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ごみ処理の広域化検討の視点とマネジメントの必要性

2020年03月18日 副島功寛


1.地方自治体が広域化を推進する意義
 今、ごみ処理事業において広域化が注目されている。環境省の「持続可能な適正処理の確保に向けたごみ処理の広域化及びごみ処理施設の集約化について(2019年3月)(以下、「環境省通知」)」を受け、政策方針が国から示されるなか、推進主体となる地方自治体(以下、「自治体」)では、方針に沿った計画策定や事業検討が進められている。広域化の必要性については、同通知でも掲げられているところであるが、その推進には検討課題も多く、自治体としては、処理システムの見直しに躊躇することも少なくない。今後、広域化に向けた実務を本格的に推進していくにあたっては、自治体の現場の視点からその意義を確認しておくことが重要となる。
 わが国のごみ処理システムの安定は、自治体の行政能力に支えられてきた。社会環境の変化に応じて発生するごみ処理・リサイクル分野の社会課題に対し、対応を担ってきたのが自治体である。焼却施設の整備・運営はもちろん、容器包装や小型家電のリサイクルなどもその一例であろう。ごみ処理に対しては、交付金など国からの支援制度が整備されているとはいえ、自治体の人的・財政的負担は小さくない。廃棄物処理に要する自治体(市区町村)の費用(清掃費)は、2兆3108億円(2017年度)となっており、市区町村の全歳出約58兆円の4%程度を占め、道路橋りょう費(約1.9兆円)、商工費(約1.7兆円)等よりも大きい。
 そして今、留意すべきは、気候変動への対応や広域災害対策、地域への新たな価値の創出など、より難しい社会課題に自治体が対応していく必要がある点である。現状のごみ処理システムを前提としたままで、すべての自治体がこれらの課題に対応しきれると考えるのは、楽観的であろう。
 こうした背景を踏まえると、自治体がごみ処理の広域化を推進する意義として、「ごみ処理における自治体の負担の大きさを直視し、時代の変化に適応したごみ処理システムを構築することで、ごみ処理にかかる新たな社会課題に対応していく『受容力(キャパシティ)』を、自治体のなかに創り出していくこと」があると考えられる。具体的には、自治体の人員増や財源増が見込みにくい中において、広域化を通じて、①効率的な処理体制の整備、②事業の工夫余地の創出、③技術投資による処理システムの革新、等を実現し、現状の自治体の人的・財政的余力を生み出していくことである。

2.広域化に向けた検討の視点
 これまでも各地で広域化の検討が行われてきているが、あらためて上述した三つの視点から時代に即した広域化の検討について考えてみたい。

(1)効率的な処理体制の整備
 まずは、広域化に伴う処理体制をどう整備するかである。環境省通知にもあるように、市町村が合併せずともごみ処理にかかる事務の共同処理を行える方法として、一部事務組合(以下、「組合」)の設立、ごみ処理種類別処理分担、大都市での受け入れ、民間活用等がある。
 組合は、自治体側で法人格を持った共同の組織体を整備し、施設を所有して自治体側が主体的に事業を行う方法であり、わが国で一般的な処理体制である。組織体が安定しているため、人員や財政面から設立・運営が可能な自治体においては引き続き有力な選択肢となる。一方、組合議会と自治体議会の二重構造に起因した組織運営上の負担や自治体の人員抑制に伴う組合への持続的な人員派遣の厳しさ、といった課題が生じるケースもある。
 ごみ処理種類別処理分担や大都市での受け入れも実績に基づく有力な選択肢である。新たな組織体を設立する必要はないため、自治体側の組織体の運営負担が軽減されるとともに、自治体側で所有する施設数を削減できるため、施設整備・維持管理費用も低減できる。ただし、自治体間の負担の調整や公平性確保等への配慮が求められる。
 一方、自治体の人的・財政的負担軽減の観点からは、より踏み込んだ民間活用が有効である。これまでは、上述した組合やごみ処理種類別処理分担等と合わせてPPP/PFIを導入し、民間活用も行うケースが多かった。昨今では、自治体側の組織体を協議会等の柔軟な形態とし、民間の施設を活用して処理事業を委ねるケースも出始めている。PPP/PFIの普及に伴い、民間がより幅広い業務範囲を担える能力を備えてきており、自治体の施設のみでなく民間の施設や拠点ネットワーク・技術人材等を幅広く活用できる素地も整ってきている。民間事業者に処理事業を任せながらも自治体として処理責任を果たせるスキームを設計したうえで、地域住民に対し丁寧な説明を行い理解が得られれば、民間の経営資源を活用していく形で地域の実情にあった処理体制を構築できる。
 どの処理体制が効率的かは、各自治体の現状や特性、政策方針により変わってくる。いずれの方法を採るにしても、メリットと課題があるため、自治体の特性等を踏まえ、課題を抑えてメリットを拡大できる処理体制を見いだせるかが鍵となる。

(2)事業の工夫余地の創出
 広域化検討では、「量」のメリットにより参加自治体全体での事業性を改善することが基本である。その一段目のメリットが確保できるだけでも効果はあろうが、さらに、「範囲」のメリットにより、さらなる事業性の改善まで踏み込めるかがポイントになる。
 例えば、個別自治体に閉じずに事業範囲を設定し、相互の地域資源(一般廃棄物、下水汚泥、剪定枝、家畜排泄物、農業残渣等)を総合的に処理・活用し、施設の利用効率やバイオエネルギーの利用効率を高めるスキームを設計する方法などが考えられる。そこで生まれた地域エネルギーを各自治体の公共施設等で活用することで、地産地消を推進し、事業性を改善することも可能である。広域で検討することで、単独自治体の場合よりも工夫余地が広がる。
 一方、最適な収集運搬経路の確保、複合施設の運営、周辺住民への配慮など、ごみ処理事業に起因する課題や、バイオガス化や地域エネルギー事業に起因する課題、環境省・国交省・農林水産省、経済産業省など各省庁に所管が分かれることによる制度面からの課題等への対応が必要となる。
 広域での事業化により効率性や付加価値を高められる可能性が生まれるが、事業推進の難易度は増す。自治体負担の低減に寄与する事業構想を見いだしつつ、その構想を実践可能な事業に落とし込めるかが重要になる。

(3)技術投資による処理システムの革新
 前2項を通じて人的・財政的余力を生み出す検討を進めたうえで、さらなる負担軽減策として、新たな処理システムの整備に向けた「革新技術への投資」が考えられる。広域化では複数自治体が共同で事業を行うため、単独では難しい設備やシステムへの投資を、各自治体で分担して負担することができるからである。
 新たな設備やシステムへの投資を伴わない広域化も当然あり得るが、新たな社会課題への対応を見据えた場合、ごみ処理と他インフラの複合事業における統合的な管理や広域災害への対応、老朽施設の長寿命化を図る維持管理など、新たな機能整備のための設備・システムへの投資が必要になる。例えば、IOTを使った統合管理、蓄電池・EV充電設備、センサーや分析システム等が想定される。こうした投資は、投資判断に必要な費用対効果の実績情報等が存在しないこともあり、最初に投資に踏み切ることが難しいが、実績ができた後の普及による社会全体への導入効果は大きい。
 検討に向けた留意点として、こうした革新技術の実装では、自治体側で性能を規定し、調達を行う従来のPPP/PFI手法のみでは実現が難しい点がある。専門家や民間ノウハウを投資の計画段階から取り込む仕組み等、新たな官民協働の進め方も取り入れることが必要になる。

3.広域化にかかる実務課題とマネジメントの重要性
 広域化への期待感は高いが、先に示したとおり、その推進にあたっては多くの課題がある。以下に主な課題を例示する。

(1)用地確保
 広域化に参加する自治体のうち、どこに施設が立地するかは事業検討時の重要課題である。広域化の共同検討を行う自治体同士は、地理的に近接しているケースが多いが、いずれかの自治体内に用地が確保できず検討が頓挫するケースも少なくない。他自治体のごみが自分の生活区域に搬入されることに対し住民が拒否反応を示すことが、用地確保を難しくしている。近年では災害時の避難所としての機能や余熱利用・環境学習機能、ごみ発電機能等、施設が近接するメリットへのポジティブな見方も醸成されつつあるが、ごみ処理施設による地域のブランドイメージへの影響やごみ収集車による渋滞懸念等を懸念する意見も根強い。
 こうした状況を踏まえ、工業地区など住民への影響が小さい用地を活用する、民間用地を活用する、環境負担金を徴収するなど、様々な対応策が検討されている。地元の理解を得るための工夫は、広域化を前に進めるための最優先の課題といえよう。
 
(2)事業スケジュールの調整
 各自治体の施設更新時期が異なるため、施設の有効活用の観点から広域化による施設の統廃合が進みにくくなるケースも少なくない。自治体数が増えるほど、事業スケジュールの調整が困難になる。また、施設更新時期が重なる期間は一定期間に限られることもあり、長期的視点に立って早めに検討を開始する時期を見極めることが重要である。
 この点については、施設整備の計画段階でないと広域化の枠組みに参加しにくいという柔軟性の低さが課題ともいえる。他団体による途中からの参加も認めるような、柔軟な参加形態や処理委託料の設定を模索することも必要になる。

(3)既存の組織体との整合
 各自治体ではこれまでも広域化を模索しており、すでに特定の自治体間で組合等を設立しているケースが多い。組合組織が運営されていれば、当該組織を存続させて活用する方針がとられやすく、人員配置の問題等もあり、組織体を見直すことのハードルが高い。また、後から新たな自治体が既設の組合に加わることも、既存自治体と新規自治体間での費用負担の考え方等が折り合わず、実現が難しいケースが多いと思われる。
 こうした点を踏まえると、まずは既存組織をうまく活用する方法を考えていくことが重要になる。特に、現在の組織体が採用されたことで処理が安定的に行われてきた場合、既存組織体のコンセプトを継続しながら組織の更新を図る方が関係者の理解を得やすい。
 一方、既存の組織体がない、あるいは固執する必要がない場合には、他団体への処理委託等、幅広い代替案のなかから最適な組織体を模索できるといえる。

(4)合意形成の進め方
 広域化を検討する際、組合等の組織体がない場合には推進会議や協議会等を設置し、共同で協議する場を設けることが多い。有識者から意見を聴取する委員会等を設けるケースもあるが、合議の場を意思決定者、実務責任者の各レベルで設けつつ、最も規模の大きい自治体や施設の立地自治体等が実質的に検討をリードし、参加自治体の合意を得ながら方針を決定することが多い。一方、近隣自治体の間には過去に様々な歴史がある。合意形成の進め方に配慮を欠いてしまうと、広域化により相互にメリットが得られる場合でも検討が前に進まないことになる。地域の歴史認識に立った協議の進め方も推進の鍵となる。

 上述したような課題について対応策が整っており、広域化検討を進めやすい環境のある自治体間はよいが、通常は実務的に多くの検討課題があり、推進のハードルは低くない。もともと実現に必要な条件が揃いにくい場合もあり、結果として各々が自団体のみで実施する方がよいとの結論に至りやすい側面がある。
 しかし、広域化は「ゼロサム」で検討すべきではない。すべての条件が整わない場合にすぐに広域化をあきらめるのではなく、最終的に目指す広域化の姿を想定しつつ、フェーズを区切って広域化に向けた布石を段階的に打ちながら、幅広いステークホルダーの合意形成に時間をかけて進めていく発想が有効である。
 つまり、広域化の実現には、広域化推進プロジェクトをいかに中長期的にマネジメントするかが重要になる。課題に直面する都度代替案を考案し、行政・民間・市民といった幅広いステークホルダーの目線に立って事業を構想し、関係者の理解が得られるよう進め方を工夫したうえで、具体事業に落とし込んでいく活動を粘り強く実践できるかが成否を左右する。

4.既存の調達方式のみにとらわれない柔軟な検討の在り方
 上述したように、広域化推進は、自治体にとって高度なマネジメント能力を求められる取り組みである。課題に対処する代替案を考え出す幅広い知見や、事業の構想力、具体事業に落とし込むための現場ノウハウなどを自治体の中で備えている場合もあろうが、多くの自治体にとっては簡単ではないのではないか。
 各自治体が広域化で目指す姿は多様であり、その検討方法にも多様な選択肢があるべきである。一方、最新のトレンドを踏まえ、時代に即した地域の処理システムを構築するには、検討の早い段階から民間の知見・ノウハウ・リソースを取り込む方が、結果として自治体にとっての検討負担の低減やプロジェクトの停滞回避につながりやすい。
 先に示したとおり、民間の知見等の活用においては、公共側で発注性能を示して提案を求める従来のPPP/PFIによる調達だけでは十分に機能しない可能性がある。広域化推進にあたっては、①自治体側から基本的な事業条件を提示したうえで、民間からの提案を募集する、②官民協働で事業検討するため、官民協働事業体に出資しパートナーとなる民間事業者を選定する、など、既存の調達方式にとらわれない柔軟な検討の在り方も模索すべきであろう。

 環境省が示した計画の策定期限は2021年度末となっている。ごみ処理施設の耐用年数を勘案すると、2020年度は、2050年という次世代のごみ処理システムを方向づける重要な時期ともいえる。わが国の官民が蓄積した幅広い政策・事業ノウハウを投入した広域化検討のマネジメントが、今こそ求められている。
以上

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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