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CSRを巡る動き:食品ロス削減と脱プラスチック

2020年02月03日 ESGリサーチセンター


 2019年10月1日、「食品ロスの削減の推進に関する法律(以下、食品ロス削減推進法)」が施行されました。まだ食べることができるのに捨てられる食品を減らすための啓発や工夫を行う企業は、これまでにも存在してきました。ただ、食品ロス削減推進法によって、新たな取り組みが生まれることも期待されています。

 そのひとつに、これまで日本では取り組みがほぼ行われていなかった賞味期限切れ食品のフードバンクへの寄付や再販があります。特にフードバンクへの寄付については、食品ロス削減推進法に「国は、(中略)食品の提供等に伴って生ずる責任の在り方に関する調査及び検討を行うよう努める」という一文が明記されたことから、米国や韓国のように、寄付された食品に問題が生じても故意や重大な過失がなければ寄付した側の責任は問われないなどの免責制度が、将来、整備される可能性も出てきました。すでに国税庁と農林水産省が、食品寄付について、一定の条件を満たせば法人税上の取扱いは「経費として全額損金算入を認める」と発表していることもあり、免責制度ができれば、食品業界や流通業界を中心に賞味期限切れの食品を中心に廃棄削減が一気に進むことが展望できます。

 フードバンクへの寄付や再販と併せてここで注目しておきたいのが、消費期限自体を延ばして、消費される確度を高める食品の「ロングライフ化」です。その要となるのは、食品の包装材の高機能化でしょう。例えば、青果から出る水分を外に逃がすことで鮮度保持期間を延ばすフィルムや、耐腐食性や酸素バリア性を高めて消費期限を従来の2~5倍程度延ばすことが可能な容器包装などが、その事例です。これらの高機能包装材はすでにいくつかの食品メーカーが取り入れていますが、食品ロス削減推進を契機に、より採用事例も増えるでしょう。

 他方で、これらの高機能包装材の多くはプラスチック素材であり、使用後は基本的にプラスチックごみとして処理されます。プラスチックごみとして100%収集されていれば、エネルギー回収(サーマルリサイクル)などによって、環境への負の影響はある程度抑えることができるでしょう。しかし、日本では使用・排出されたプラスチック廃棄物の4分の1程度が回収されていないという実態があります(i)。最近では海洋プラスチック問題への対応に代表される「脱プラスチック」の動きが加速していますが、食品ロス削減の推進はこの動きを鈍らせることに繋がる怖れも否定はできません。食品ロス削減と脱プラスチックを両立させるため、生分解性プラスチックやバイオプラスチックを活用する動きはあるものの、現在では食品トレーへの利用がほとんどで、食品ロス削減に直接的に寄与する高機能包装材として使われている例は見当たりません。耐腐食性や高密着性を生分解性プラスチック素材に付加する研究は進められていますが、そもそも生分解性プラスチックが通常のプラスチックよりも製造コストが高いために本格的な普及に至らないなどの様々な課題があるのも事実です(ii)。

 ここに、潜在的な宝の山が生まれつつあるといえます。生分解性プラスチック素材の開発や製造には、化学業界だけでなく、製紙や繊維業界の大手・中堅企業も取り組んでおり、スタートアップの動きも目立っています。近い将来、食品ロス削減を実現しつつ「脱プラスチック」といえる食品包装材が日本から生み出されることに期待したいところです。


(i) 一般社団法人プラスチック循環利用協会「プラスチックリサイクルの基礎知識2019」を参照。
(ii) ニッセイ基礎研究所「日本が直面する、脱プラスチック問題」(2019年3月26日)を参照。

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