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アジア・マンスリー 2020年2月号

対外関係と投資環境の改善が課題のミャンマー

2020年01月28日 塚田雄太


2010年代もミャンマー経済は、高い期待とは裏腹に低迷が続いた。これは非民主的な軍政と外資誘致環境の未整備が主因である。先行き、対外関係の改善と経済構造改革を進められるかが注目される。

期待とは裏腹に停滞が続くミャンマー経済
2011年の「民政移管」以来、ミャンマー経済は高い注目を集め続けている。もっとも、ミャンマーが注目されるのはこれが初めてではない。1990年代前半に最初のミャンマーブームがあり、以降ミャンマー経済は30年近くにわたって「アジアのラストフロンティア」として期待されてきた。

ミャンマー経済が期待された背景として、内外需双方の高いポテンシャルがある。まず、人口は2019年時点で5,400万人であり、2050年代には6,200万人を超える見込みである。経済発展とともに消費に積極的な中間層が台頭してくれば、内外の多くの企業にとってミャンマーは魅力的なマーケットとなるであろう。また、外需面の利点として、ミャンマーは北と西で中国、インドと接するなどアジア貿易の要衝に位置している。

しかし、足元までのミャンマー経済の推移をみると、こうした期待は裏切り続けられたと言わざるを得ない。一人当たりGDPは長い間停滞が続き、1,200ドル程度にとどまっている。これは、1990年頃に同程度の所得水準であったベトナムが、その後順調な成長を遂げ、2017年には一人当たりGDPが、自動車や耐久消費財が急速に普及するとされる3,000ドルを突破したのとは対照的である。

「非民主的な軍政」から「民政移管」しても成長率は高まらず
ミャンマー経済の長期低迷の要因として一般的に指摘されるのが「非民主的な軍政」である。確かに、1988年以降の軍政は、国民の抗議運動を武力で弾圧し、民主化を訴えるアウンサンスーチー氏を15年近く自宅軟禁下におくなど、西欧的な民主主義とは対極にあった。この「非民主的な軍政」は、欧米諸国からの強い非難と経済制裁を招き、2000年代半ばからミャンマーの対欧米向け輸出は急減した。こうした事実を踏まえれば「非民主的な軍政」がミャンマー経済の発展において大きな足かせとなったことは間違いない。

しかし、以下の3点も勘案すると、「非民主的な軍政」のみが長期低迷の要因とは言い切れない。第1に、多くのアジア新興国の発展はむしろ、開発独裁や一党独裁など必ずしも民主的とはいえない体制からもたらされていること、第2に、軍政ミャンマーは欧米との関係構築には失敗したものの、ミャンマーの地理的優位性を生かした中国、インド、ASEAN市場へのアプローチは着実に実行できていたこと、そして、第3に最も重要な点であるが、2011年の「民政移管」後も成長率の加速がみられなかったということである。

外資誘致環境の未整備という要因も
では、「非民主的な軍政」のほかに何が、ミャンマー経済が成長する障害となってきたのであろうか。
ミャンマーと対照的に順調な成長を遂げたベトナムでは、1980年代後半に改革開放政策「ドイモイ」を開始して以降、外資誘致環境の整備に多大な労力を注ぎ、それがその後の輸出志向型製造業の発展と高成長につながった。翻ってミャンマーをみると、政府は外資企業の受け入れ環境を長らく十分に整備してこなかった。なかでも顕著なのが、以下の3点である。
第1が、インフラの未整備である。特に、ミャンマーでは製造業に不可欠な電力供給能力の不足が深刻である。2017年時点でもミャンマーの電力生産力は所得水準が同程度の時のベトナムの4割程度しかない(右図)。第2が、不透明な外国為替市場である。2013年の為替市場改革まで、ミャンマーでは公定レートとインフォーマルレートが併存しており、しかも、民間企業は事実上、不安定なインフォーマルレートを利用せざるを得なかった。第3が、非効率・不透明な行政機能である。なかでも最大の問題が汚職である。国際NGO「Transparency International」の「汚職指数2018年版」によると、ミャンマーは世界180カ国中132位と低順位である。

足元で高まる低迷持続のリスク
 ミャンマーでは、2015年11月の総選挙を経て、2016年3月に事実上のアウンサンスーチー政権が発足した。国際世論はミャンマーの本格的な民主化を歓迎し、米オバマ政権はミャンマーへの経済制裁を完全撤廃した。日系を含め多くの外資企業は、民主的なスーチー政権下で、外資誘致へ向けたビジネス環境整備が進展し、ミャンマー経済が本格的に花開くことを期待した。

ところが、発足したスーチー政権は、憲法改正に拘泥する一方、実効性のある経済政策を打ち出せず、投資環境整備は期待されたほど進まなかった。例えば、電力不足は年々深刻さを増し、2019年夏には最大都市ヤンゴンでも輪番停電が実施された。為替レートにしても、名目上は管理変動相場制を採用しているが、実態は為替市場が十分に機能しておらず、中央銀行が発表する公定レートはインフォーマル市場レートを追認しているだけとの指摘もある。また、上述した汚職指数ランキングでの低評価は、汚職撲滅を掲げるスーチー政権下での実績である。

足元ではさらに悪いことに、ロヒンギャ難民問題に絡み、スーチー政権の登場で醸成された民主国家ミャンマーのイメージが再び崩れつつある。このままでは、ミャンマー経済に対する世界からの期待を再び裏切ることになりかねない。

2020年11月、ミャンマーでは5年ぶりの総選挙が実施される。現地報道によれば、選挙後もスーチー政権が続く可能性が高いとされるが、選挙結果がどうであれ、次期政権が現実を直視し、良好な対外関係の構築と外資誘致に向けた経済構造改革を着実に進めることが、ミャンマー経済飛躍のための課題と言える。
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