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地方公共交通にキャッシュレス決済は普及するか

2019年10月08日 水澤 杏奈


 「フィンテック」、「キャッシュレス決済」をはじめ、近頃、「金融のデジタル化」に関する言葉が世間をにぎわせている。特にキャッシュレス決済は、スマートフォンを使ったQRコード決済の広がりや消費増税に伴うポイント還元策など話題が尽きない。都市部であれば、鉄道やバスの利用から日常の買い物まであらゆるシーンでキャッシュレス決済が利用でき、現金を使わずに一日を過ごすことも可能となってきており、利便性を感じ積極的にキャッシュレス決済を利用している方も少なくはないと思う。最近では、完全キャッシュレス対応のレストランやスポーツのスタジアムも登場しているという。

 それでは、地方部ではどうだろうか。主要鉄道駅やコンビニエンスストアなどの全国チェーンではキャッシュレス決済対応が完了しているが、路線バスや個人商店では未だに対応していないことが多い。とりわけ交通の分野では、都市部のようにICカード型の乗車券がどこでも使えるわけではなく、依然、現金決済のみ対応している事例が多い。国土交通省が今年の3月に発表した「都市と地方の新たなモビリティサービス懇談会 中間とりまとめ」によると交通サービスのキャッシュレス化には決済システムと乗車確認手段の両者が必要だが、特に地方部のバス・旅客船舶事業者等、中小の交通事業者には大きな負担となっていると指摘されている。

 果たして、地方の公共交通にキャッシュレス決済は、今後、普及するのだろうか。地方のバス事業者の約8割が赤字である等、地方の公共交通事業を取り巻く厳しい現状を鑑みると、一気に普及するのは簡単ではないだろう。他方、政府が2025年までにキャッシュレス比率を40%に高める目標を掲げるなど、キャッシュレス決済の大きな波は確実に押し寄せている。今後キャッシュレス決済導入を検討する際のポイントを考えてみよう。

 そもそもキャッシュレス決済導入のメリットは、事業者側と利用者側の双方にもたらされる。事業者側では、生産性の向上とデジタル化による利用者データの利活用が期待できる。特に、昨今問題になっている運転手不足に対する対応策の一つとなるかも知れない。ただし、交通事業者がメリットを期待し満を持してキャッシュレスを導入しても利用者に使ってもらわないと意味がない。利用者側のメリットがはっきりすることが鍵となろう。そこでのポイントは、地域に根ざした決済手段の導入であると思う。

 こんな事例がある。北海道のとある自治体で路線バスを運行する複数の交通事業者が、キャッシュレス決済手段として、地域の主要商業施設が発行している電子マネー決済を導入した。もともと、その地域に当該電子マネーを保有している人が多く存在していたことに目を付けた事例だが、地域に根ざした利用者目線でのキャッシュレス決済導入の好事例であるといえよう。このように交通事業へのキャッシュレス決済導入は、いわゆる交通系のICカードの導入だけが選択肢なのではない。たとえば、場所を問わずチャージができるスマートフォンを利用した決済の導入を検討しても良いかも知れない。スマートフォン決済もQRコードを利用した決済や最近ではBluetoothを使った決済も登場しており、それらの決済手段はICカード対応の決済端末に比べ安価に導入できる可能性もある。

 また、キャッシュレス決済普及のためには、交通利用の主要な目的地である商業施設等で同様の決済手段が使えるようにするなど地域全体で検討すれば、交通事業者の負担が軽減されるだけでなく、まち全体の経済活性化も目指せるかもしれない。たとえば、キャッシュレス決済未導入の個人商店と交通をセットにして自治体のキャッシュレス政策を構築する手法もある。特に、地域公共交通では自治体等の関係者が出席する協議会等が設置されている場合もあり、そのような場所でキャッシュレス決済導入の検討を実施しても良いかも知れない。地方公共交通へのキャッシュレス決済の導入には、交通事業者だけではなく地域が一丸となって利用方法を検討する視点が欠かせないのである。


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※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。


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