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リサーチ・レポート No.2019-010

ポイント経済化について-マクロ経済や金融システムへのインプリケーションを探る-

2019年09月25日 翁百合


わが国の企業によるポイント発行額は徐々に増加し1兆円程度とみられる。ここで言うポイントとは、「企業が発行する証票(トークン)で、消費者に将来自社の商品やサービスを購入すれば値引き価格で購入できることを約束する」ものを指す。個々の企業のポイント会員数も急増し、多くの消費者が日常的にポイントの発行を受けている。自社の商品やサービスの将来の値引きを約束する基本設計の「個社発行ポイント」に加えて、多くの加盟店を擁する「プラットフォーマー型企業発行ポイント」が増えてきており、後者のうち、最近はキャッシュレス決済手段の浸透のため、大々的にポイント還元を活用した戦略をとる企業が目立つ。後者の場合、キャッシュレス決済手段にポイントが組み込まれ、現金利用に比較した優位性が出てきており、キャッシュレス化に寄与している。

ポイントは、もともと企業が個社の商品やサービスの将来の購入の値引きを約束することにより、顧客のスイッチングコストを高くして、競合企業から自社に囲い込み(ロックイン)しようという企業の戦略として用いられている。最近の「プラットフォーマー型企業発行ポイント」は、できるだけ多くの顧客を会員とし、多数の加盟店を擁する自社プラットフォームを急速に拡大することに活用されている。

ポイント経済化はマクロ経済に様々な変化を及ぼしつつある。まず、ポイントが消費にもたらす変化としては、最近のデジタル化の進展により、プラットフォーマー型企業によるポイント付与により、ネットワーク効果の大きいポイント経済圏の確立を目指した競争が起きており、今後ポイント経済圏が複数できていく可能性がある。また、ポイントは、企業が消費者を会員化して購買履歴によるデータを取得し、消費者に合ったマーケティングを行うツールとして使われており、消費のカスタマイズ化が進むトリガーとなり得る。ポイントは行動経済学を生かした設計が工夫されているが、現状きわめて多くの商品、サービスにポイントが付与されており、ポイント経済化により消費者が合理的な行動から乖離する方向に誘導される可能性があることは、今後の消費をみていくうえでの留意点といえるだろう。

物価の側面からみれば、ポイント還元率(通常は1%未満だが、ばらつきがある)の分だけ購買価格は引き下がっているが、統計として公表される物価水準はそれを反映していないことに留意すべきである。また、「個社発行ポイント」による企業の消費者に対するロックイン戦略を考慮すれば、消費者の利用継続によって企業のプライシング行動が変化し、顧客毎にポイント還元額がばらつくかたちで、価格のカスタム化がますます進むであろう。この点からもポイント経済化により、物価指数は消費者の購買価格の実態を表しにくくなることが想定される。

金融システムの観点からみれば、ポイント同士交換ができるようにしてその魅力を高める動きがあるほか、ポイント交換の媒介機能を担うポイントも現れている点が注目される。特に、「プラットフォーマー型企業発行ポイント」は、多くの加盟店を擁し、貨幣類似の一般受容性を持つようになっている。またポイントには現金化が可能なものも多く、投資できる点でも貨幣的要素が強まっている。原理的には、「個社発行ポイント」は、競争相手からのロックインを目的としている以上、すべてのポイントが一般受容性のある共通通貨になる可能性は小さい。一方で、「プラットフォーマー型企業発行ポイント」は、今後も一般受容性を高め疑似貨幣化が進むだろう。現状ではまだ問題は生じていないが、将来的にポイントの発行量が大きくなって貨幣的要素が増していけば、利用者保護やシステム上の問題を及ぼさないか、注視していく必要がある。消費者にとって、ポイントは「おカネ」とは異なる、いわば楽しみのためのトークンと受け止められている側面もあり、ポイント経済化は貨幣の多様化に道を広げるものでもある。

今後デジタル化とともに、顧客のロックインを企図した「個社発行ポイント」と、加盟店を広げて一般受容性を持つ「プラットフォーム企業型ポイント」はともに増加し、ポイント経済化がさらに進む可能性は高い。今後マクロ経済分析、競争上の視点、金融システム上の位置づけなど、多角的な視点から、ポイント経済の動向をデータとして把握し、ウォッチしていく必要がある。

ポイント経済化について(PDF:1,395KB)
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