を及ぼし得るのか、具体的な説明が求められる機会が増えるでしょう。インパクトの測定に向けて、評価指標を検討するなどの準備をしておくべきではないでしょうか。

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