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アジア・マンスリー 2019年12月号

【2020 年アジア経済の見通し】
二極化が続くものの、総じて底堅いアジア経済

2019年11月28日 塚田雄太


アジア景気は、米中対立の「漁夫の利」などで持ち直すASEANやインド、米国の制裁や力強さを欠く世界経済のマイナス影響が続く中国、NIEsとで二極化するものの、総じてみれば底堅く推移しよう。

1.2019年後半も、アジア景気は総じて減速
 アジア景気は、2019年後半も総じて減速基調が続いている(右上図)。もっとも、詳しくみると、国・地域別では二極化している。

 まず、減速が続いているのが、中国、NIEs(韓国、台湾、香港)のうち韓国、香港、ASEAN5(インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナム)のうちインドネシア、マレーシア、タイ、そしてインドである。中国は、米中対立による対米輸出の減少などを背景に、2019年7~9月期の実質GDP成長率が前年同期比+6.0%と、統計が確認できる1992年以降で最低水準へと減速した。それ以外の上記の国・地域も、米中対立などによる世界景気の減速を受けた輸出下押しのほか、各国固有の事情が成長鈍化に作用している。韓国では、IT需要の低迷や日韓関係の悪化で財・サービス輸出双方が大きく減少したほか、香港では民主派と親中派の対立が観光客の減少などを通じて景気を大幅に悪化させている。また、インドネシアでは新政権発足後の政策方針を見極めようとした外資企業の投資見合わせなどが、マレーシアでは資源価格の下落などが、タイではバーツ高などが、それぞれ成長の足かせとなった。そして、インドは、金融セクターの信用不安を受けたローン金利の高止まりや、2016、2017年の政策に起因する経済混乱の反動によるペントアップディマンドが一巡したことなどで景気減速が続いている。

 一方、景気が相対的に堅調に推移しているのが、台湾、フィリピン、ベトナムである。台湾、ベトナムは、後述するような米中対立の「漁夫の利」を得ている点で共通している。実際、台湾とベトナムの2019年1~9月期の対米輸出は、ぞれぞれ、同+21.3%、同+34.8%と大幅に増加している。これを受け、2019年7~9月期の台湾の実質GDP成長率は同+2.9%と5四半期ぶりの高い伸びへと加速したほか、ベトナムは同+7.3%と高成長を維持している。他方、フィリピンの場合は事情が異なる。フィリピン景気は、2019年度予算成立の遅延などにより新規公共事業が停止したため、2019年前半に急減速した。その後、フィリピン政府は予算執行の正常化に注力し、2019年7~9月期の実質GDP成長率は同+6.2%と3四半期ぶりに持ち直しへと転じている。

2.2020年以降のアジア経済を左右する3つの注目点
 2020年以降のアジア経済を見通すにあたって、①米中対立の影響、②IT需要、③金融政策の3点が注目点となる。

①米中対立の影響
 米中対立は、2019年秋頃から米中通商協議での歩み寄りなど休戦の見方も出ているものの、技術移転を巡る対立など問題の根深さを考えれば、長期化は避けられない。このため、今後もアジア経済にプラス・マイナス双方で影響を与える。
 まず、マイナス面では、関税引き上げなどによる中国の対米輸出の減少と、それに伴う中国経済の減速や、サプライチェーンを通じての中国以外のアジア新興各国の対中輸出の減速を指摘できる。実際、2019年の中国の対米輸出や、NIEs、ASEAN、インドの対中輸出は低迷が続いた。

 一方で、米中対立はサプライチェーンの再構築を通じて、一部のアジア新興各国・地域に「漁夫の利」的な2つのプラスの効果をもたらす。第1が、中国の米国向け輸出の代替であり、第2が構造的変化を理由に進みつつある中国からNIEsやASEAN、インドへの生産移管である。これまでの経済発展の結果、中国の人件費は大幅に上昇してきたが、米中対立の長期化が見込まれるなか、中国からの生産シフトが本格化することが見込まれる。これらの動きは既に現れ始めており、2019年1~9月期の米国輸入に占める中国の割合は2017年対比で▲3.4%ポイント縮小したが、ベトナムの割合は同+0.6%ポイント、台湾、インドがそれぞれ同+0.3%ポイント拡大した。また、生産移管の動きの先行指標となる認可ベースでの製造業の対内直接投資は、ベトナム、マレーシア、台湾などで2018年7月~2019年6月にその前1年間を大きく上回った。

今後はこれらの影響がより顕在化してくると予想される。ただし、プラス・マイナスの影響度合いは国・地域によって異なってくるであろう。中国では引き続き全般的に景気下押し圧力が根強いとみられるが、例えば、ベトナムなどでは、目先の代替輸出のほか、生産移管による投資増とその後の輸出増が加わり、中期的にも経済を大きく押し上げることが期待できる。

 ②IT需要の動向
IT需要動向、いわゆるシリコンサイクルは、アジアに構築された電子部品・デバイス関連のサプライチェーンを通じて、これまでも多くのアジア新興国・地域の輸出のすう勢を左右してきた。世界の半導体需要動向を表す世界半導体出荷額は、2016年から2017年末にかけてスーパーサイクルといわれた急増を見せたものの、2018年入り後以降は、中国におけるスマホ普及の一巡やデータセンター整備の一服などを背景に大きく減少した。これにより、韓国を筆頭に、アジア各国・地域における2019年の電子部品・デバイス輸出は強い逆風にさられた。

しかし、今後を展望すると、半導体需要は底打ちから持ち直しに向かうと見込まれる。2020年以降、世界各国で5G通信網の整備が本格化することで基地局など向けの半導体需要が増加することに加え、通信量の増大に伴って一服していたデータセンター整備も持ち直す可能性が高い。さらに、足元では下落を続けていたメモリ価格も反転しつつあり、在庫調整も進んだとみられる。実際、半導体市場の動向を先取りするフィラデルフィア半導体株指数は足元にかけて断続的に過去最高値を更新している。

ただし、フィラデルフィア半導体株指数が示す勢いで、半導体需要が急回復するとみるのは早計である。2019年5月の米国の中国大手電子部品メーカーに対する制裁を受け、世界各国が5G通信網整備計画の見直しを余儀なくされていることを考えれば、フィラデルフィア半導体株指数は5G化に対する期待を過度に織り込んでいる可能性は否定できない。実際の半導体需要の持ち直しペースは緩やかなものにとどまると予想される。

 ③金融政策
 アジア新興国・地域の金融政策は、2018年末頃まで大幅な金融緩和を「正常化」する観点から引き締め傾向にあったが、2019年入り後は軒並み緩和スタンスへと変化した(右下図)。実際、1~10月にかけて、インドが累計1.4%ポイント政策金利を引き下げたほか、NIEsやASEAN各国・地域も断続的に利下げした。これは、2018年末以降、米国で利下げ観測が台頭したことや、資源価格が下落したことで通貨安及びインフレ圧力が低下したことに加え、各国・地域の成長ペースが大きく鈍化したことを受けたものである。

 2020年以降を見通しても、国内外双方の理由からアジア新興国・地域の多くで緩和的な金融政策スタンスが維持されると見込まれる。まず、国内要因としては、各国の財政悪化が挙げられる。アジア新興国・地域の財政収支は、韓国と香港以外で恒常的に赤字となっているほか、政府債務残高(対名目GDP比)もマレーシア、インドなどで新興国平均を上回る水準にある。このため、アジア新興国・地域の多くは財政出動余力に乏しく、金融緩和による景気下支えに頼らざるを得ない状況にある。一方、国外要因としては、米中対立の長期化を背景に世界経済は力強さを欠いた状況が続くため、アジア新興国・地域の輸出は、代替輸出や生産移管に伴う輸出拡大はあるものの、大幅な増加は期待薄と見込まれる。そのため、アジア新興国では内需を活性化する観点から、更なる金融緩和を摸索する動きが続くとみられる。

 もっとも、米国で利下げの休止が見込まれることや、中国以外のアジア新興国においても対米貿易摩擦が顕在化するリスクがあること、などを踏まえれば、アジア新興国・地域で急激かつ大胆な利下げが実施される可能性は小さい。今後の利下げペースは海外情勢や金融市場の動きを睨みながらの緩やかなものにとどまろう。

3.先行きも総じて底堅さを維持も、二極化は持続
 以上より、2020年以降のアジア景気を展望すると、まず、国・地域別では二極化傾向が続くとみられる。

 ASEAN、インドは緩やかな持ち直し基調を辿ると見込まれる。米中対立の「漁夫の利」の恩恵が受けられることに加え、利下げや政府による景気刺激策が顕在化してくること、2019年の下押し要因がはく落することなどが景気押し上げに作用し、ASEANの経済成長率は2020、2021年がともに同+5.1%、インドは2020年度が同+7.0%、2021年度が同+7.1%となろう。

一方、中国は減速トレンドを余儀なくされよう。政府の景気刺激効果が徐々に発現してくるものの、米中対立や過剰債務問題などによる景気下押し圧力が勝り、2020、2021年の成長率は同+6.1%、同+5.9%と緩やかに減速するとみられる。NIEsはIT需要の持ち直しに加え、台湾では中国からの生産移管が景気下支えに作用するものの、世界景気が力強さを欠くことなどを踏まえれば、輸出に景気を大きくけん引するほどの回復力は期待できず、2020年、2021年の成長率は、同+2.1%、同+1.8%と+2%前後での一進一退の成長が続くと予想される。

 以上を踏まえたうえで、アジア地域全体の景気の先行きを展望すると、総じて底堅さを維持し、成長率は2020、2021年ともに同+5.8%となると考えられる。
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