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日本総研ニュースレター 2019年5月号

取締役会の実効性を担保するスキルマトリックス

2019年05月07日 黒田一賢


取締役会の多様性をさらに強調した指針群
 2018年9月に経済産業省が行った「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)」の改訂では、同年6月に公表された「改訂コーポレートガバナンス・コード」「投資家と企業の対話ガイドライン」などとの整合性が図られた。また、実務指針として機能するよう、1)社外取締役に期待する役割・機能を明確にし、2)それに合致する資質・背景を検討し、3)それらを有する社外取締役候補者を探すといった具体的な行動も提示されている。
 さらに別紙には社外取締役に期待する役割・機能や必要な資質・背景の具体例などが挙げられている。

社内昇格取締役も含んだスキルマトリックス公表が必要
 スキルマトリックスは、取締役会全体におけるジョブディスクリプション(職務明細書)の一覧性を高めるため、取締役およびその候補者が持つスキルを星取表の形で表現したものである。経営に必要な素養・経験を取締役会が網羅していることを投資家に示すために有効なツールとして注目を集めつつある。幅広い業務をそつなくこなすジェネラリストで取締役会を構成する代わりに、取締役会全体としてバランスを取りながら特定の分野に強みを持つスペシャリストを集めることで、様々なビジネス環境の変化に対して一層柔軟に対応できるという考え方が背景にある。スペシャリストであることを示す経験や実績も示されており、取締役会の実効性を担保する役割を果たしている。米国では2010年に一部の企業で導入が始まり、2018年には導入企業数が100社を超えた。日本では2017年に一部の企業で導入が始まった。
 日本で最初にスキルマトリックスの公表を開始した企業では、当初CGSガイドラインに準拠して、主に社外取締役のみの情報を公表していた。しかし、まず社内昇格の取締役のスキルを棚卸しなければ、取締役会の実効性向上に必要となる社外取締役のスキルを定義することができない。すなわち1)取締役会が保有すべきスキルを特定し、2)現在の取締役においてスキルの過不足を判断し、3)特に過剰または不足するスキルについては社内外の取締役の選解任によって調整を図る必要がある。そのため、一部企業のスキルマトリックスでは社内昇格取締役の記載が始められている。

日本企業の先進事例
 電気機器メーカーのイビデンは、スキルマトリックスを活用する先進企業の一つである。同社の2016年の株主総会招集通知は、他の多くの企業と同様、取締役候補の在任期間や担当職務、取締役会の出席状況が示されているのみであった。
 改革のきっかけは、同社が2016年に監査役会設置会社から監査等委員会設置会社に移行したうえで任意の指名委員会を導入するなど、グローバル標準に近い機関設計を志向するようになったことであったと考えられる。また、2017年3月には改訂前のCGSガイドラインが公表され、海外事例として米国で定着しつつあったスキルマトリックスが示された。そこで2017年、同社は社外取締役候補者6名について、1)企業経営、2)会計/税務、3)法律、4)女性、5)研究者の5点を取締役会に必要なスキルまたは属性として取り上げ、「社外取締役候補者の知見・経験一覧」として、スキルマトリックスの形式での開示を始めた。
 同社のスキルマトリックスはさらに進化する。2018年のスキルマトリックスでは社内・社外取締役候補者全12名を対象とし、項目も1)独立性(社外のみ)、2)社長経験、3)会計/税務、4)業界の知識、5)営業/販売、6)国際ビジネス、7)研究/製造、8)法務、9)リスク/コンプライアンス/ガバナンス、10)性別の10点に拡充された。つまり、2)社長経験、4)業界の知識、5)営業/販売、6)国際ビジネス、9)リスク/コンプライアンス/ガバナンスの5つの専門性が加わり、より網羅性を強調するものになっている。
 同様に社内昇格取締役を含んだスキルマトリックスを2018年3月にヤマハ発動機、同年7月に日本郵船、2019年3月にNISSHAが公表を始めた。今後スキルマトリックスの公表を検討している企業には、このように社内昇格取締役も含んだスキルマトリックスの公表とともに、それを裏付ける根拠の明示を期待したい。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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