オピニオン
急成長するグリーンローン市場 ~国内における実例と展望
2019年11月25日 新美陽大
近年、気候変動問題をはじめとする環境課題の解決に使途を絞って資金を調達する「グリーンファイナンス」と呼ばれる取り組みが拡がっている。グリーンファイナンスの手法として、よく知られているのはグリーンボンドであろう。これは、企業や団体が発行する債券(ボンド)について、使途を環境対策に限定して、市場から資金を調達する手法である。グリーンボンドの発行額は、今日では世界で約1,670億ドル(※1)にも上る規模に成長している。
一方、直近で急速に立ち上がりつつあるのが「グリーンローン」市場だ。グリーンボンドが債券を対象としたグリーンファイナンスであることに対して、グリーンローンは金融機関からの融資(ローン)を対象とする。資金額としては、世界で650億ドルを超える市場規模に急成長しており、グリーンファイナンスの主要な手法としてグリーンボンドに迫りつつあると言えるだろう。
グリーンローンによる資金調達のガイドラインは、ローンマーケット協会(LMA)およびアジア太平洋地域ローンマーケット協会(APLM)が2018年に策定した「グリーンローン原則」(GLP)に定められている。GLPにはグリーンローンによる資金調達の条件が示されているが、その中では外部評価機関によるレビューを受けることを推奨している。外部評価機関は、グリーンローンの資金調達主体や対象事業がGLPに沿っているかを評価し、資金調達主体にセカンドパーティー・オピニオン(SPO)を発行する。資金調達主体にとっては、SPOはグリーンローンの信頼性を示す役割を果たすと言えるだろう。
グリーンローンによる資金調達は、国内でも徐々に実績を増やしている。国内の金融機関が携わった事例は、2018年以降、環境性能の高い建物や船舶などを対象にしたものから始まって、それ以外の分野にも拡がりつつある。
2019年9月、精密部品メーカーの株式会社エノモトは、水素燃料電池向けガス拡散層一体型金属セパレータの製造・開発を対象事業としたグリーンローンにより、三井住友銀行から5億円を調達した。水素燃料電池という新たな技術開発を使途とした、国際的に見ても珍しい事例である。日本総研は、同社のグリーンローンに関する外部評価機関としてSPO作成を担当したが、燃料となる水素を再生可能エネルギー由来とすることを前提とした場合、2030年時点で年間約121万(t-CO2)の温室効果ガス削減効果に相当する可能性があると試算している。(※2)
グリーンローンによる資金調達拡大は、ガイドラインとしてのGLPが策定されたことに加え、グリーンボンドに比べると資金調達主体の負担が小さくなるメリットや、融資を実施する金融機関にグリーンファイナンスに関する知見や実績が蓄積してきたことが背景として指摘できる。大規模な資金調達で先行したグリーンボンドに、比較的小規模な資金調達目的でも使い勝手の良いグリーンローンが加わり、それぞれが特色を活かして市場を拡大することで、今後はグリーンファイナンス全体としての裾野が広がり、結果的にさまざまな環境課題に対する解決策を提供することが可能となるだろう。
(※1)Climate Bonds Initiative (2019) “2018 Green Bond Market Summary”
(※2)株式会社日本総合研究所 創発戦略センター「Second Party Opinion: 株式会社エノモト」2019年9月30日 2ページ
※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。