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SexyかつSteadyに ~ 2つの「S」で挑む気候変動

2019年10月08日 新美陽大


 昨年、2018年は「災」の一年だった。その傷跡が癒える間もなく、今年もまた、全国各地で大雨や台風などによる被害が、立て続けに発生している。

 8月下旬、佐賀県など九州北部では、集中豪雨により広範囲に亘る浸水害が発生した。なかでも、佐賀県大町町では工場から大量の油が流出し、農業・水産業への二次被害が拡大することとなった。また、9月上旬には台風15号が上陸し、関東・東海地方は暴風・大雨に見舞われた。台風が直撃した千葉県は、暴風による送配電設備の損傷に加え、倒木による復旧作業の難航も加わり、広範囲かつ長期間の停電が続くこととなった。これらの地域を含め、今も生活に深刻な影響が残る地域の方々には、一日も早く従前の生活を取り戻すことができるよう祈念するばかりだ。

 さらに、世界に目を向けても、自然災害による被害のニュースが、あちらこちらから伝わってくる。ヨーロッパの熱波、インドの大雨、カリブ海のハリケーンなど、今年に入ってからの被害を辿るだけでも、枚挙に暇がない。

 そうしたなか、9月23日にはニューヨークで「国連気候行動サミット」が開催された。国内の報道では、就任間もない小泉環境大臣の「気候変動のような大きな問題に取り組むには、楽しく(fun)、クール(cool)に、そしてセクシー(sexy)であるべきだ」という発言や、スウェーデンの高校生グレタ・トゥンベリさんが「よくもそんなことを(How dare you?)」を4回も繰り返した演説などが、センセーショナルに取り上げられた。それぞれの発言については賛否両論を巻き起こしたが、これをきっかけにサミットの開催が世間により知られ、気候変動に対する関心を一層高めることにつながったとあえて前向きに捉えたい。

 ところで、グレタさんも演説で強調していた「気候変動に関する『科学的』分析」が、足元、相次いで公表されている。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、昨年の「1.5℃特別報告書」に続き、今年に入って2つの報告書を公開した。このうち8月に公開された「土地関係特別報告書」は、気候変動と農業を中心とした土地利用との関係に着目し、世界の温室効果ガス排出量の21~37%が食料に関連することや、気候変動の影響を受け、穀物価格が2050年までに最大23%上昇するリスクなどを指摘している。もうひとつ、9月に公開された「海洋・雪氷圏特別報告書」では、現在のペースで気候変動が進めば、2100年には最大で1メートルの海面上昇が起こる可能性があることや、海水温の上昇によって漁獲量が最大20〜25%減少するリスクなどが示された。

 いずれの報告書も、世界各国の100人を超える専門家が議論を重ねてまとめ上げた「科学的分析」による予測である。将来についての予測である以上、地球温暖化や気候変動の事実に関し、未だ議論が尽きないのは致し方ない。誰しも、将来についての確定的な情報は持ち得ないからだ。しかし、我々人間が「起こるかもしれない」リスクを予見できるツールを手にしていることは確かであり、あとはリスクに対してどのように対処すべきか、が気候変動に対する姿勢の本質であると考える。

 そのような観点から、小泉大臣とグレタさんの発言を改めて眺めると、共通項も見出しうる。二人の発言に共通するのは、いずれも若者の行動がカギを握るということだ。

 気候変動対策は「緩和」と「適応」とに分類される。このうち、温室効果ガスそのものを削減する「緩和」については、人間社会が協力一致して取り組むことが重要だ。そのためには、世界の若者を惹き付けるような、魅力に溢れた(Sexy)技術開発や行動変革が、社会全体を動かすうねりや革新性に繋がる。もう一方、気候変動が進んだ際の対応策として「適応」については、科学的知見に基づいて議論を重ね、着実に(Steady)検討を進めておく必要がある。もちろん議論を牽引する担い手は、将来の気候変動に真正面から立ち向かう若者であるべきだ。

 気候変動問題の解決には、何らかの特効薬がある訳ではない。「緩和」と「適応」、SexyとSteady、様々な側面から対策を次々と繰り出すことが、私たちの将来のリスクを最小化するための、唯一にして最善の策なのだ。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

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