足元で企業の研究開発費が堅調に増加している。とりわけ2019 年度は、企業の研究開発費の大半を占める製造業の景況感が大きく悪化しているにも関わらず、研究開発費の計画は前年度比+6.9%と2007 年度以来の高い伸びを見込んでいる。
この背景として、デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展で大きな環境変化が見込まれるなか、企業がAI やIoT などの先端デジタル技術に関連する研究開発を積極化していることが指摘できる。こうした動きから、長年縮小が続いた情報通信(IT)分野の研究開発費は2016 年度から増加に転じ、輸送用機械や工作機械など幅広い業種で積極的な投資がみられる。また、DX が浸透していくなかで、これまで低調だった非製造業の研究開発費やオープンイノベーションが顕著に増加している点も特徴的である。
先行きも、研究開発費の増加は当面続く見込みである。環境変化に対する危機意識が強い企業ほど研究開発費を増加させる傾向にあることを踏まえれば、DX がより多くの業界に浸透し事業環境が変化していくなかで、企業は生き残るために研究開発をより積極化していくと予想される。
こうした研究開発費の増加は、設備投資増加という直接的な効果だけでGDP 成長率を年率0.1%ポイント強押し上げるとみられるほか、全要素生産性の改善という間接的効果も含めれば、GDP の押し上げ効果は0.3%ポイント程度まで上振れる可能性がある。潜在成長率が1%弱とされるわが国にとって、重要な成長エンジンになるといえよう。
ただし長期的には、DX による環境変化にわが国企業が対応できなければ、競争力を喪失し研究開発費を負担できなくなるという悪循環に陥る可能性も否定できない。足元で増加する研究開発費を着実に成果に結び付けていくことが重要である。
・DX関連で拡大が期待される研究開発投資-わが国景気の下支え役に(PDF:518KB)
