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CSRを巡る動き:スキルマトリックスの現状と課題

2019年08月01日 ESGリサーチセンター


 今年の株主総会シーズンにおいても、様々な特徴的な変化がありました。スキルマトリックス開示の浸透もその1つです。スキルマトリックスは、取締役会全体におけるジョブディスクリプション(職務明細書)の一覧性を高めるため、取締役およびその候補者が持つスキルを星取表の形で表現したものです。経営に必要な素養・経験を取締役会が網羅していることを投資家に示すために有効なツールとして注目を集めつつあります。幅広い業務をそつなくこなすジェネラリストばかりで取締役会を構成する代わりに、取締役会全体としてバランスを取りながら特定の分野に強みを持つスペシャリストを集めることで、様々なビジネス環境の変化に対して一層柔軟に対応できるという考え方が背景にあります。

 米国では2010年に一部の企業で導入が始まりました。コーポレートガバナンスに関する企業へのエンゲージメントに定評のある、カナダの機関投資家団体Council of Institutional Investors (CII)が2014年2月にスキルマトリックスを推奨して以来、採用企業が増え、2018年にはS&P500採用企業の100社超で導入されました。日本でも2016年に日本取引所グループで導入され、年を追うごとに公表企業数は増加しています。東証1部上場企業で時価総額上位500社のうち、20社がスキルマトリックスを公表しています。もちろん米国の100社超には遠く及びませんが、わずか3年で公表企業数が20倍になっていると考えれば、浸透が進んできたといえるでしょう。

 このようにスキルマトリックスは短期間で多くの企業に普及したものの、その内容には未だ改善の余地が大きいといえます。特にCSRとの関連では取締役に対して要件としているスキル(以下、要求スキル)とマテリアリティ(重要性)分析結果との整合性についても、企業は説明する必要があるでしょう。マテリアリティ分析を通して、企業は、自社およびステークホルダーに対する影響度が大きいCSRテーマを特定し、数多くのCSRテーマの中で特に重要度の高いものに優先的に資源を振り向けることができます。しかし、現状では20社のうち大半の企業で重要度の高いCSRテーマとスキルマトリックスでの要求スキルに乖離が生じています。一例を挙げると、ある企業はマテリアリティ分析の結果、CSRテーマの中で「資源・エネルギーの効率的利用」「気候変動への対応」「製品・サービスの信頼性向上」「人材の育成・開発」「労働安全衛生の推進」を重要と特定しています。しかし、これらの課題を解消するために求められるスキルには、これらが明示的に取り上げられていません。取締役要件としているスキルの中には「国際性・多様性」があり「人材の育成・開発」とやや関連があるようにも見えますが、企業から詳細な説明はなされていません。

 CSRが企業活動に真に統合されていることを示すのであれば、来年の株主総会までにマテリアリティ分析結果と要求スキルとの乖離を縮小できるよう、取締役会で検討を進めることが得策だといえるでしょう。
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