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リサーチ・フォーカス No.2019-028

【<<人生100年時代の高齢者の身元保証を考える No.1>>】
急がれる医療同意に関する法制度の構築-身元保証人によらずとも患者の意思を反映できる制度に

2019年11月05日 星貴子


2040 年には、身寄りから身元保証人を立てることの難しい高齢者が1,000 万人に上ると見込まれる。「人生100 年時代の高齢者の身元保証を考える」シリーズでは、そうした人たちが、不利益を被らず、安心して自立した生活を送ることができる社会システムの構築を目指し、現行の「ヒト」に依存する身元保証制度に代わる、新たな仕組みを検討している。シリーズ第2 弾となる本稿では、各論として、身元保証人(本シリーズでは、「保証人」や「身元引受人」などの呼称を「身元保証人」という呼称に統一)に求められる四つの役割である債務保証、医療同意(医療行為に対する同意や拒否の意思表示)、扶養、死後対応のなかで、大きな精神的負担が課されるにもかかわらず、国としての取り組みが緩慢な「医療同意」について考察する。

根強い「医療同意は身元保証人の役割」との認識、ただし基準は曖昧
医療行為には患者本人の同意が必要であるが、本人の意思が確認できない場合、事後的な訴訟リスクを避けるため、親族や身元保証人から同意を得ることが慣行化している。厚生労働省によれば、医療機関の3 割、介護施設の7 割が「医療同意」を身元保証人の役割として挙げている。ただし、わが国では、医療同意に関する法制度が整備されていないため、第三者による同意代行に関して、明確な基準を設けていない医療機関は6 割に上る。基準があっても医療スタッフに周知徹底されている医療機関は少なく、「いつ、誰に、どのような形で同意を求めるか」その場その場で対応しているというのが実情である。

本人の意思の尊重と最善の利益を基本とする欧米の法制度
欧米、なかでもイギリスやドイツでは、本人の意思の尊重と最善の利益(ベスト・インタレスト)を基本とし、本人が作成した医療行為に関する事前指示書が最優先され、本人の意思決定能力が欠如していると法的に判断された場合に限り、第三者に同意代理が認められる。しかも、代理権者は本人による指定者と法的代理人に限定され、家族というだけでは代理権者になれないうえ、手術や延命治療といった本人への影響の大きい(侵襲性の高い)医療行為については法的機関の許可が必要であるなど、同意代理権の乱用防止が図られている。

曖昧さが残る厚生労働省の指針
厚生労働省は、2007 年5 月に、医療従事者向けに終末期にある患者の医療方針決定プロセスに関する指針を策定したが、内容をみると、医療方針決定のアウトラインを示すにとどまっている。本人の意思決定能力の判定基準や同意代行できる家族の範囲などが曖昧で、医療機関や家族等の裁量に委ねる部分が多い。このことが、明確な基準もなく、親族や身元保証人に医療同意を求める慣行が根付いている要因の一つになっている。

欧米制度を取り入れるも、家族中心主義が残存する法制度案
日本弁護士連合会や成年後見センター・リーガルサポートも、それぞれ法制度案を作成した。いずれも、英独制度に倣い、本人の意思の尊重とベスト・インタレストを基本とし、同意代行者の要件を明確にするとともに、同意代行の乱用を防止するため、独立した機関や公的機関による審査・許可を義務付けている。ただし、親族は自動的に同意代行者となることができるなど、依然、家族中心主義が残存している。こうした状況が続けば、「身寄りを頼れない高齢者1,000万人時代」に対応できず、大きな混乱が生じることが予想される。

本人の意思を尊重した医療同意制度の法制化を
現行の指針や法制度案の課題を踏まえ、英独制度を参考に、意思決定能力の欠如した患者が身寄りがなくても自らの意思を医療行為に反映できる制度として、第三者による医療同意代行を法的に認め、下記の制度・システムを早急に創設することを提案する。

医療同意登録制度
意思決定能力が欠如した場合に備え、本人の自由意思の下で予め侵襲性の高い医療行為に関して諾否の意思表示を健康保険証やマイナンバーに登録する制度。定期的に実施される健康診断や運転免許更新時のほか、入院時や新たな治療が提示された時、治療に対する意思が変わった時など、その都度変更登録する。

医療同意代行制度
本人が指定した者が医療同意を代行する制度。本人の意思決定能力が欠如し、かつ指定同意代行者がいない場合は、医療機関ごとに設置される同意代行組織(各診療科の専門医で構成)が、本人の意思が分かる資料や関係者の意見を基に、医療行為を決定。侵襲性の高い医療行為については、医療同意審査機関(仮称、後述)の審査を受ける。家族・親族といえども、本人の指定がない限り同意代行はできないこととする。なお、医療機関内の同意代行組織は、複数の医療機関が共同で設置したり、医療カンファレンス、倫理審査委員会、医療安全管理委員会といった医療機関内の既存の仕組み、組織を活用することも一案である。

医療同意審査システム
医療行為に対する本人の意思の審査・登録、指定同意代行者の審査・登録、侵襲性の高い医療行為に対する第三者による同意代行の公正性・正当性の審査を行うため、2 次医療圏ごとに国の機関として医療同意審査機関を設置する。政令指定都市、都道府県庁所在地、中核市など2 次医療圏の中核となる自治体に審査機能を委託することも考えられる。医学的観点に加え、法律的観点、社会倫理的観点から審査する必要があるため、機関内に、医療や介護のみならず、法律の専門家や学識経験者で構成される審査委員会を設けることが望ましい。

急がれる医療同意に関する法制度の構築-身元保証人によらずとも患者の意思を反映できる制度に(PDF:1031KB)
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