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公営電気事業が示唆するPPP/PFIの上手な「使い方」

2019年11月18日 佐藤悠太


1.はじめに

 PPP/PFI事業は、民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律(PFI法)が制定された平成11年度以降、国の大型事業に活用されるとともに、地方自治体に徐々に普及したことで、事業件数を伸ばしてきた。ところが、リーマン・ショックによる建設投資の抑制や、一部事業の失敗によるネガティブイメージの波及により、平成20年度以降は、急激に事業件数を減らした。
 しかし、平成22年度からは事業件数が回復し始め、現在ではさらに拡大している状況にある。内閣府が平成25年に「PPP/PFIの抜本改革に向けたアクションプラン」を策定したことを皮切りに、年度ごとの「PPP/PFI推進アクションプラン」の見直しや、「多様なPPP/PFI手法導入を優先的に検討するための指針」(地方自治体等に対する優先的検討規定の策定要請)など、国が各種推進施策を積極的に打ち出したことが奏功したものと考えられる。

事業数および契約金額の推移(単年度)



(注1)事業数は、内閣府調査により実施方針の公表を把握しているPFI法に基づいた事業の数であり、サービス提供期間中に契約解除または廃止した事業および実施方針公表以降に事業を断念しサービスの提供に及んでいない事業は含んでいない。
(注2)契約金額は、実施方針を公表した事業のうち、当該年度に公共負担額が決定した事業の当初契約金額を内閣府調査により把握しているものの合計額であり、PPP/PFI推進アクションプラン(令和元年6月21日民間資金等活用事業推進会議決定)における事業規模と異なる指標である。
(注3)グラフ中の契約金額は、億円単位未満を四捨五入した数値。

出所:内閣府HP「PFI事業の実施状況」(https://www8.cao.go.jp/pfi/whatsnew/kiji/pdf/jigyoukensuu_kb02.pdf

 また、この流れに乗じて、公営電気事業に対するPPP/PFIの導入に注目が集まっている。公営電気事業とは、地方公共団体が経営する電気事業である。公営電気事業の多くは、戦後の電力不足を解消するために開発された水力発電所を運営維持しており、水力発電所で発電した電気を、主に電力会社に卸供給している。水力発電所のほか、近年は、太陽光発電、風力発電等、再生可能エネルギーの電源開発も行っている。
 「平成30年度PPP/PFI推進アクションプラン」において、公営電気事業に対するコンセッション(※1)の導入が目標化とされたことをもあり、各地域において、それもとりわけPPP/PFIの導入が進んでいなかった地域において、コンセッションの導入が検討されている。以下では、その検討状況を整理した。

2.公営水力PPP/PFIの実情

 水力発電所は、一般的に耐用年数が40~50年程度と言われ、長期・継続的な使用が可能な施設である。一方、公営水力発電所は、戦後の高度経済成長期以前に整備された施設が多く、整備から50年以上経過した施設が多いため、老朽化が顕著である。今日に至るまで、適切に施設の更新・改修が行われていれば長寿命化が図れていたのだが、平成28年の電力自由化以前においては、電力を電力会社に対して卸供給する価格について競争力がなかったため、発電により得られるキャッシュ・フローが乏しい状況であった。そのため、施設の運用開始以降、抜本的な更新・改修を実施するための資金原資を確保できないまま、50年を経過する公営水力発電所が多く存在していた。
 このように、老朽化が全国的に進んでいた公営水力発電所ではあったが、平成24年に固定価格買取制度(Feed-In-Tariff/FIT制度)が開始されたことにより、事業環境に変化が生じた。FIT制度とは、水力発電を含む再生可能エネルギー電源を新設・改修した場合において、電力会社が当該電源で発電した電気を一定期間にわたり固定価格にて買い取ることを保証する制度である。建設コストが高いとされている再生可能エネルギーの普及を目的として制定された制度であり、この制度を活用することにより、これまで滞っていた公営水力発電所の更新・改修が進み始めたのである。
 今般の公営発電事業に対するPPP/PFIの導入は、公営水力発電所の更新・改修に対する民間ノウハウ導入に加え、施設の運営維持に対しても民間ノウハウを導入するというものである。以降では、日本総研がアドバイザーを務めている二つの県の事業について、その内容を整理・考察する。

(1)長野県企業局の動向
 長野県企業局の電気事業は、昭和33年の「三峰川総合開発事業」を起源としている。現在16の発電所を運営維持しており、その出力合計は10万キロワットに達している。近年は、高遠発電所、奥裾花発電所などの新規の電源開発や、新電力に対する電力の卸供給「信州自然エネルギー」など、先進的取り組みを複数推進している。
 このような、先駆的な企業局ではあるが、上述の「三峰川総合開発事業」を始め、高度経済成長期に整備した発電所を複数抱えており、施設の老朽化が課題とされていた。一般的な公共事業として、施設更新・改修を行おうとする場合、FIT申請や複数工区・工種の調整を企業局自身が実施する必要性がある。施設の更新・改修という期間限定のプロジェクトにおいては、当該期間限定で企業局所属の職員を増員させる必要があるものの、新規雇用はもとより他組織からの異動により職員を確保することが容易ではなかった。また、企業局が直近で大型工事の工事を実施したのは20年以上前であるため、技術的なノウハウが十分に継承されていない状況でもあった。
 これらの課題解決が必要とされる状況と、先進的な取り組みを実施する組織文化が重なり、FIT制度を活用しつつ水力発電所の再整備および運営維持を民間事業者に委ねる、コンセッション手法の導入検討に着手した。検討当初においては日本初の取り組みであったため、民間事業者からの期待が高かったが、3カ年に亘る慎重な検討の結果、コンセッションを導入した場合における財政的な評価がコンセッションを活用しない場合よりも劣っていたとして、設計・施工一括発注方式(いわゆるDB方式)を選択する結論に至った。本事業は、令和元年8月に公募を開始し、現在事業者の選定を進めている。

(2)鳥取県企業局の動向
 鳥取県企業局の電気事業は、戦後の逼迫した電力需要や企業誘致等に対応するため、河川総合開発計画に参画したことを起源とする。現在、水力発電所12カ所、太陽光発電所8カ所および風力発電所1カ所を運営維持している。
鳥 取県は、全国的に早くより人口減少が叫ばれていた都市であり、平成11年に改革派の知事である片山知事が就任して以降、行財政改革を推進してきた。古くはダム建設、博物館建設等の大規模建設事業の中止・見直しを断行し、近年では都市の規模縮小を踏まえた総合事務所の見直し等組織の合理化に努めるなど、時勢に合わせた取り組みを断続的に実施してきた。
 このような行財政改革の中で、電気事業についても、地方自治体が発電事業を行う社会的意義が小さくなっているとして、民間譲渡を含めた様々な経営形態、組織体制が議論・検討されてきた。平成20年に中国電力との長期卸供給契約が締結できたことを契機に、総括原価方式が維持できるとして、いったんは直営で運営維持する方針としたものの、将来的な経営形態の見直しの可能性を留保していた。その後、FIT制度が創設されたことを契機に、戦後に整備された施設の更新・改修についての関心が高まり、平成29年度には老朽化した施設の更新・改修のみならず、運営維持を含めたPPP/PFI手法の検討および導入可能性調査を行った。その結果、企業局の経営が最も効率化する手法として、3施設の更新・改修に加え、4施設の運営維持に対して民間活力を導入する「BT+コンセッション方式」(※2)を採用することとなった。
 令和元年3月に公募が開始され、同年6月に第一次審査を実施し、合計7グループの中から4グループが選定された。現在12月下旬の第二次提案に向け、競争的対話が進められている。

(3)両県企業局の事業の比較
 長野県、鳥取県の両事業を比較すると、下表のとおりとなる。
 採用するスキームが異なるため、対象施設の数および民間事業者に委ねる範囲に相違が見られる。長野県においては、1施設の再整備のみ民間事業者に委ねることに対し、鳥取県においては、3施設の再整備と4施設の運営維持を委ねる。また鳥取県では、SPC(特別目的会社)の設立により、事業の統括マネジメントおよび資金調達も民間事業者に委ねているとともに、完全独立採算事業として県が財政支出を行わず、SPCから運営権対価を受け取る事業スキームとしている。
 この二つの事業は、公募の開始時期は異なるものの、年度内の事業者選定を目標としている。両事業ともに民間事業者の注目度は高く、応募者間の競争によって、よりよい事業者提案がなされることが期待される。

表 長野県の事業と鳥取県の事業の比較


出所:春近発電所大規模改修工事募集要項(令和元年8月7日公表)、鳥取県営水力発電所再整備・運営等事業募集要項(平成31年3月27日公表)、鳥取県農林水産商工常任委員会資料(令和元年7月19日提出)

3.まとめ

(1)長野県と鳥取県から得られた示唆
 本稿では、長野県、鳥取県それぞれの企業局における電気事業へのPPP/PFI手法の導入状況を整理した。いずれも、PPP/PFI手法を活用している点に加え、FIT制度の創設がきっかけとなり事業発意がなされたという点で類似する。富山県など、両県に追随する公営電気事業が存在する一方、FIT制度が2020年度に抜本見直しが予定されているため、公営水力発電所に対するPPP/PFI手法の導入が継続する可能性は限定的と想定している。
 他方、両県企業局の取り組みから得られる示唆は重要となる。長野県企業局のように設計・施工を一括で発注することにより、少ない県職員で施設整備を進めることが可能となることに加え、民間事業者のノウハウによる工期の短縮、品質の向上等も期待できる。鳥取県企業局のようにコンセッション手法を活用することにより、事業のおおむね全てを民間事業者に委ねることで、施設整備、運営維持双方を限られた職員で進めることも可能となる。また、運営維持を民間に委ねることは、従来行政が経営していたものを民間マーケットに開放することとなるので、地域にとって新たなビジネスが創出され、地域経済の好循環にもつながるだろう。さらには、民間資金を活用しつつ一切の財政負担を行わない完全独立採算事業として公共施設を整備することで、長期割賦払という「隠れ借金」を行わずに施設の更新・改修を実施できる点も参考となる。

(2)PPP/PFIを活用した行政経営
 地方自治体は、従来、ヒト・モノ・カネを豊富に抱えて地域を経営してきたが、少子高齢化と人口減少が急速に進む昨今においては、これら経営資源が枯渇している。
 これまでPPP/PFI手法は、主にカネ(財政)に寄与するものとして、各地方自治体で導入が進んできた。財政健全化については一定の効果を上げてきたものの、昨今、コスト削減を重視するあまりに、サービス水準が低下しているPPP/PFI事業が散見される。地方自治体の財政状況を踏まえると、財政効果に対し高い期待が寄せられることは理解できるが、実際には、PPP/PFI手法の導入により財政負担が半減するようなケースはあり得ない。つまりは、財政効果に対し、過度に期待を寄せることは禁物である。直近のPPP/PFI事業の発注状況を見てみると、過度な財政効果の期待を織り込んだ予定価格の設定により、1社応募や応募者なしのPFI事業が散見される。これは、民間事業者にとって魅力がない事業が増加していることと同義であり、民間事業者にとって魅力のない事業は、民間の創意工夫によるバリューアップの余地がなく、結果として、地域にとっても魅力がないものとなる。
 多くの地方自治体においては、人口減少を踏まえた職員定数削減の圧力により、マンパワー不足が深刻化している。行政に求められる役割は日々一刻と変化し、とかく拡大する傾向にある。役割の拡大に合わせて業務が増加する中では、これからのPPP/PFI手法は、財政効果に着目しつつも、ヒトの枯渇をカバーするものとして活用していくことが望ましい。
 マンパワー不足の中でも、老朽化が進む施設の更新・改修は不可避である。そのためには技術者、特に施工管理に関わる技術者が必要となるが、その技術者不足を補う手段としてPPP/PFIは有用である。また、運営維持などの定型業務のうち、民が実施可能なもの(民間のマーケットが存在するもの)については、わざわざ行政が実施する必要はなく、民に委ねることで生じた人的余力を、他の政策課題に充当することを検討するべきである。昨今では、社会福祉(子育支援、高齢者福祉)、環境エネルギー、情報通信などの分野について、行政が果たす役割の拡充に期待が高まっているため、今後、このような分野に対し、PPP/PFI手法の導入により生じた人的余裕を配分することが必要となるだろう。
 また、鳥取県企業局のように、モノ(公共施設)を実質的に手放すことで、カネ、ヒト双方の課題を解決しつつ、地域に新たなビジネスを創出することも重要と考える。

(3)結びに
 行政がヒト・モノ・カネを丸抱えし、地域を主導する時代は終焉を迎えている。「民にできることは民に」そして、「官にしかできないものは官が」という考え方のもと、人口減少を踏まえた社会構造の変革を、官民が連携して乗り越えていくことが求められる。

(※1)利用料金の徴収を行う公共施設について、施設の所有権を公共主体が有したまま、施設の運営権を民間事業者に設定する方式。多くの裁量を民間事業者に与えることが多いため、民営化に近い方式といえる。
(※2) BT(Build-Transfer)とコンセッションを組合した事業方式。民間事業者に対し、施設の整備と運営維持を包括的に委ねるもの。

以 上


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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