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効率的・効果的な医療提供体制構築に関する提言

2020年02月07日 効率的・効果的な医療提供体制構築に向けた研究チーム


*本事業は、米国研究製薬工業協会(PhRMA)の協賛を受けて実施したものです。

提言資料(本体)
提言資料(サマリー)

1.背景

 国民医療費の増大により、「医療費削減」が各所でうたわれているが、高齢化率で補正した国際比較をすると日本の医療費は突出して高くはない可能性があり、削減ありきの議論にのみ注力すべきではないと考える。2060年代に高齢化率40%に達すると推計されている高齢化の進行と極めて厳しい財政状況を鑑みれば、限られた医療費財源を効率的・効果的に配分するシステムへの転換が必要である。
 国民医療費の削減においても、これまでは薬価・材料価格の改定で削減の多くを賄っており、医療費支出増大の要因全体を捉えた対策が可視化された上で検討されているとは言い難く、今後も持続的な医療保険制度を確保するためには、制度全体の改革が不可欠である。
 適切な財源のもと、医療制度全体において効果的・効率的な医療提供体制を構築するために、政策決定者がどこに優先して目標を設定して医療資源を充当し、工程化して実現を図るべきかという観点で、本提言を構築した。
 従来の政策提言は医療資源投入量(=医療費の増減)を主な評価指標とし、改革・改定を進めるものと考えるが、本提言は患者・医療従事者の視点で、価値に基づく医療が推進されることを目指した。

2. 提言策定の手法

(1)国民医療費分析による問題領域選定
 国民医療費のどのセクションが課題であるかを検討した。国民医療費を入院費・入院外費・薬局調剤費に分けて、それぞれ回数(件/人)、日数(日/件)、診療報酬(円/日)を国内経年比較、国際比較を行った。

(2)問題領域の改善のための提言策定
 問題領域において、現状の政策整理および課題を整理した上で、医療財源の効果的・効率的な配分、患者視点の医療の実現という観点で“あるべき姿”に近づけるために、何をする必要があるかという視点で、本提言を策定した。

(3)有識者ヒアリング
 策定した本提言について、シンクタンク、メーカー、業界団体等を中心にヒアリングを行い、提言内容の妥当性、実現可能性への助言を受け、ブラッシュアップを行った。

3.本提言の概要

[提言①] 医療保険全体に対する価値に基づく医療の実装
 医療保険全体において、効率的・効果的な医療の速やかな導入(イノベーション促進)と、非効率・非効果的な医療の退出(有効性再評価)を促す「医療の効率的・効果的な資源配分の仕組み」は完全とはいえない。そのため、外来を中心とした医療サービスの投入量に着目した診療報酬体系では、投入するサービス量の増大を招きやすく、効率的・効果的な医療制度の構築が難しい。
 医療の「投入量」ではなく、医療保険全体に対する価値に基づく医療がより評価される環境により、効率的・効果的な医療がなされ、イノベーションが促進されている状態があるべき姿と考える。あるべき姿の実現に向け、価値に基づく医療を実現する医療制度への変革を政策目標に据え、制度の研究・工程立案を行うことが重要である。

[提言②] 医療の第三者有効性再評価制度強化
 認可された医薬品・医療機器・医療技術について、安全性について検証が行われる仕組みはあるものの、継続的に有効性を検証する機会はほとんど無く、有効性の根拠に乏しい医療が漫然と実施されてしまう可能性がある。現在の医薬品あるいは医療機器の費用対効果分析はコスト(価格)に着目しており、かつ実施時の企業・行政に対する負荷が高いため、費用対効果分析の仕組みをそのまま拡大して対応することは現実的ではない。
 認可された医薬品・医療機器・医療技術の有効性について、データがあるものについては第三者機関等による継続した低コスト(1施設当たり1件数百万円ほどで年間60件ほど対応)での検証制度を導入する必要がある。これにより、期待された有効性を発揮できていない医療を「有効性がポジティブでないリスト」として作成し、再評価、診療ガイドラインなどの検討材料となって、診療報酬体系に適切に反映され、国民や医療従事者に周知されるべき。

[提言③]  地域医療構想での患者目線の医療計画も踏まえた在宅支援強化
 日本の平均在院日数は国際的に見て長く、平均在院日数と病床数には相関がある。仮に医療機関が過剰な病床を有する場合、患者を早期に退院させて空き病床を発生させるより、当該病床の利用率を維持するために入院日数を長くする方が、医療機関として収益が高くなる場合がある。患者視点では、家族の希望や入所先の確保の難しさなどで、退院が簡単にできない現実もあり、患者ができる限り早期に退院できる環境のさらなる整備が必要となっている。
 対象患者像をより明確にした在宅分野の強化、各自治体の外来患者数の将来動向を踏まえた病院経営への影響、病床数適正化後の空きスペースの活用や雇用創出策の当該関係者への提示・周知が求められる。また、国、都道府県の方針に基づき、地域の公立・民営病院の病床割合なども考慮した医療計画の策定も検討すべきである。

[提言④]  患者の予防・疾病管理も診るかかりつけ医と患者のマッチングの仕組み確立
 日本は、国際的に一人当たり受診回数は多く、日本の医療保険制度の特徴の一つである 「フリーアクセス」の下、適切な施策がなされない場合、不必要な外来診療を生む要因の一つとなり得る。大病院などへの紹介状なしの初診患者比率は61.4%(平成29年)あり、定額負担を支払って大病院へ受診する理由からも、患者が安心して判断・納得できる情報やリテラシーが十分でなく、不必要な受診が発生する余地があると言える。
 病院外来患者数の制御(診療所外来患者数の増加)による医療費削減効果の試算もあり、不必要な受診の削減に向けて、適正な受診を促すプライマリケアの推進が有用と考える。現状の医療制度に応じた患者主権によるかかりつけ医の登録制度や、患者が安心して医療を受けられる地域での複数医師+多職種でのチーム組成を検討すべきである。

[提言⑤] 地域での対人業務強化に向けた開局薬剤師の臨床教育等強化
 院外処方の料金は、院内処方よりも平均3.5倍高い状況にあるが、患者への追加的な価値提供は十分ではない。一方で、開局薬剤師は、人口当たりで多いが、調剤業務に時間をとられており、対人業務での価値提供が行いにくい環境にある。
調剤支援員が調剤業務を支援し、薬剤師が患者に対する業務により専念できる環境を目指すべきである。ただし、医療の出発点は医師としている日本の制度上の利点も踏まえ、慎重な検討が必要となる。
 また、薬局薬剤師の多くは、患者の他の薬局での処方履歴や検査値などのデータを把握し得ない。医療機関は生活習慣病などで、処方箋に患者の検査値を記載し、開局薬剤師と連携した取り組みを進めるべきである。
 上記に向けて、薬剤師においては育成・薬局業務の見直し、患者においては医療リテラシー向上が必要となる。
 
[提言⑥] 超高齢化社会を踏まえた給付と負担適正化
 高齢者人口の急増に伴う歳出増に加え、生産年齢人口の急減に伴う歳入減が進行しているが、所得や医療費支出の状況によらず公費が投入され、給付と負担の関係が崩れている。国民は、医療保険制度が実際よりも安価に運営されていると錯覚しかねず、需要行動を歪める要因となり得る。
 超高齢化社会の実態に応じて、医療費の削減ありきではなく、適正な規模の財源確保についても検討すべきである。

<本提言の帰属>
 本提言は、株式会社日本総合研究所「効率的・効果的な医療提供体制構築に向けた研究チーム」が公正・公平な視点を心がけて、患者・医療従事者視点で中長期的な観点から社会貢献をしたいと考え、意見を取りまとめ、提示するものである。

<効率的・効果的な医療提供体制構築に向けた研究チーム>
取りまとめ リサーチ・コンサルティング部門 シニアマネジャー 川崎真規
社内アドバイザー 調査部 主席研究員 西沢和彦
社内アドバイザー リサーチ・コンサルティング部門 部長/プリンシパル 南雲俊一郎
社内メンバー 青山温子 芦沢未菜 安部航司 石井達也 小倉周人 川舟広徒 木下友子 田川絢子 徳永陽太 野田恵一郎 望月弘樹 森下宏樹 山本健人

<本件に関するお問い合わせ>
シニアマネジャー 川崎 真規
E-mail: kawasaki.masaki@jri.co.jp
TEL: 06-6479-5566
コンサルタント 小倉 周人 
E-mail: ogura.shuto@jri.co.jp
TEL: 03-6833-6704
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