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RIM 環太平洋ビジネス情報 Vol.19,No.75

アジアにおけるインフラ・ファイナンスの拡大に向けた官民の課題-一帯一路構想、「質の高いインフラ投資」に関する考察を含めて

2019年11月15日 清水聡


アジア地域のインフラ整備の必要投資額に関しては多くの試算があるが、アジア開発銀行は加盟45カ国で2016 ~ 2030年に26.2兆ドル(年平均1.7兆ドル、気候変動要因考慮後)が必要であるとしている。これはあくまでも推計値であるが、膨大なインフラ整備需要が存在することは確かであろう。この資金ギャップを埋めると同時に、リスク・ギャップを埋めること、すなわち、投資リスクを軽減してバンカブルなプロジェクトを増やすことが不可欠である。

民間部門についてみると、従来、プロジェクト・ファイナンスを主に担ってきたのは銀行であるが、規制の制約などから長期融資の拡大は難しくなっており、インフラ・デット・ファンドを組成して機関投資家の資金を導入する動きなどがみられるようになっている。ただし、機関投資家によるインフラ投資の拡大には障害が多い。アジアでは機関投資家の発展が総じて遅れており、今後の育成が期待されるものの、ある程度時間がかかるであろう。そこで、海外投資家に期待せざるを得ないが、アジア地域のソブリン格付けは全般に低く、保守的な機関投資家の投資を呼び込むことは難しい。債券市場の未整備から、プロジェクト・ボンドの発行があまりみられないという問題もある。これらの問題を克服するためには、公的保証の実施や金融システム整備への注力などが求められる。

このように、民間部門が単独でアジア向けのインフラ投資を拡大することは容易ではなく、公的部門の役割が不可欠である。具体的には、公的支出の拡大、インフラ整備の効率化、PPP制度の改善、投資リスク軽減のための努力などがあげられ。投資リスクの軽減においては、公的部門を中心とする保証・保険が大きな役割を果たす。特に、アジアのインフラ整備においては、域内諸国の政府による保証のみでは不十分な場合もあるとみられ、国際開発金融機関(MDBs)の関与を拡大することが重要と考えられる。

中国の一帯一路構想(BRI)に基づく投資はアジアのインフラ資金ギャップを縮小させる可能性があるが、一方で中国からの借り入れによって公的債務の返済が困難となるなど、多様な問題も指摘されている。こうした状況では、投資の受入国は経済発展戦略に基づくインフラ整備戦略を確立し、それを前提としてプロジェクトの必要性や契約内容を精査したうえで、BRIによる投資を受け入れる必要があろう。また、日本の「質の高いインフラ投資」の国際スタンダード化に向けた努力や第三国でのプロジェクトにおける中国との連携などが、BRIに基づく投資をより有効なものとするために重要な役割を果たすことが期待される。さらに、日本の機関投資家の資金をアジアのインフラ整備に生かすために日本貿易保険(NEXI)によるインフラ・ファンド保険の取り組みを推進することや、アジア債券市場育成イニシアティブ(ABMI)(特にプロジェクト・ボンドやグリーン・ボンドの発行促進)を強化することも不可欠であろう。

アジアにおけるインフラ・ファイナンスの拡大に向けた官民の課題-一帯一路構想、「質の高いインフラ投資」に関する考察を含めて(PDF:898KB)
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