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医療機器「電子マーケティング」中国で先行させ国内で展開を

2019年06月01日 川崎真規


上海の大衆食堂では注文から決済までスマホで完結
 スマートフォンを使ったインターネット利用率は、日本・中国とも6歳以上人口の約6割(2017年)に上る(※1、2)など、両国はおおむね同等の状況にある。
 ただし、「使い方」は日中間で大きく異なり、端的に言うと、中国の方がスマートフォンの機能を最大限に生かそうとしている。例えば、今、上海の大衆食堂では、テーブルにメニューを置かず、代わりにQRコードをテーブルに貼ってあるだけの店が急増している。客が自身のスマートフォンをQRコードにかざすとメニューが画面に表示され、注文・決済はそこから行う仕組みとなっている。店員とは、食事を運んでくるときまで基本的には顔を合わさない。客同士の「割り勘」も、各自のスマートフォン間で電子的に済んでしまう。

最新医療情報はスマホから
 筆者は今春まで10年間にわたり現地でコンサルティングに従事してきたが、特にここ2年のスマートフォンを使ったサービスの進化の速さは凄まじく、それに合わせて中国人の行動様式も目に見えて変化していることを体感してきた。
 そのなかで医療関係者の情報収集活動も大きく変わってきている。例えば、中国の消化器内科医(規模・技術とも最上位に位置する“3級病院”所属)300名を対象とした日本総研の調査(2019年)では、スマートフォンアプリから医療の最新情報を得ている中国医師は全体の約8割に上った。
 彼らは医療情報アプリ上で活発に情報交換を行っている。例えば、手技動画が料理レシピのように多数投稿されているが、それらは一種の広告としても機能しており、一般の方が見られるものも少なくない。また、医療機器メーカーによる機器操作の説明動画や、著名な医師・病院による有料の講義動画も掲載されている。
 前述の調査では、医療機器メーカーに期待する学術支援内容として約9割が「国内研修」を挙げ、「海外研修」「最新情報提供」を上回り最も多かった。これは、中国の医療関係者が、情報自体は医療情報アプリから多く得られている一方、医師の既存の検査・手技の技術向上に向けた取り組みや、他の医師、特に経験・技術をもつ医師とのネットワークづくりなどを進めたいことからのニーズと考えられる。

先進市場・中国での知見を日本で展開する仕組みを
 5年ほど前、中国の医療機器メーカーからコンサルティングの相談を受けることが多かったテーマは、診療科別の病院データベースの整備のほか、診療報酬価格と入札情報、そして医療機器商物流政策に関する情報収集と影響分析などであった。これらは、日本本社で既に行われてきたことの展開、あるいは応用の施策と言えた。
 しかし、現在のテーマは、むしろ日本の先を行っており、現地で独自に行う情報収集やマーケティングの機能強化が必須となってきた。当然、先進的な企業では、既にそのための体制づくりに取り組んでいる。日本総研の調査でも、在中のある欧米企業の医療機器事業(300名程度)において、数名単位の「電子マーケティング部門」が2018年には設置されていたことが明らかとなっている。
 電子マーケティング部門は、ブログやSNS、動画共有サイトなどのソーシャルメディアを対象とした専門部門であり、市場全体や病院顧客に発信するコンテンツの企画・制作、また、政府機関、競合他社、病院、医師によるソーシャルメディアの発信内容の分析などを行う。現在のソーシャルメディアの活況ぶりをみれば、今後、電子マーケティング部門は他のメーカーでも設置が進められるはずである。
 ただし、今のところ、日本の医療機器メーカーにおけるソーシャルメディアの活用や分析はあまり進んでいない。総務省の平成29年通信利用動向調査によると、ソーシャルメディアを比較的よく活用している「不動産業」(46.2%)や「情報通信業」(40.8%)と比べ、「製造業」(19.1%)は低い。特に病院向け医療機器は消費財ではないうえ、医療政策上の規制からさらに割合が低いと考えられる。こうした日本の国内市場と同じ感覚で中国市場に臨み続けると、中国の医療関係者からの支持を失っていく恐れがある。
 中国の医療機器市場は、規模だけでなく、企業のマーケティング機能においても、将来的には世界をリードする市場になり得る。ソーシャルメディアへの対応含め、中国市場でのマーケティング機能を強化し、そこでの知見を日本市場へ還元・活用していく仕組みづくりを、全社的に検討すべきと考える。

※1 総務省「平成29年通信利用動向調査」
※2 中国互連網絡信息中心「第43次中国互連網絡発展状況統計報告」

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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