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【次世代交通】
交通事業者視点での自動移動サービスの社会実装

2019年12月10日 逸見 拓弘


 今年5月、レベル3(システムが全ての運転タスクを実施するが、システムの介入要求等に対してドライバーが適切に対応することが必要な状況)での自動運転車両の公道走行を可能にする改正道路交通法が国会で成立した。2020年5月までには施行される見通しである。東京五輪直前にはレベル3の公道走行できるようになるわけで、これに合わせ、完成車メーカー各社が対応車両を発表することが想定される。レベル3が実現すれば次はレベル4(特定条件下においてシステムが全ての運転タスクを実施する状況)だ。2020年代前半までには、レベル4相当の自動運転を実現しようという機運も一層高まっていくであろう。

 レベル3やレベル4の高度自動運転車両は、自家用車より商用車の領域で普及のスピードが早いと見込まれている。なぜなら、路線バスのように指定ルートのみ走行するようなやり方から始めるほうが自動運転の実装がしやすいためである。そのほうが技術的に容易なのはもちろん、自動運転車両が走る場所が決まっていたほうが社会的にも安心で受け入れやすい。政府が限定地域で実装を始めると言っているのもそのためだ。また、コストの問題もある。自動運転の車両単価は、車載センサーと自動運転システムを搭載している分、どうしても高価になる。販売価格にもよるが、複数の利用者でコストをシェアできる公共交通やその他モビリティサービス用の商用車として導入したほうが普及はしやすい。

 したがって、モビリティサービス事業者、特に既存の公共交通事業者にとって望ましい自動運転車両やシステムのあり方は何か、という視点での検討が重要になる。
 しかし、現状は、つくり手であるメーカーの視点ばかりが優先されているきらいがある。車両開発も各地で行われている実証実験も、担い手の多くはつくり手である大学やメーカーが主導するものばかりで、使い手である交通事業者が主導する事例は少ない。その結果、何が起きているか。

 私は、全国の様々な自動運転実証に参画する交通事業者を支援した折に、プロドライバーが自動運転車両に乗務した際の日報を見せていただいたことがある。そうした日報を通じ、これまでは手動運転車両というハードウェアを扱ってきたプロドライバーが、自動運転システムというソフトウェアを取り扱うことに対して非常に苦悩しておられる様子をひしひしと感じた。例えば、プロドライバーは自動運転車両が普段と異なる挙動をしたとしても、どこまでが自動運転システムの正常挙動で自動走行の許容範囲内なのか判断がつかないことに悩んでいた。また、自動運転システムに異常が発生したとしても、その原因が特定できず適切な対処ができないことにももどかしさを感じていた。もちろん、このような課題を抱えつつもプロドライバーは自動運転車両特有のクセを上手につかみ取って柔軟に対応をするが、交通事業者がそのようなプロドライバーの暗黙知をいかに形式知として社内に蓄積していくかは課題だと感じた。

 現状、交通事業者は、運行の責任だけでなく車両整備の責任も負っている。しかし、自動運転車両が実用化されるとき、車両やシステムの異常を迅速に察知して原因を突き止め、状況に応じて適切に対処することは可能であろうか。私は、交通事業者が自動運転システムについての整備責任を負うことには限界があると考える。

 2019年6月、国土交通省は「限定地域での無人自動運転移動サービスにおいて旅客自動車運送事業者が安全性・利便性を確保するためのガイドライン」を公表した。ガイドラインでは、旅客自動車運送事業者は、無人運転車両をシステム面も含めて点検・整備をして車両の安全を確保することを求めている。しかし、前述の現状を踏まえると、従来通りに車両や運行の責任をすべて交通事業者に押し付けるなら、自動運転移動サービスを手掛けようとする交通事業者は現われないであろう。交通事業者が一定の運行責任を負うことは必要ではあるが、自動運転の社会実装を実現するには、車体メーカー、ソフトウェア開発ベンダー、通信会社など、関係各社がそれぞれ一定の責任を分かち合うリスクシェアの体制を構築することが不可欠だと思う。関係各社がリスクシェアをしながら運行を支えていくという視点で、責任のあり方を検討していくことこそが、自動移動サービスを社会実装していくためには必須だということを改めて確認したい。

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※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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