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「際(きわ)」に着眼するということ ~「非線形システム思考」のすすめ~

2020年01月15日 木通秀樹


 歴史の転換期には、既存の秩序や原理に基づく世界に加え、新たな秩序や原理に基づく世界が生まれてきて、これらが混在した複雑な様相を呈する。このような複雑な状況をうまく生き抜くには、既存の世界と新たな世界を一体的に捉える思考法が重要になる。

 これは、従来の延長で考えることができない複雑な対象を理解するのに役立つ思考法である。人が認知し、予想できるのは基本的に線形システムであると言われる。このため、人は未来を自分が今住んでいる世界の線形補間的な延長で考えてしまいがちである。しかし、歴史の転換期には、従来とは異なる秩序の世界を理解することに迫られる。このときに大事なのは、その「際(きわ)」に着眼することである。両世界が接続する部分に目を凝らすことで、生起してくる未来をどう捉え、どう設計するかの手掛かりが得られる。

 たとえば、18世紀、蒸気機関という新たな動力が開発された。第一次産業革命である。工場の大規模化が進み、多くの工場労働者が生まれた。従来型の農業や手工業の労働者は隷属的従業員として取り扱われており、そこに自由はなかった。一方、工場での労働者は、時間労働を提供し、対価を得て製品を購入する需要家になり得た。経済的基盤を確保して自由な身分を得たのだ。こうして、従来、価値として評価されていなかった労働者の時間に新たな価値が生まれ、従来型産業から新しい産業への人の流動が進んだ。この「際(きわ)」の部分で起こった、時間単位の労働の提供と対価としての賃金の獲得という現象が、その後の世界の価値の本質を形作っていくことになった。人が増えれば増えるだけ工場が儲かり、経済の発展に伴い、医療や公衆衛生などの仕組みも向上し、人口が爆発的に増大していくという拡大原理の確立である。こうした人口増加が更なる経済発展を生むモデルが構築され、18世紀の社会システム転換が進んでいった。

 では、第四次産業革命といわれる現在、「際で生じている」着眼すべき現象とは何であろうか。それは、「デジタルトランスフォーメーション(DX)」に他ならないと考える。
デジタル化によって、従来見ることができなかった様々なものが見え、予測できるようになってきた。たとえば、工場の状況を可視化することで、従来管理されてきた「生産現場」のみならず、「工場の経営者」、「関連工場」、「需要家」など、複数の異なる主体を一体的に認識・管理できる。主体間で適切に情報を見せ、管理することで工場は新たな生産の仕組みへ転換することができる。たとえば、需要家に製品ではなく利用の価値だけを提供することで、製品の再製造などを最大化し資源効率を向上することもできる。DXというとデジタル技術を導入することに目が行きがちであるが、このように「際(きわ)」においていかに新たな価値を生み出しているかという視点が重要である。

 未来を自分が今住んでいる世界の線形補間的な延長で考えるのではなく、「際で生じている」現象に着眼して、新たな世界の価値の本質を探り、その制御を可能にしていくアプローチを、本稿では「非線形システム思考」と呼ぶことにしよう。これからの時代の転換を「見据え」、「切り拓く」ツールとなるのが、「非線形システム思考」だということができる。「非線形システム思考」をうまく活用して、時代を切り開き、新たな価値を生み出すことで次世代のリーディング企業となることが可能になるだろう。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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