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JRIレビュー Vol.11,No.72

介護保険制度の見直しに必要な視点ー施設給付を中心に

2019年12月10日 飛田英子


介護保険制度創設から20年目を迎えた。政府は「施設から居宅へ」を基本方針としてきたが、近年、介護施設の供給増や新たな類型の介護施設の創設など、居宅重視に矛盾する動きがみられる。もっとも、現行の施設サービスにはコストや公平性の面で問題が多いことを考えると、こうした動きは介護保険制度にとって望ましいのであろうか。そこで、本稿では、施設給付の問題を整理し、海外の取り組みを概観したうえで、施設給付を中心に介護保険制度の見直しに必要な視点を考察する。

施設給付の問題として、まず、居宅サービス利用者との間の負担の格差が指摘される。例えば要介護度5の者が老人福祉施設(特養)と同程度の介護を居宅で受ける場合、特養入所者の2倍近い費用が必要になる。入所者に補足給付が適用される場合、格差はさらに拡大する。ここで、補足給付とは、低所得者に対して原則自己負担の食費・居住費を減免する仕組みである。
また、必ずしも快適とはいえない入所者の生活環境も問題である。終の棲家でもある特養では、入所者の4割以上がカーテンなどで仕切られた四人部屋で生活しており、トイレの設置も部屋毎とは限らない。
さらに、相対的に高コストな施設サービスの利用拡大は財政を大きく圧迫するというコストの問題も無視できない。現状を放置した場合、2050年度には65歳以上保険料が月19,400円と、現在(5,869円)の3倍以上に膨らむ見通しである。このような負担が持続可能か、疑問に感じざるを得ない。

海外の取り組みをみると、ドイツでは、施設入所者に相応の負担を求める一方、家族介護の対価でもある現金給付を認めて居宅サービスの魅力度を高めることで、結果的に居宅優先が実現している。
ちなみに、最も重度の要介護者についてドイツとわが国の施設入所者の利用者負担を比較すると、わが国の10万円程度に比べてドイツでは17万円近くに達する。食費・居住費はわが国より月1万円安いものの、保険に係る自己負担が実質24%と高いためである。
一方、デンマークでは、高齢者福祉において脱施設化が展開されている。施設における集団的な処遇は入所者の生活レベルを引き下げる、施設で提供される全面的なサポートは、自己決定能力を含め高齢者の状態を悪化させる等、施設中心の政策には多くの問題が指摘されていた。そこで、同国では1988年に介護施設の新規建設禁止に踏み切った。代わりに良質な高齢者住宅を整備すると同時に、24時間体制の居宅ケアを確保することで、要介護状態になっても自宅で生活を続けるという環境が整備されている。

以上を踏まえて、わが国の介護保険制度の見直しに必要な視点を施設給付中心に考察すると、以下の通りである。
第1は、補足給付の廃止と施設利用者の自己負担の引き上げである。食と住に係るコストを補てんする補足給付は、最低限の生活を保障する生活保護そのものである。早急に介護保険制度から移管すべきである。一方、施設利用者については、自己負担を原則1割から2割に引き上げる(一定以上所得者は2~3割で据え置き)。居宅利用者との負担の格差を是正するとともに、施設入所者に適切なコスト意識を付与することで、根強い施設志向に歯止めをかけることが期待される。
第2は、高齢者住宅の整備である。介護施設の供給増にはコスト的に限界があり、かつ、高齢者の生活環境にとっても望ましくないことを踏まえると、重度の要介護状態になった場合でも生活を続けることのできる高齢者住宅の供給を促進する必要がある。
第3は、現金給付導入の再検討である。現金給付については、介護者を介護に縛り付けるなどの理由で見送られた経緯がある。もっとも、現在でも毎年介護離職者が10万人発生していることを考えると、家族介護に対する評価という観点からも現金給付の導入を検討すべきではなかろうか。
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