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日本総研ニュースレター 2018年9月号

日本企業がIoTで成果を出す2つのポイント

2018年09月01日 木通秀樹


IoTの波に乗り切れない日本
 IoTの本格的な普及が始まった2017年はIoT元年と呼ばれるようになった。モノづくりの世界でも導入に取り組む企業数は増加を続け、既に5割を超えている。
 しかし、IoT導入の成果を上げる企業も存在するものの、部分的な改善程度にとどまる企業も多いのが実態である。
 そこでIoTの導入にあたっては、「どのようにして新たな価値を創出するか」、「どのような仕組みを構築するか」という2つのポイントを見直すことが求められる。

ポイント1: どのようにして新たな価値を創出するか
 IoTは活用次第で、様々な価値が創出できる。IoTのステップに応じて3つの類型がある。
 1つ目は、安価になったセンサーでモノの情報を自動収集することで、従来見えなかったものを見えるようにし、新たなソリューションに結び付ける類型である。この類型は、行動改善による継続的効果の確保のためによく使われる。例えば、歯ブラシにジャイロ等を組み込んだスマート歯ブラシでは、子供の歯磨き状態を計測分析するだけでなく、面白いゲームを投入して適切な歯磨きを継続させる。つまり、1つ目の価値は、利用者の後ろにいる顧客である親に対し、「継続性と信頼性の確保」を提供することである。
 2つ目は、工場などで多数の設備や作業者などのPDCAを加速するものである。この類型では、改善によって高い信頼性を確保した上で、データを顧客や関係者と連携させ、従来よりも広い範囲の価値連携を作る。蓄積されたデータで予測をすれば、生産停止による利益損失や機会損失のリスク低減、顧客の販売計画の精度向上も実現できる。このように、2つ目の価値は、工場の設備・運営管理者向けの価値から、経営側の価値に範囲を拡大するというような、「データ連携による範囲拡大と新たな関係構築」である。
 3つ目は、モノ売りから価値自体を提供するサービスに切り替えるものである。航空機用エンジンでは、エンジンを売らずに飛行時間に応じて課金するサービスが提供されるようになった。航空会社に対して故障診断、的確な整備、燃費最小化、最適航路計画などを合わせたサービスを提供することで、整備にリソースを割けないLCCなどからの支持を得ている。この類型ではサービス化がバリューチェーンを変え、市場を変革する新たな価値が創出されることが多い。3つ目の価値は「価値の商品化による市場変革」となる。
 日本では、IoTを現場の改善のツールとしてボトムアップで導入することが多いが、本来は類型に応じて管理体制や事業の見直し等をトップダウンで行うべきであることを、経営層は認識する必要がある。

ポイント2: どのような仕組みを構築するか
 IoTで成功した企業は、IoTの持つ市場変革と市場拡大の構造をうまく利用している。Uberが急速に事業拡大したのは、一般の人が自分の車両を用いて運転手を行うUberXのサービスが大きく貢献している。一般のドライバーの信頼性評価システムを導入したことで、ドライバーの質が向上し、質の高いドライバーが増えると顧客が増え、顧客が増えるとドライバーも増えるという拡大の好循環を作り出した。Uberにとっては車両の投資なしで拡大が可能となる。
 ここには特徴的な2つの構造がある。1つ目は、モノの情報をモニタリングすることで、改善のループが自動的に回る仕組みが生まれることだ。このループの力が強ければ改善は継続し効果は高まる。2つ目は、新たな付加価値を結び付け、自律的に拡大するループである。シェアの奪い合いではく、新たな価値創出で市場を拡大する。
 この際、2つのループは相乗効果を出す。改善のループが継続的に回ることで、そこに価値を拡大する人たちが集まってループが強固になる。また、価値が拡大することでさらに集まる人が増え、改善のループも停滞せずに回り続ける。実は、IoTの最も優れた特徴は、モノとインターネットをうまく連携することで、こうした構造が作りやすいことにある。
 IoTの効果は短期間では測りにくい。IoTで成果を出している企業は、数年の年月をかけてデータを蓄積し、改善と信頼性向上を図っている。経営層が導入をリードし、継続的な取り組みを行った企業は、IoT世代での勝者になることが期待される


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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