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中国内陸部の発展と課題

2019年09月25日 程塚正史


 2019年7月、中国政府の高等研究機関である中国社会科学院の招きで、中国内陸部の甘粛省各地を訪問した。これは、日本の外務省および日中友好会館の尽力によって実現した両国間の若手研究者の交流を図る取り組みの一環として行われたもので、甘粛省訪問前には北京において中国側研究者や党・政府の方々とも意見交換の場を持たせていただいた。

 日本で暮らしていて、甘粛省と聞いてピンと来る人は多くはないだろう。中国に住んでいた経験があり、現在も頻繁に北京や上海などを行き来している筆者自身も、甘粛省に行く機会は今回が初めてだった。ホスト役の社会科学院は、日本の研究者に内陸部を視察してもらうのは「総合的な中国のイメージをつかんでもらうため」だと説明してくれた。沿岸部を中心に中国は急速な発展を遂げているが、内陸部は状況が違うという側面を共有したいとのことだった。

 実際、甘粛省の各都市や農村を訪問すると、大都市では見られない課題、むしろ日本の地方と共通するような悩みがあることが感じられた。本稿では、その際の気付きについて一部レポートしたい。なお、ここでの内容はあくまで視察から得られた印象であって、一部正確性に欠ける恐れがあることをご容赦いただきたい。

 甘粛省は、中国の所得水準ランキングで、チベット自治区、ウイグル自治区、貴州省に次いで貧しい地域だ。東西に細長く、洛陽から西、ウイグルより東のシルクロード沿線を管轄している。今回の視察では、省都の蘭州市、その隣の武威市、そこから800km北西に向かって、万里の長城の西端でもある嘉ヨク関市や酒泉市、およびそれぞれの周辺地域を訪問した。

 第一印象として、従来抱いていた内陸都市のイメージよりも整備の進んだ街というのが正直な驚きだった。各種インフラは、すでにかなり整備されている状況と感じられた。道路インフラや街区整理については、かなりの地方都市である武威市や酒泉市、嘉ヨク関市などでも、少なくとも表通りの見た目としては大都市と遜色ない様子といえた。蘭州市の黄河のほとりに立つ高層ビルのネオンは香港のようだった。通信インフラも2020~21年には5Gが整備予定とのことだった。風力発電の適地でもあり、郊外の砂漠には至る所に大規模風力発電施設や高圧線網が見られた。

 訪問先では、各種の産業振興策が相当に講じられていることも感じ取れた。農業は、厳しい乾燥に負けない生育施設や設備が導入されつつあり、むしろ過酷な条件を活かした糖度の高い果実の生産に成功し始めているようだった。農村周辺では深刻な砂漠化への対策も数十年かけて着実に進み、貯水池や水路の確保に成功する地域が増え始めていた。鉄鋼事業者など大手国営企業は、地場製品の育成、例えばワインの高品質化への取り組みを進めていた。遺跡を活かした観光産業も近年伸びつつある様子だった。

 このように、インフラの整備、一次産業の振興、二次から三次産業への転換が同時進行で起きている様子がうかがえた。外国からの訪問者に対してという特殊要因を割り引いたとしても、政府、企業、農地等の関係者それぞれが、前向きに力強く近い将来の目標や夢を語っていたのが印象的だった。

 一方、もちろん全てがバラ色の未来というわけではなく、様々な不安材料も散見された。道路インフラは整然と整備されてはいたが、将来の需要増を見越した整備であり、公共投資による経済振興の先食いという感もあった。鉄鋼事業者などは次世代の事業を模索しているが、逆に言えばそれは鉄鋼がすでに生産調整を受けるほどの斜陽産業だからであり、代替事業の発掘が急務という面もあると思われた。鉄に代わる事業が育たなければ、都市が丸ごと沈没する恐れも感じ取れた。このような構造転換は、日本含め多くの先進国の地方部がかつて経験したことだろう。

 紙幅の関係で書ききれないことが多々あるが、以上が甘粛省という中国の地方部を訪問しての大まかな所感となる。今後どのような経緯をたどるのか、引き続き注視したいと同時に、ここで得られた身体的な感覚を、日本企業はじめ多くの方々の事業機会につながるよう努めてみたい。

 今回は短期間で、中国の中央、省、市、鎮といった各級政府や企業の方々と情報交換することができたのは貴重な経験であった。末筆で恐縮ながら、視察を受け入れてくださった皆さん、何より複雑な行程をご調整いただいた中国社会科学院、日中友好会館の皆さんに、心より謝意を表したい。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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