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農産物輸送における貨客混載

2020年01月28日 多田理紗子


 農産物の輸送をめぐり、輸送効率の改善が喫緊の課題となっている。農産物輸送の主たる担い手は自動車輸送業者である。しかし、自動車輸送業では、長時間労働、低賃金といった理由からトラック等のドライバー不足が深刻化している。そのため需要家が支払う輸送費は上昇しており、トラックへの依存度が高い農産物輸送では農業者のコスト増大が避けられない状況が生まれている。特に、首都圏から離れた地域の農業者からは、消費地への輸送費がここ数年で急上昇しているといった声が聞かれる。農業者の負担軽減のためには、輸送を効率化し、輸送費を抑えることが不可欠になってきている。

 こうした問題の解決手段に、公共交通機関を活用した貨客混載がある。農産物の貨客混載は、鉄道、バス、タクシー等を活用し、旅客と農産物を同時に輸送する取り組みである。生産地から消費地の拠点への輸送において特に効果が大きく、地域の輸送拠点に農産物を集め、高速バスや鉄道といった既存の公共交通機関に積載し、首都圏や地方都市へと輸送する事例が全国各地で見られている。
 
 貨客混載の取り組みは、国内の人流・物流業界の危機的な状態を背景として始まったものである。人口減少が進む地方を中心に、利用客の低迷により厳しい経営状況に陥る公共交通事業者は多く、廃線に至る事例も発生している。地域物流に関しても、ドライバー不足、過疎地の配送効率の低下等、課題は多い。そのような中、人流・物流の効率化手段として、公共交通機関を利用した貨客混載の検討が始まった。従来、旅客運送事業者と貨物運送事業者の事業範囲は、それぞれ貨客および貨物の輸送に限定されていたが、2017年9月より一定の条件の下で旅客運送と貨物運送の事業の「かけもち」が可能になった。こうして、現在、貨客混載の取り組みが全国で広がりつつある。

 農業分野でも、生産地から消費地への輸送に公共交通機関を利用することができれば、輸送効率の改善と輸送費削減が期待できる。実際の取り組みにおいては、多くの場合、農産物専用の保冷ボックス等を導入し、農産物の品質を保つ工夫がなされている。地域で採れた農産物をその日のうちに実需者に届けられるという、新たな価値の創造に成功した例もある。輸送の効率化のみならず、生産者にとって新たな販路獲得の方策ともなり得る。

 一方で、貨客混載の取り組みには難しさもある。取り組み主体や有識者とのディスカッションから見えてきた課題を2つ挙げたい。1つ目は、関係するプレイヤー間の調整の難しさである。貨客混載は単一事業者では実現できず、発送元となる生産地関係者、交通事業者、受取先となる消費地関係者といった様々なプレイヤーの協力があって初めて成立するものである。実際の取り組みにあたっての具体例を挙げれば、荷物の積み下ろしはどこで誰がするのか、輸送容器は誰が設置するのか等、検討すべき事項は多い。
 2つ目は、生産地および消費地における輸送の仕組みの構築である。貨客混載の取り組みは、生産地と消費地の間の輸送における効率化に貢献するが、農業者のもとから発送拠点までの輸送、受け取り拠点から小売り、飲食店等実需家までの輸送に関しては、別途の検討が必要となる。確かに、ルートの中程だけを見れば、貨客混載は農業者の輸送費負担削減および新たな収益拡大につながり得る取り組みである。しかし、圃場から離れた輸送拠点まで農業者自らが農産物を運ぶ必要が生じる等、新たな負担が発生することも考えられる。農業者のための取り組みが農業者の負担となっては本末転倒であり、十分な検討が必要となる。

 農業分野における貨客混載の取り組みは、まだまだ発展途上である。検討すべき課題も多々あるが、農産物輸送の効率化の手段として、これからの広がりに注目したい。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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